第三十七話
ミユズが喰らいつくように挨拶をしているだいぶコワイ。
ミユズ「はじめましてマリ様!そして〈守護獣〉様!
ワタクシ!ミユズ・アラタ・サガ・フリアと申します!
専攻は過去の〈神獣〉様の書物を読み解き!技術を再現する事です!
〈守護獣〉様!お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?!」
専攻て。トウジはやや引き気味に応える。
「トウジです。どうも。」
ミユズ「トウジ様!〈リワァド〉の冬の言葉ですか?!確か冬至って言葉がありましたね!」
トウジ「あ、おしい。冬に人って書きます。」
ミユズ「なるほど!冬にお産まれになられたという事ですか?!」
トウジ「あ、はい、まぁそうですね。」
マリ「・・・まさか、〈ルリンクミューズ〉、もしくは〈ルゥリィンミユズ〉のミユズ様ですか?」
ミユズは動きを止める。
ミユズ「!!!・・・あ~・・・はい、そんな事もありましたかね?」
マリちゃんナイス。
ミユズが我に返ってちょっと大人しくなった。
報告会が始まった。
いきなり私の日記的なものであるこの文章に文句を付けられた。
ノボル「報告書にちゃんとかさんとか敬称とかいらねぇ。たまに読みにくい。
あとたまにある黒塗りなんなんだよ。」
報告書じゃなくてお前が勝手に読んでるだけだけどなクソバカヤロウ。
結局是正する流れとなった。
マリ「〈ハクロ号〉の記述に[カントのカンナ大湿原に面する海の沿岸は、ハクロ号では渡れなかった。]ってのを見つけてさ。
これの原因ってどうも深さが足りないからって事らしいんだよね。相当な遠浅みたい。
これオッちゃんが作ってる装備で渡れないの?」
マリとタチアナは書物の調査を続けていた。
移動が目的という事で地理的な物がメインだ。
〈カンナ大湿原〉は〈南大陸〉の中央から北側の海に向かい存在する大湿原。
更に南の〈トチ大壁〉と共に〈南大陸〉の生態系を東西に分断する。
つまり、〈南大陸〉の東西を移動する為には、〈トチ大壁〉か〈カンナ大湿原〉、もしくは海か空を越えなければならない。
ミユズ「それでしたらある程度の仮説を立てられますね。
〈シマクライ〉はご存知ですか?」
ノボル「あー、何回か締めたっすよ。デカいヤツ。」
ミユズ「であればご存知かと思いますが、陸地を崩すのは本種のオスの方です。
河川を遡上するメスに追従しながらオス達は川岸に横穴を掘る為、その結果陸地が脆弱になってしまいます。
半面、存在位置が明らかである為、オスは巨大魚や巨大蛇にとっては格好の獲物であり、メスは〈ワイバァン〉等の大型捕食動物に狩られます。
メスの場合は絶命と共に産卵するので捕食される事が繁殖を助ける結果にもなっている様です。
この様に、ある意味分かり易い生態である為、〈リィン〉にとっても格好の獲物である事が多いですね。
それで〈カンナ大湿原〉なのですが、〈シマクライ〉のメスを狩る生物がほとんどおりません。」
ノボル「・・・湿地帯だから陸生生物にとっては住みにくいって事すか?〈リィン〉とか〈ワイバァン〉とか。」
ミユズ「はい、仮説とされていますがそこまでは間違い無いかと。
そして、河川上流まで〈シマクライ〉のメスが到達出来てしまう為〈カンナ大湿原〉は広がり続けたのかもしれない、という事だそうです。
それで、長い時間をかけて広大な陸地を〈シマクライ〉達が崩し続け、その土砂は河川によって流され、それが内海に溜まり続けた結果、それがあの長大な遠浅の海岸なのではないか?という事ですね。」
ノボル「それ徒歩じゃ絶対渡れないやつっすね。多分底無しだわ。」
ミユズ「はい。おそらく泥地でしょう。」
マリ「無理かぁ〜。もし歩けてもキャンプ地も無さそうだしな〜。」
リュウ「〈座礁を前提とした船〉とか作れねえの?
車輪付きヨットみたいな。」
ノボル「それな。砂漠とかであるっちゃある。
相当な風吹かなきゃただの荷物だけどな。台車位にはなるか?」
タチアナ「〈ハクロ号〉はどうやって海を渡ってたんですか?」
ミユズ「巨大な魚の様な〈竜〉が船を引いていました。
障害となる物を切裂き、雷を放ち、船を守っていました。
名をウェンノ様。
〈ブシドウノエル・ドラゴン〉という種の〈ドラゴン〉ですね。
〈聖女ロックブーケ様〉の〈聖女守護獣〉です。」
リュウ「ブシドウ?ノエル?種名?」
ノボル「・・・ぜってぇ日本人だな、そのヒトら。」
ミユズ「おそらくそうです。明言こそされていませんが。
私は船室で授業を受けている事がほとんどでしたし、当時は〈神獣〉の概念もあまりよく分かっていませんでしたし。」
タチアナ「授業?」
ミユズ「はい。私と私の父ハクヤ・イーキ・フリア、そしてストーマという名の青年。
私達は〈ハクロ号〉の〈センカ〉様より知識を与えられています。」
ノボル「やっぱりか。〈センカ〉。」
リュウ「ナンプラーの名前になってるのってやっぱそのヒトの名前?」
ミユズ「おそらくそうです。
この辺りだと〈マァツ・ディシ〉や〈オークリンの三角州〉で作られていると聞いています。
〈イーキ〉でも〈センカ〉様に因んだ名前が付けられていたはずです。
〈センカ〉様は〈迷宮節殻貝〉を大変危険視しておられました。」
ノボル「ですよね〜。文章から読み取れるわ。」
ミユズ「マルキド歴157年に勃発した〈ノウスシィロウド大戦〉、もしくは〈シーナの反乱〉。
これは二十三年後のマルキド歴180年に〈ノウスシィロウド帝国〉側の勝利にて終結するのですが、その後〈ハクロ号の一団〉は当時の皇帝〈ラスティ〉により〈聖地〉の管理を一任されます。」
ヨシミ「一任?〈聖地〉っていう位だから大事な場所なのでしょう?ずいぶん無責任ね。」
ミユズ「その力を見込んでの事の様です。
というのも、〈ノウスシィロウド〉では〈アルビオンの悲劇〉の様に〈迷宮クローン〉が溢れ出すのはある程度ありふれた事であった様で、〈ククリ島〉程には危険視されていなかったとの事。
〈ノウスシィロウド〉には〈ディブリン〉は生息しておらず、キャリア生物も少ない様です。」
マリ「〈ディブリン〉さん達居ないのか。〈ゴブリン病〉の心配は少ない訳か。」
ミユズ「ですがこの地の〈迷宮クローン〉は、単純に大きかったり、強かったりするものが多かった様です。
実際、〈ロナルケ・シーナ〉側は、溢れ出す〈迷宮クローン〉を放置し、民を守るか〈シーナ軍〉と戦うかの選択を帝国軍に強いる、という戦い方を多用した様で、帝国軍は大変に苦労したそうです。」
ノボル「エゲツねぇな。で?〈ロナルケ・シーナ〉?」
ミユズ「あぁ失礼しました。
〈ロナルケ・シーナ〉は〈リワァド〉で言えば〈シーナ教〉、ですかね。
ほとんどが〈エルフ〉と〈ニゲン〉で構成される宗教です。
ですがその実は宗教と商業の連合組織です。
その組織が〈ノウスシィロウド帝国〉に反乱を起こした、という事ですね。
そして終戦後、溢れ出す〈迷宮クローン〉の出処を探り、〈迷宮節殻貝〉を発見し、〈原初の樹〉との関係性を解き明かしたのが〈センカ〉様です。
そして〈聖地〉とは、〈原初の樹ナリア〉とそれを有する森全体を指します。
〈迷宮節殻貝〉と〈原初の樹〉との関係性、そして〈迷宮クローン〉、当時は〈バケモノ〉という表現でしたか。
これらの報告を聞いた〈ノウスシィロウド帝国〉の皇帝〈ラスティ〉は、手に負えないと判断し、〈ハクロ号の一団〉に協力を仰いだ、という事ですね。」
ヨシミ「そうか、〈迷宮クローン〉について何も分かっていなかった時代の話なのよね。」
ミユズ「はい。
そして〈マルキド歴181年〉、〈センカ〉様が調査を進める最中、またも〈ノウスシィロウド〉を事件が襲います。
全裸の〈エルフ〉と〈ニゲン〉の子供が徘徊する姿が〈ノウスシィロウド〉全土で発見されます。」
ノボル「・・・あーもう、聞きたくねぇ。」
そうだな。あぁもうだわ。
ミユズ「そうですね。
これは〈迷宮クローン〉でした。
見た目は三歳児程。ただの子供と誤認し、心配して追いかける者達は〈猿型〉や〈恐竜型〉の〈迷宮クローン〉に連れ去られた様です。
そしてそれは前触れでした。
その後各地で、白い〈シャガルバァン〉、〈ノウスシィロウド〉固有種の卵生の一世類、四足歩行のトカゲですね。これが大量発生します。」
ノボル「あ~、この前のだと〈ワリンバァン〉の大量発生がこれに当たる訳か。」
ミユズ「あぁ、聞きましたよ。〈ワリンバァン〉は厄介でしたね。
この地で言えば、〈群生相〉の〈アルケマリア〉程の強さでしたか。
〈シャガルバァン〉の戦力は〈ワリンバァン〉程ではないです。
〈センカ〉様曰く、日本で言うと〈大型犬〉に近い体型と戦力だそうです。
ですが海側から現れた〈本隊〉の数。
これは数万規模どころでは無かったとの事です。
巨大な孤島である〈ノウスシィロウド〉。
四方から〈原初の樹ナリア〉に向かって伸びた〈迷宮節殻貝ダンジョン〉。
その海や水辺すべてから〈迷宮クローン〉が溢れ出たとすれば、それはとてつもない数だったでしょう。
人口の半分以上、予測で、一千二百万の〈リィン〉が犠牲になったそうで、残ったのは九百万に満たなかったとの事。
これが〈三年目の慟哭〉と呼ばれます。
これにより、元々〈迷宮クローン〉対策でもあった幾つもの城塞が破壊された様ですね。」
・・・被害も相当なものなのだが。
ヨシミ「・・・元々そんなに〈リィン〉が住んでいたのね。」
そうそれ。
相当な生産力が無ければそこまでの人口にはならないはずだ。
ミユズ「はい。〈リワァド〉でいう所の経世済民でしたか。これを重んじた〈通貨運営〉であったそうですよ。
特に、城塞建設、道の整備、穀物の買い取りにより通貨供給をしていたとの事。
食べあぶれる者も少なかった様で、相当な人口を維持していた様です。
逆に〈通貨経営〉をして〈奴隷層〉を生み出していたのが〈ロナルケ・シーナ〉ですね。
通貨量を減らせば元々通貨を持っている者達の通貨の価値が上がりますから。
信仰心を煽られた〈希望者〉と、貧困の〈奴隷層〉を兵士として起用し、兵を増やしていたそうです。」
ノボル「・・・経世済民ねぇ。」
ミユズ「提唱されたのは〈翠世の聖女スカイア〉様です。
〈リワァド〉で管理通貨制度でしたか?
ヨハンさんは〈ヒュドル〉でこれを真似したらしいです。」
ノボル「・・・〈聖女〉ってコトは・・・。」
ミユズ「まず間違い無く〈神獣〉様ですね。」
・・・〈ミユズ先生〉マジヤベェ。
ノボル「纏めると、〈ハウルの一団〉はなんかしらの方法で空路、〈ハクロ号の一団〉は超強い竜のおかげで海路を渡ったと。
現状の情報と技術じゃ、確実な再現は不可だな。」
トウジ「やっぱり飛べる自分らが現地調査するしかないですかね?」
ヨシミ「そうね。一度行ってみましょうか。」
ミユズ「それがですねぇ〜、ロディアさんはものともせずに数日で渡りきってるんですよ、〈カンナ大湿原〉。
湿原から聳える大樹を経由したそうです。」
リュウ「湿原から聳える?大樹?まさか〈エイセグナディナ〉?」
ミユズ「あ、ご存知ですか?〈湖上の台地〉。驚かせようと思ったのに。
しかも、大型の〈ワイバァン〉では登頂出来ない位の高さにまで育ったものの様です。
ロディアさんに絵も見せて確認しましたので間違い無いです。
数百年前程度前かららしいのですが、〈カンナ大湿原〉には相当数の〈湖上の台地〉が聳え立っています。
コレを経由して渡れるかもしれません。」
・・・〈ミユズ先生〉マジで超ヤベェ。




