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眉間にシワ令嬢の婚約破棄までの72時間――策士王子に搦め捕られるまで  作者: 滝里シエル


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8/8

8 0時間(後編)

 ずっと黙っていたカトリーヌ様が叫び、会場内にこだまする。


「お義兄様と幸せになんて、そんなのキモいですわ! 身体は大丈夫だと言っていますのに過保護ですし、お義兄様が勝手に私に貢いでいるだけですもの。それに私、好きな方がおりますのよー!!」


 彼女の口から、衝撃的な言葉が放たれた。


(……え? カトリーヌ様……)


 彼女の本性に唖然とする。儚げ美少女の皮を被った悪魔だったとは。


「……カ、カト……リーヌ……」


 アルベール様が顔面蒼白になり、その場にへなへなと崩れ落ちていく。今にも屍になりそうだった。


(あー、これはちょっと、同情しますわね……)


 私が二人の様子を見つめていると、手を優しく掴まれた。


「……俺たちは行こうか」


 殿下は私の耳元で囁くと、手を引っ張っていく。私は殿下に引かれるまま、騒然とする会場を後にした。




 外灯が灯る学園のロータリーから、馬車に乗り込む。

 夜風に冷えて腕を擦っていると、ふわりと肩にショールを掛けられた。


「寒い? これをどうぞ」

「あ……、ありがとうございま――!?」


 顔を上げると、殿下が思いの外近くに座っていて、心臓が飛び跳ねる。


「ん? どうしたのかな?」


「え……、あの、と、隣にお座りになられるんですか?」


「そうだよ? 俺と君の仲なんだし、いいよね?」


「私たちの仲と言われましても……、何も……」


 今まで、殿下は親しげに話しかけてはくるが、一定の距離は保っていたはずだ。


「……俺が、君に近づくのは嫌かい?」

 殿下は眉を下げ、私の顔を覗き込んだ。


「え? いえ、決してそのようなことは……っ」

 そう言いかけて、私は言葉を呑み込む。


(どうしてかしら……? 全然、嫌だとは思わないですわ……)


「ローゼ嬢?」


 深い空色の瞳と合うと、あまりの美しさに吸い込まれそうになる。慌てて顔を伏せた。


(こんなに近くなんて、き、緊張……して、変な汗が出てきてしまいますわ……っ)


「ローゼ嬢、どうしたの? こっち向いて?」


 やけに色っぽい声で囁かれるが、私は俯いたまま、ぶんぶんと首を振った。恥ずかしくて顔を上げられない。


「――ふっ、まぁ、いいや。ところで、この書類だけど、確認してくれるかな? クラヴィス侯爵には、君の留学についても許可をもらったよ」


 バサッと書類の束を渡される。話題が変わってほっとしつつ書類を確認すると、それは先日に殿下のサロンでサインしたものだった。

 しっかりと父の署名もされている。


 婚約破棄の合意書や、留学申請書、それに他の書類まで。私の知らないうちに、父からの承諾を取り付けてくださったようだ。


「あの……、どうしてここまで、してくださるんですか?」


 たしかに、殿下にはアルベール様の愚痴を聞いてもらったりして、心配をかけたのかもしれない。けれど、そこまでしてくださる義理はないはずなのに。



「そんなの、君が好きだからに決まっているだろう?」


 思いもよらない返事がきて、私の思考が止まってしまう。


(今……、好きって聞こえた……? まさか、そんな……)


 顔を上げると、真剣な瞳が私をとらえて離さない。

 自分の鼓動の音が聞こえるくらいに、高鳴り始める。



「半年前だったかな。君が眉間にシワを寄せて、涙を堪えている姿に目が離せなくなって。気づいたら、君のことばかり考えていたよ。……俺の前では我慢しなくていい。つらい時は泣いてもいいんだよ。まぁ、眉間にシワの君も、そそるんだけどね」


「そそ……っ!? で、殿下……っ!」


 いつものように冗談まじりだったが、優しい表情で見つめられ、涙腺が緩んでしまう。


(……ずっと我慢してきたの。もう涙を流してもいいの……?)


「……ありがとう……ございます……」


 瞳から零れる涙を指で拭い、照れ臭くなって顔を伏せる。

 その時、ふと持っていた書類に目が留まる。


 シルフェード文字で書かれていて、よく理解できないままサインしてしまった書類だ。

 殿下や父の署名もされているが、よく見てみると……。


「ん? この文字って、たしか……結婚とか、そう言う意味だったような……?」

 私はまじまじと書類の文字を眺める。


「あぁ、これはシルフェード王国の婚姻の契約書だね」


「あ、そうなんですね! これが婚姻で、こちらの文字が契約書ってことなんですわね! ……ん? 誰と誰が婚姻を?」


「そんなの、俺と君に決まっているだろう?」


 殿下は満面の笑みを浮かべる。そして、そっと私の耳元へ唇を近づけた。



「ふっ、契約書はちゃんと確認してサインしなくちゃダメだよ? じゃないと、俺みたいな悪いやつに捕まっちゃうからね。分かったかな、ローゼ?」


「……!? な、な、なん……っ!?」


 私はあまりの衝撃に口をパクパクさせるだけで、言葉が出てこない。 


「俺は、狙った獲物は逃さない質(たち)なんでね」


 そう囁いた彼は、最高に“悪い”顔をしていたのだった。



 詐欺師……、いや、策士王子に搦め捕られるまで、0時間――。

 


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

詐欺にはご注意を! 

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― 新着の感想 ―
モラハラ婚約者が勝手に舞い上がっただけでカトリーヌは悪魔といわれる程では無い様な。裏表はありそうだが。
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