第四十話
〈スライム〉の話をしよう。
ノボル「あぁッッッ?!!そっち行ったぞ!!!」
タチアナ「うあああ!黒くて平たいバッタわァァあ!跳ねるゴキブリィィィィ!!!」
ヨシミ「タチアナ!落ち着きなさい!アナタが羽撃いたらっッッあぁッッッ!!!」
〈スゥ〉は草、〈ラゥ〉は自然、〈イゥ〉は食べる、吸収する、〈ムゥ〉は這う。
マリ「タチアナッッッ!!!落ち着いてぇあぁッッッ!!!散ってる!散ってる!ばら撒いてるよッッッ!!」
私達は鬱蒼とした大森林の中、岩の上を駆ける。
細長く続く岩場は、溶けて固まったものの様だ。火山岩だろうか。
そんな中、タチアナのパニック暴挙によって散布される黒い地獄。
こんな時はそう、関係無い事を考えるのだ。
〈スライム〉は恐らく、生物ではない。
ミユズ「タチアナ様あぁッッッ!!!羽撃くのをお止め下さいィィィアアアッッッ!!!」
赤だろうが白だろうが黒だろうが、どんな色の〈マセキ〉であろうと、自然下の水場に放置すると、〈スライム〉になるぁああぁッッッ!!背中に乗ったぁああぁぁ!!!
ノボル「ユミルテメェッッッ!!!転がんなッッッあぁッッッ!!!」
ウェン・ディ『うわあああぁアアアッッッ!!!』
リュウ「・・・カオスだ・・・」
ネム「・・・どうしよう・・・」
もうメッチャクチャだクソッタレ!!!
ミユズ「うぅおおっとおおおぉぉ!!!気を付けて下さい!〈ジャンムゥ〉です!!!
コレが居るという事は足場が悪くなっているハズです!」
ノボル「出やがったな〈ヨロイデカミミズ〉!!!」
リュウ『気を付けてねみんな〜!この辺多分落とし穴だらけだよ〜!』
・・・いやいや落ち着けユミル、不快なだけだ。
〈アシナガゴキブリ〉は樹液とか果実とか貝とかしか食わねえ。〈ヨロイデカミミズ〉は丸呑みしかしねえ、アイツは十数センチ位のものまでしか丸呑みに出来ねえ。
ウェン・ディ『ふあッッッ?!!』
足を取られるウェン・ディをリュウが支える。
リュウ『気を付けて走ろうね。』
ウェン・ディ『申し訳ありません!!!』
そう、実害は無いのだ。
実害の無い苦しみなど時間経過で解決する。
ただ耐えれば良いのだ。
ヨシミ「もうッッ!!無理ッッッ!!!」
ノボル「ヨシミさん?!あぁ!もう!足場悪い所で急に加速ヤメてッッッ!!!」
ヨシミ「タチアナ!!掴まりなさい!!!」
?!あぁッ?!ヨシミさんまさか?!
号泣タチアナは翼を開いたままヨシミの尾に掴まっている。
ヨシミ「行くわよ!!!」
そのままヨシミさんは飛び立った。
タチアナが翼を開いたままにしており、いつもより素早く空へと舞い上がる。
そうか、ヨシミさんが羽撃いて揚力と推進力、開かれたタチアナの翼が揚力を手伝っている?
周囲で危険生物〈悪臭カマドウマ〉を狩っていた〈ファントム〉達もこれに続く。
トウジ「・・・なるほど。マリ!!」
マリ「オッケー!」
マリはトウジの背に飛び乗り、トウジは走り出す。
十分に加速してからタイミングを合わせて、トウジは力強く飛行を開始、マリはトウジの尾を掴み翼を開く。
トウジ「これならッッ!!飛べるッッッ!!!」
トウジとマリもヨシミ達に続くッッてか逃げやがったなゲス竜共ッッッ!!!
ノボル「あぁ?!!逃げたんか?!!アイツ等!!!逃げやがった!!!飛んで逃げる気だ!!!ブハアッッッ!!!」
走っていたリケイが急にが立ち止まった。
・・・様子がおかしい。
ノボル「なんだよ?!!急に止まんな!!!顔面からぶつかっちまったろうが!!!」
リケイは土の地面に降り、自身の尾の先端の黒い鱗部分を地面に突き刺した。
ノボル「ちょっッッッ?!!」
リュウ「ちょっと待って!リケイさん待って!!」
・・・やる気だ。
リュウ『全員離れて!!!〈セイケン〉持ちは木を盾にして地面に突き立てて!!!他はその後ろに待機!!!』
リケイ「ーーーーーーーーーーー!!!」
獣の咆哮が上がると共に、リケイの尾から背中、肩にかけて、目に見える程の放電が始まる。
この放電は半径十メートル程に及び、これによって多数の虫共は感電して地に伏せる。
リケイ「ーーー!!!!!!」
再度の咆哮と同時、リケイの尾が突き刺さった地面を中心に、爆発が起こった。
土煙と共に巻き上げられた葉や塵が、はらはらと舞い落ちる。
直径五メートル程のクレーターが出来ている。
付近の虫共はどうやら駆逐出来た様だ。
オーバーキルが過ぎる気もするが。
・・・爆発は必要だったか?
ノボル「ッッッあっぶねぇな!!!やるなら伝えてからやってくれ!!頼むから!!!」
リケイは地面に文字を刻む。
[限界だった。もう無理だ。家に帰ろう。]
ノボル「ッッッンン何一つ実害無ぇクセしやがって何言ってやがる!!!最強の腰抜け枠はロディアネーサンだけで充分なんだよ!!!」
リュウ「そーいや虫苦手だよね、昔から。その身体でもダメなんか。」
ノボル「ってかなんで爆発すんだよ?!
地面に電気流したからって爆発なんかしねーんだよ!!余程じゃねー限り!!!どんだけ力んでんだ!!!」
リュウ「・・・そーいやそうか。なんで爆発するんだろ?高圧電線とか超えてるって事?」
そんなゴタゴタの中、ネムが行動を起こす。
ミユズ「?ネムさん?」
ミユズからニャフンを奪い取り、そのままシンガの背に飛び乗った。
私とネムとシンガはアイコンタクトを取る。よくやった、行け。
シンガはネムとニャフンを背に乗せ、眷属達と共にヨシミ達の下へと羽撃く。
ノボル「あぁ?!また逃げた?!」
よし、次は私だ。おいノボルテメェ足を掴むんじゃねぇ。
ノボル「おいユミルテメェ逃げんなコラ!」
知るか手を放せクソバカヤロウ、私は明日に向かって飛ぶんだどこまでも。
私は持ち前の後肢の握力で、クソバカヤロウの腕を引き剥がし、未来を夢見て飛び立った。
ノボル「逃げるなァァァ!!責任から逃げるなァァァ!!!」
うるせぇ、私は明日に向かって羽撃くんだ邪魔すんな。
私達は地獄を後にし、一日目の野営予定地点へと飛び立った。
・・・そう、これはまだ一日目なんだやってられっかクソッタレ。
野営予定地点〈ジルシィ・サウザヨウ〉、〈サウザヨウの谷〉。
但しこれは総称であり、こう呼ばれる谷はいくつかある。
私達はこれを経由して南下していく。
因みに、〈ククリ島〉へと向かう際もこれを経由している。
現在この場所は〈ジルシィ・サウザヨウ〉のうちのひとつ、固有名詞は〈ヨウドアルカ〉、意味は、〈アルカの通り道〉、その西端だ。
この〈アルカの通り道〉は、南北に細長く伸びる〈サウザヨウ〉を、東西に海から海まで貫通する。
幅十メートルから百メートル程の谷であり、海抜は全て十メートル以下であろう、との事だ。
この谷に〈トライ・バーミリオン〉は生えておらず基本的に虫共は出てこない。
地中には色々と潜んでいる為、滞在場所に広く薪を置いて地面を一度焼いた上でキャンプを張る。刺されるからな。有毒な上にクソ程痛いらしい。
この〈トライ・バーミリオン〉の森林内部は、頑丈な靴が無ければ一日と生きられないだろう。
そしてその靴の材料となる天然ゴムが採れるのも、この〈トライ・バーミリオン〉の樹液からであるというのもまた面白い。
〈ジルシィ・サウザヨウ〉はどれも、岩の崖、岩や砂利、砂の地面であり、ほぼ平地と言って良い。
何故ここまで地面が均されているのかと言えば、〈アルカの通り道〉の名が示す通り、〈アルカ〉と呼ばれる巨大な亀の様な生物が、個体毎に、約一年に一度、ここを通るのだ。
この様に、およそ一年をかけて同じルートを周回する巨大生物は複数種存在する。
先ず〈アルカ〉とその近縁種〈アルケロ〉。
〈アルカ〉は〈首長巨大亀〉と呼ばれ、〈アルケロ〉は〈尾長巨大亀〉と呼ばれている。
彼等は島や大陸等の沿岸を周回し、海岸に上がり周囲の動植物を喰らい、沿岸を泳ぎながら海面付近の生物を喰らう。
〈エイグレア・イーキ〉の〈巨大蛇ヨルムンガンド〉や、〈エイグレア・ヒィサァカ〉の〈巨竜ヴェルグリンド〉等と同じ様な生態であり、彼等は全て〈竜骨動物科・巨竜亜科〉に属する。
そして、生態は同じらしいが謎の生物。
呼ばれる名は〈ダイダラン〉。
見た目は動く島であるらしい。
これの背には〈ファントム〉や〈フェンネル〉等の、戦力の高い〈竜の眷属〉達が巣食っており、一切調査は出来ていないそうだ。
ここから幼竜が飛び立つ姿が何度も目撃されている為、〈竜のゆりかご〉とも呼ばれる。
因みに、次のキャンプ地はこの〈ダイダラン〉が通る道、〈ヨウドダイダラン〉。
地図に依れば、南に百キロ程進まねばならない様だ。
前にここを通った時の私の記憶は、〈サラマンドラ〉に乗っていたという事しか覚えていない。
ヨシミ「トウジ君、留守を頼むわ。狼煙を切らさない様にね。
私は〈地底湖〉を見てくる。」
地底湖?
トウジ「あぁ、アレですか。了解です。」
ヨシミ「ユミルちゃん、一緒に来てくれるかしら?
意見を聞きたい。」
ヨシミの先導を受けて十数分を飛び、やや海抜が高い位置、目的地に到着した。
そこには植物に囲まれた大穴、中にはほぼ水平に向かっているであろう洞窟が水で満たされている。
洞窟の内側は白く、外から入る光を反射しているのだろう、やや明るく見える。
ヨシミ「前にトウジ君と調査した時、ここに〈アルカ〉が頭を突っ込んでいたのよ。溜まっているのは一応真水よ。」
〈サウザヨウの谷〉の地面は砂利や砂、もしくは岩。
・・・これは。
[雨が降るとマズいかもしれないです。
巨大生物が年に一回通るだけじゃ、ここまで下草が無くなったりはしないんじゃないかな。
たぶんこの谷は、相当の雨の日だけ川になってるかも。]
そうなのだ。
この〈ヨウドアルカ〉、下草がほぼ皆無なのだ。
考えてみればおかしい。
〈アルカ〉なる巨大亀が通るとはいえ、崖ギリギリの下草まで薙ぎ倒せるか?
頻繁に水で流されていると考える方が自然じゃないか?
実際よく見れば、この地面は川底の様相に似ている。
[この位置よりも海抜が高い位置にキャンプ張った方が良い。
水害喰らったらシャレにならないです。]
天気予報なんて無いし出来んからな。対策するしかない。
ヨシミ「・・・私は飲み水にできそうか聞こうと思ったのだけど・・・なるほど水害か。」
あぁそっちか。
[鉱物毒とかの試薬ならクソバカが作ってた。
試験紙はマリが持ってる。
取りに行きましょう。]
ヨシミ「なら私はリケイさん達の所に一度合流してみるわ。
その後キャンプに合流するから待ってて。」
・・・地獄に戻ってくれるのか、あざっす。
[了解です。キャンプ地選定しときます。]
ヨシミは飛び立って行った。
こういう男気あるんよな、このヒト。
私はキャンプ予定地点に戻り合流。
集められた薪はまだ、狼煙のもの以外火は付けられていなかった。
マリ「水害とか。」
タチアナ「絶対マズいね。」
トウジ「あ~・・・これ川底か。」
大雨、洪水、鉄砲水。
まぁ日本人は大体知ってるわな。
危ない目にあってしまった者もいるだろう。
[西側の海岸は近い。様子を見てくる。
〈野焼き〉は少し待っていて欲しい。]
トウジ「了解。」
私は単独で海へと飛んだ。
数分とかからず到着し、調査を開始しようと思った所、発見してしまった。
この〈ヨウドアルカ〉を河川と見れば、幅百メートル程の河口付近。
陸から海を見て左端、崖から十数メートル程離れた位置からそれは始まる。
高さ五メートル強、広さはかなり広めの畑一面分程、その周囲を頑強に加工された三角州、といったものだろうか。
明らかに人工物。
日本の城の石垣の様な石塁が積まれている。
登るとそこには、明らかに御影石の石碑が六基。
内一つ、最も横に長い物には、長大なこの〈サウザヨウ〉の地図が彫られ、その上に数本の線が彫られている。
これは道か?
そして中央にはまだ若木であろう、十数メートル程の高さの〈トライ・カミラ〉が聳え立っていた。




