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フーガック生物図鑑  作者: 遠藤迄太郎
サウザヨウと悪魔王とマセキの正体

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第四十一話

 リケイを先頭(せんとう)に七(なな)つの影(かげ)が茂(しげ)みから飛び出し、崖(がけ)を飛び降り着地した。

 この崖五メートル位あんだろ。

 ホモサピだったら大怪我(おおけが)だな。


 ノボル「ぜってぇ許さねえからなァァァクソ共がァァァ着いたァァァ!!!」


 〈トライ・バーミリオン〉の森林から飛び出して合流するなりクソバカが怒りと安堵(あんど)の咆哮(ほうこう)を上げる。


 ウェン・ディは涙を堪(こら)えて笑っている。

 ポルカは下を向いて笑っている。


 どんな感情なんだろ。


 地中には有毒生物が居るかもしれないから立ったままだ。


 リュウとシャルは平気か。ニィアも大丈夫そうだ。


 リュウは「虫もエビカニもキチンだし、身も殻(から)から取った出汁(だし)も割と美味しい」とか言ってラーメンにぶち込む様なイカれだしな。

 日本でもハチノコとか率先(そっせん)して食ってたし。

 殻は食わねぇ様にしてたらしいけど。


 そういえばアリハチ系見なかったな。〈トライ・バーミリオン〉の外でなら割と見るのに。


 悪意を持って気持ち悪さに全振(ぜんぶ)りしたんじゃねぇかと思わせるバッタみてぇなのとかムカデみたいなのが多い。

 〈ジャンムゥ〉、〈ヨロイデカミミズ〉なんて見た目は足の無ぇクソデカムカデだからなあんなもん。暴れるし。巻き付くし。

 〈ブリッツ〉とか呼ばれてたか?〈悪臭カマドウマ〉。クソ危ねぇんだよ、あの悪臭汁害虫(あくしゅうじるがいちゅう)。

 飛ばしてくる目潰(めつぶ)し激臭汁(げきくさじる)もめんどくせぇが、口吻(こうふん)ぶっ刺して神経毒と消化液注入して溶けた獲物の体液を啜(すす)るんだと。

 竜の外被なら弾ける様だが。関わりたくねぇ。

 あと〈タリアン〉とかっていう〈アシナガゴキブリ〉。アレの群れごと突進は単純にキモチワリィ。



 ミユズ「お待たせしました!

 あの水、〈ハイエルフ〉は飲めません!

 〈ドラゴン〉と〈ヘプバァン〉にもおすすめはしません。沈殿(ちんでん)が出ました。」


 ノボル「あー、蒸留するか。沈殿の色はどうでした?」


 ミユズ「青が多いですが白色も出てます。

 〈フエロ〉の温泉に近いですね、冷たいですが。」


 ミユズはヨシミと共にリケイ達から先行し、水質調査をして来たそうだ。

 短距離グライダー飛行が役に立ったらしい。


 ノボル「青は多分銅で白もヤバそうだな。

 前と同じく樹液の上澄みと海水蒸留でいくか。

 海近いんだよな?」


 あぁそうだ、伝えなくては。

 [明らかに人工物がある。石垣だ。とりあえず見てくれ。

 恐らく、かなり有益だ。]


 ノボル「・・・え?石垣?マジ?ホントに?」

 リュウ「・・・まさか誰か住んでる・・・?」


 あぁ、その可能性があったか。

 [それはまだ分からない。見付けただけだ。]


 ノボル「・・・まぁ気ぃ付けながら行くか。」

 『全員まだ武装解くな!対人戦闘になる可能性がある!』


 そうか、一応ここは〈トライ・バーミリオン〉に囲まれた形になっている。陸生の猛獣からは守られている。

 ヒトが住めない事もないのか。


 全員の準備が完了した所で私は皆を先導し、程なく人工三角州へと到着した。


 トウジ「一回降りれば良かったですね、調査の時。」

 ヨシミ「えぇそうね。これはよく見れば気づけたはずよ。」


 リュウ「あぁ、無理無理。

 飛行中に空から見ても、この程度の高さの違いなんて分かんないよ。草も生えてて緑だし。

 気が付かなくて当たり前。」


 全員で石垣の上に登り、調査を始める。


 ノボル「生活の痕跡(こんせき)は・・・無さそうだな。」

 リュウ「あぁ、焚(た)き火(び)の跡(あと)すら無い。もし居たとしてもヒトじゃないね。」


 どうやら無人の様だ。とりあえず良かった。


 よくよく見ればこの〈トライ・カミラ〉、〈プリス〉、小鳥の様な生物が多数住み着いている。

 地を歩く小鳥も多数居るが、こちらを恐れる様子もない。

 それどころか足元まで寄ってくる者も居る。

 鳥の様な姿である私やトウジにだけでは無く、誰も警戒されていない様だ。


 ノボル「なんだ?ペンギンみてぇな感覚か?」


 リュウ「お?」

 『みんな〜!地面にも鳥の巣あるから気を付けてあげた方が良いよ!』


 ホントだ、気が付かなかった。

 ヒバリの物の様な鳥の巣だ。


 マリ「・・・ここって相当安全なんじゃないの?」

 タチアナ「地面にも木にも見える虫はいないみたい。

 もしかして小鳥以外居ない?」


 ノボル「そーいや〈トライ・バーミリオン〉の森林から出てくる虫って、一回も見た事無ぇな。」



 ミユズ「〈トライ・バーミリオン〉とその森林の中に住む虫達は、完全に共生関係にあるそうです。


 センカ様は〈タケノコ〉と呼んでおられましたが、〈トライ・バーミリオン〉の幼木の先端、成長点を虫達は食します。

 幼木は成長点を食い破られる事で成長速度が増します。一日で子供の身長程も急成長する様です。


 そして日の当たらない所で育つ〈プディラ〉、キノコですね、これもまた共生しており、よく見かけるツル植物〈スプンネイル〉も共生関係にあるそうです。

 窒素固定は彼等が担っている様ですね。

 これの葉や果実は小型中型の虫達も食べますが、それらを鳥が食します。

 大型の虫達は更に、この鳥達も食す様です。


 充分な食料がある為か、私達に知り得ない依存関係があるのかは分かりませんが、虫達はこの森林を出る事をしません。

 飛行する者は皆無ですしね。」



 あぁバッタみたいなヤツら、羽はあるのに跳(は)ねるだけだったな。


 ノボル「あー、望んで留まってるんすね、コイツ等。

 ならこの程度の距離でも大丈夫かな?

 あとはダニ的なもんが心配だが・・・ここ、どのくらい滞在する?」


 ヨシミ「この地図の道を調査したいわ。時間が欲しい。」


 ノボル「あーそっか、旅路が楽になるかもしれねぇか。

 お願いしていいっすか?残り者で一ヶ月位の滞在前提で周辺調査しますよ。」


 ヨシミ「了解よ。」

 トウジ「了解です。」


 リュウ「なら高床ベット的な物作るかな。」

 ノボル「おぅダニ対策・・・あれ?・・・今気付いたんだが・・・防虫剤の匂いしねぇ?」


 ・・・そういえばそうだ。

 余りにも自然に漂(ただよ)ってるから気にもしてなかった。

 確かに蚊取り線香の様な匂(にお)いが漂っている。


 リュウ「・・・あぁ、そういえばこの匂い・・・。」


 ミユズ「・・・〈スプライト〉と同様の防虫効果を持つ樹木、〈スズキ〉と同じ匂いですね、これは・・・一体どこから・・・?

 ・・・かなり貴重なんですが・・・」


 〈スプライト〉。

 ツル植物〈スプライス〉の実。

 胡椒(こしょう)の様な味と匂いがする。

 胡椒と全く同じ様に使用出来る。

 防虫効果があり、寝具等にも使われる。


 今漂っている匂い。

 高い防虫効果を有する為、〈スプライト〉と併せて防虫剤として使われる、〈スズキ〉なる樹木の匂いに確かに似ている。

 乾燥させた葉や樹皮(じゅひ)を寝具に混ぜたり、部屋に吊るしたり等して使用する。


 地面に近い位置に頭部が来る私は程なく気が付き、周辺に生える白い花のアブラナの様な植物を一本引き抜いた。

 よくよく見ればここに生える植物は、〈トライ・カミラ〉とこれだけだ。苔(こけ)みたいなのはあるが。

 アブラナの様に、ダイコンの様な根をもっている。


 ミユズ「これですか・・・?・・・確かにこれですね。この匂いです。」


 リュウ「アブラナ?ダイコン?でも匂いは防虫菊?」


 ノボル「・・・ピレスロイドか?

 ・・・意図的に植えられてんじゃねぇのか?出来過ぎだろ。」


 ミユズ「・・・意図的に、ですか。

 ・・・養分源は〈プリス〉の糞・・・防虫効果・・・〈トライ・バーミリオン〉に阻まれて他の植物の種子はやってこない・・・?・・・海が近い・・・塩害に強い・・・?・・・自他の生育を阻害・・・?」


 ノボル「とりあえず地図に書き込むか。名前どうします?」


 ミユズ「石碑(せきひ)を調べましょう。名前は分かりやすくなくてはいけません。」


 ノボル「あー、その方が思い出しやすいし伝わりやすいわな、了解です。」





 調査を開始しようとした時、私達は気付いた。


 ここに登ってからネムとニィアの姿が見えない。


 周囲を捜索(そうさく)すると、最も海側にあった石碑。

 その前にニィアとネムが座り込んでいる。


 座り込んだまま、静かに泣いていた。


 その石碑に刻まれていたのは詩。

 我々にもなじみ深い詩、〈テオス・ドラゴン〉。


 そこには私達が知る〈テオス・ドラゴン〉の歌詞の後、追記がなされていた。


 以下はミユズが日本語に訳したものだ。





 【隠(かく)し歌(うた) 銀月(ぎんげつ)の黒竜(こくりゅう)


 始まりの聖女散りし時

 その白雲(しらくも)は晴れた

 その黒は赤き怒りを放つ

 その怒り落とされる度

 その地に月を顕現(けんげん)させた

 そこには何も残らず

 そこでは全てが塵(ちり)と化した

 存在を許されしは

 黒に守られし聖女の亡骸(なきがら)

 ただそれのみ

 ただそれのみ


 そこで怒り嘆(なげ)き続けるは

 後悔の竜


 三つの大国を滅ぼした

 復讐の竜


 至上なる生物

 銀月の黒竜】






 〈始まりの聖女〉は〈グランマリア一世〉の二つ名のひとつだ。

 多くの書物に記述がある。


 ネムは「手紙でしか知らない」と言っていた。

 ニィアも話には聞いていたそうだ。


 だが知ってしまった。


 【始まりの聖女散りし時】の一文で。

 【黒に守られし聖女の亡骸】の一文で。


 出処(でどころ)の違う場所から、同じ情報が入って来て確信してしまった。


 だから今、泣き崩れている。





 この石碑の側面に、更に文章が掘られていた。





 【私は〈白天(はくてん)の聖女〉を敬愛した者


 己の甘さのせいで


 〈始まりの聖女〉を終わらせてしまった者


 〈オーガ〉の身でありながら情けなくも


 怒り屠(ほふ)ろうと立ち上がる事すら出来なかった者


 思い出す度に涙が止まらない


 ただ膝(ひざ)を折り


 涙が止まらない


 〈白天の聖女〉を陥(おとしい)れたのは


 〈ルシファ〉を持った〈ニゲン〉の商人


 名を〈ハッシゲ〉


 永遠を生きる事を手に入れた強欲なる政治商人


 私はあの者を許さない


 大恩を受けておきながら


 傍観(ぼうかん)するのみであった〈ニゲン〉共も許せない


 私もまた〈エシア〉に選ばれた


 六つの核全てをこの身に宿した


 私は〈ニゲン〉を滅(ほろ)ぼすだろう


 この身は〈悪魔王(あくまおう)〉と成り果て


 世界に復讐するだろう


 私(わたし)は〈白天(はくてん)のオリオン〉


 我(われ)は〈はじまりの狂信者(きょうしんしゃ)〉


 我(わ)が名(な)は〈悪魔王(あくまおう)シフ〉】





 ミユズ「・・・〈オーガ〉の女性シフという方が、〈グランマリア一世〉様の側近の一人であったと聞いています。

 ・・・文書には残っておりませんが。

 〈オリオン〉は弟や妹、年下の兄弟を指します。詩や手紙等で使われる言葉です。」



 ノボル「・・・あー・・・」


 ・・・文書に残っていない。

 多分〈盟約(めいやく)〉というやつだろうか。


 ノボルは何か言いかけて止めた。

 リュウは心配そうに見つめている。

 いや、この時はみんなそうだったか。



 陽が沈む。



 私達は泣き崩(くず)れるネムとニィアを、見守る事しか出来なかった。


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