3 48時間前(前編)
放課後、ライアス殿下の側近に案内され、私は学園にある王族専用のプライベートサロンへ足を踏み入れる。
優雅にソファへ腰掛けていた殿下は、私の姿を捉えると口の端を吊り上げた。
「あぁ、ローゼ嬢、待っていたよ。どうぞ、こちらへ」
殿下は手を出し、自分の対面に座るように促す。
「失礼したします」
私がソファに腰を下ろすと、側近が素早くティーセットを用意してくれた。
白い湯気が立ちのぼるカップの紅茶は、トレーリア王国では珍しい若草色だった。
「あ……、もしかして、シルフィグリーンの一番摘みの紅茶ですか?」
「さすがローゼ嬢、よく知っているね。君の言う通り、我が国の北部の高原でしか採れない特別な茶葉だよ。是非、味わってみてくれ」
殿下は楽しげに目を細め、カップを勧めてくれる。
「ありがとうございます。いただきます」
シルフィグリーンの茶葉はトレーリアにも流通しているが、一番摘みはとても貴重でなかなか手に入れられる代物ではない。
(一度、飲んでみたかったんですわ……。こんな貴重な紅茶をいただけるなんて……!)
カップを顔に近づけると、スッとした清涼感のある香りが漂う。ゆっくりと口に含む。
「……! おいしいですわ! スッキリとしているのに、深い味わいがして。全身がこの爽やかな香りに包まれるような感じがいたします!」
あまりの美味しさに興奮して語ってしまったが、我に返り口を閉じた。
「……し、失礼いたしました……」
チラリと殿下のほうに視線を送ると、彼は口元に手を当てながら、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
いつも、どこか掴みどころのない笑みの殿下しか知らなかったが、そんな無防備な笑顔で見つめられ、私は慌てて目を逸らした。
(なぜかしら、少し気恥ずかしい……ですわ)
私はカップを置くと、軽く咳払いをする。本来の目的を忘れるところだった。
「あの、殿下。本日はどのようなご用件で、私をここへ呼び出したのですか?」
「あぁ、その前に少し聞きたいことがあるんだが、いいかい?」
殿下が急に真剣な表情を見せたので、私は姿勢を正した。
「は、はい。何でしょうか?」
「……アルベールとのことなんだが、……君はいつまで眉間にシワを寄せて耐えてるつもりなのかな?」
「……え?」
「義妹だといっても、婚約者が自分以外の女性を優先しているのを、見せつけられるわけだろう? 君はこの先も我慢をし続けるつもりなのかい?」
「……そ、れは……」
私は言葉に詰まる。
どう答えればいいのだろう。もうとっくに諦めていたことなのに、改めて問われると言葉が見つからない。
ぎゅっと眉間に力を入れて考えていると、
「そのシワが、奴を思って刻まれたのだと思うと、少し嫉妬してしまうな」
殿下のボソッと呟く声が聞こえた。
「……殿下」
私は眉間に手を当て、シワを隠した。
「やっぱり、このシワ……目立ちますかしら……?」
「……ん?」
「これでも毎晩、シワに効くといわれる軟膏を塗って伸ばしているのですが、なかなか治らなくて……」
私はシワを擦りながら、顔を伏せる。
「……ふっ、あははっ」
殿下が突然吹き出し、笑い出した。
「で、殿下!?」
「すまない、レディに失礼なことを言ったな。そんなに気にすることはない。そのシワも君のチャームポイントだ。とても可愛いよ」
「か……っ、かわ!? また殿下はそうやって、人をからかうようなことをおっしゃって!」
殿下は、焦っている私を面白そうに見つめている。
(また、からかわれてしまったわ……)
両手で頬を触ると燃えるように熱かった。
「ところでローゼ嬢、そろそろ本題に入るけどいいかな? 君に見せたい物があるんだ」
殿下が指示をすると、側近がテーブルの上に布のようなものを置いた。
私はそれに目を奪われる。
「こ……、これは……っ!」




