第三十五話
ミユズ「なんですか?!〈ゴブリン大侵攻〉?!
なんとか私も〈ククリ島〉に行けませんか?!」
ミユズは取り乱している。
私とヨシミさんは、ミユズとシャルに〈ククリ島〉でのゴタゴタを伝えに来ていた。
ここは〈サム城塞〉。
〈ククリ島〉と大陸を繋ぐ、トンボロ現象により現れる岩礁の道〈トンボロジャンヨ〉。
〈ククリ島〉から見ればそれを渡った先、大陸にある城塞。
〈サム城塞〉には〈オークリン〉、〈エルフ〉、〈ハイエルフ〉、〈ヘプバァン〉が共存しており、〈ククリ島〉の〈アルビオン・シリコニア〉から来た者達も居住していた。
城塞の中も住民も異様に清潔であり、清潔でなければ呪いを貰うとの教えからである様だ。
呪いとは〈ゴブリン病〉含め、体調不良全般の事らしい。
壁の外には〈アルケマリア〉、〈ヘプバァン〉、〈ディブリン〉の集落もある様だ。
〈ディブリン〉から稀に産まれる乱暴な個体による野党である〈ゴブリン〉、〈オークリン〉の有罪追放者である〈オーク〉、〈アルケマリア〉が〈孤独相〉に堕ちた状態の者達である〈アルケ〉、翼を持った四足獣〈ワイバァン〉、ゴリラの様な生物〈シャブアンドン〉、茶色いゴリラの様な生物〈チャケアンドン〉等、危険な者達からこの地を守る為の城塞で囲まれている。
内側には畑が拡がっており、居住家屋は極端に少なく、農夫と食品加工者のものがほとんどらしい。
他の者達の居住は見張りも兼ねて城塞の壁の中の部屋で行われる。
この城塞は東と南東側を海、北側を河川、そこから扇型に崖や丘を巻き込む形となっている。
目算で海抜三十メートル程の丘の上から見てほぼ全てを見渡せる事から、体感五十平方キロメートル程あるのではないかと予測される。
この壁は、ある〈ディブリン〉からの提案で建造が始まったとされる。
「我らは呪いを持っている。
拾い育てようとした〈オークリン〉や〈エルフ〉の子供達を何人も呪い殺してしまっている。
元は我らの同胞である〈ゴブリン〉共も同じく呪いを持っている。
我らはあなた達に近寄らない。
あなた達は〈ゴブリン〉共から身を守って欲しい。」
この言葉と共にある〈ディブリン〉が壁を作り始めた。多くの者達が協力したそうだ。
それが300年以上前。
その〈ディブリン〉の胸には白い石が埋まっていたという。
彼女は〈ルシファディブリン(善化石ディブリン、白石ディブリン)〉と呼ばれた。
そのディブリン曰く、「私は〈フリア〉より知識を貰った。」と言っていたそうだ。
この〈サム城塞〉、〈ククリ島〉で記憶を取り戻した私から見れば、大陸最初の町である。
ミユズとシャル。記憶が戻ってからははじめましてだな。
覚えてはいるのに違和感しかない。
ミユズとシャルはこの〈サム城塞〉を拠点に、西へ渡る方法についての調査をしていた。
というのも〈ハウルの一団〉は、この〈サム城塞〉、ここから南西にある孤島〈アスマキオ〉、百数十年前までオーガの集落があった南方の〈ニーザ山〉、これらの間を、空を飛んで行き来していたのだという。
私が記憶を取り戻す前。私達が〈ククリ島〉に到着する前の出来事。
リケイおじさんの手記に記述がある。
[〈エイグレア・イーキ〉から南大陸へと渡り、北上した先にある〈ニーザ山〉。
そこには過去、〈オーガ〉の集落が点在していた様だ。
私達は〈オーガの遺跡〉と呼んだ。
そこには壁画があった。
明らかに気球や飛行船の壁画だったのだ。
ミユズ曰く、〈マルキド歴63年〜マルキド歴66年〉、〈ククリ島〉を襲った〈アルビオンの悲劇〉。
その惨劇の場に〈グランマリア一世〉を送り届ける際〈ハウルの一団〉は、〈ニーザ山〉から〈サム城塞〉を僅か数日で移動していた様なのだ。
〈エイグレア・イーキ〉の東西、端から端迄の距離の倍程のとんでもない距離をだ。]
ミユズ「気球ってロストテクノロジーだったんですね〜、じゃ!なくて!〈ゴブリン大侵攻〉!
〈アルビオンの悲劇〉の再来ってコトですよね?!
ホントに大丈夫なんですか?!」
ミユズは明らかに取り乱している。
〈アルビオンの悲劇〉を知っているならば当然か。
ヨシミ「もう落ち着いているわ。大丈夫よ。
タチアナとマリちゃん、〈グランマリア三世〉が薬を作って解決済みよ。
・・・アナタが海の道渡れないのは不便よね。
私ではまだ大人は運べないし。」
ミユズ「〈マリチャン〉?!〈グランマリア三世〉?!二世ではなくてですか?!
一度詳細を説明して下さい!」
あぁそこからか、そういえば。
大陸にある〈サム城塞〉、その地と〈ククリ島〉を繋ぐ〈トンボロジャンヨ〉。
この道は大潮の日の干潮時、体感三十分程から五十分程しか現れない。
正確には、安全と言える時間は体感三十分程しかない。
十分に海面が下がっていなければ、刃物の様な外殻を持った魚達が、ダツやトビウオ等の様に飛んでくる事があるのだ。
海面から短時間しか現れる事が無い滑りやすい岩礁の上を体感五キロ程、時間内に渡りきらねば、海洋生物の餌食となってしまうかもしれない。
ミユズにはこれを時間内に渡り切る持久力が無いのだ。
短距離だと割と速いのだが。
因みにシャルは余裕で渡れる。
ここには何度も橋を架けようとしている様だが、完成前にいつも〈フネクライ〉や台風に壊されてしまうそうだ。
またリケイおじさんの手記情報なのだが、ミユズは以前〈ククリ島〉を訪れている。
〈ハクロ号〉に乗って。
ミユズは青年期程度にしか見えないが、〈マルキド歴257年〉生まれの七十三歳である。
そして銀髪の〈ハイエルフ〉かと思っていたら〈ヘプバァン〉であるらしい。
〈ヘプバァン〉特有の〈ニャ〜〉が無いので本人が言うまで誰も知らなかった。
〈ヘプバァン〉は老化をしない?もしくは長命なのか?〈アルブ〉の記述にもそんなのがあったな、そういえば。
ミユズ「〈グランマリア三世〉、マリ様ですか。
やはり薬品を産み出す知識をお持ちなのですね。」
ヨシミ「?やはり?」
ミユズ「御本人がそうであると明言された記録は無いですし、私自身も聞いた事は無いのですが、おそらく聖女様、〈グレムリン〉は全て〈神獣〉です。
現在私が知る〈聖女〉様はタチアナ様とマリ様を含めて六柱。
〈始まりの聖女グランマリア〉様、もしくは〈白天の聖女グランマリア一世〉様。
〈ハクロ号の聖女リッカ〉様、もしくは〈黒翼の聖女ロックブーケ〉様。
〈ノウスシィロウドの聖女アリ〉様、もしくは〈翠世の聖女スカイア〉様。
〈戦場の聖女バンリ〉様、もしくは〈天刃の聖女グランマリア二世〉様。
全員が〈リワァド〉で〈薬学〉、その知識をお持ちであるという事ですね。」
・・・そんなにいるのか。
[すまない、その中に幼体の状態で産まれた聖女は居ないか?]
ミユズ「!?トリコ様?!
文字を覚えられたのですか?!」
あぁ、それもか。
[いや、記憶を取り戻した。
原因は〈原初の樹シリコア〉の中での睡眠だと仮定している。
名はユミルだ。更新してくれ。]
ミユズ「・・・ユミル様・・・そうなのですね。
いえ、幼体でというものは聞いた事がないです。
・・・ニャフン様の事ですね。確かにあの姿は・・・。」
なんでも構わない。
[仮説でも構わない。気付いた事があったら教えて欲しい。
もちろんいつでも構わない。]
ミユズ「少し長いですがよろしいですか?ヨシミ様も。」
当たりか?
[もちろんだ。]
ヨシミ「構わないわ。」
ミユズ「〈エルフ〉や〈オークリン〉、〈ニゲン〉、〈ディブリン〉等はご存知かと思います。
彼等は繁殖行動が成功した後、女性が胎内で子をある程度まで育てます。
これが妊婦と呼ばれる状態です。
対して、〈ハイエルフ〉、〈アルブ〉、〈ヘプバァン〉は妊婦の期間が存在しません。」
ん?・・・そういえば見た事無いな。妊婦さん。
ヨシミ「・・・確かに見た記憶が無いわね。」
ミユズ「細胞の構造から違うのです。
〈ハイエルフ〉や〈ドラゴン〉を含む大型の〈復真核生物〉。
もしかしたら〈復真核生物〉全てがそうなのかもしれません。
これらは性交渉の後、胎内で大量の卵が受精、これがある程度まで成熟すると、それを宿すメスは高熱を出します。
自然下では、その状態で河川や湖沼に浸かる事で身体を冷やすのですが、この時に大量の卵を産卵します。
これが済むと高熱は下がります。」
・・・リケイおじさんの手記にあった[世襲には技術が必要]ってのはこれか。
ミユズ「産卵された卵はやがて孵り、両生類の幼体の様な姿で一時を過ごし、やがて魚の様な姿となり海へと下り、成長すると産まれた河川を遡上し、河川上流の綺麗な川辺の岩に取り付き、繭を形成します。
そこから幼体や赤子が産まれるのです。」
ヨシミ「・・・〈多生類〉という事か。
なんか、壮大ね。
河川や海が子宮という感じかしらね。」
その例えよ。
・・・だがホント、正に壮大だわ。
ミユズ「繭以前の状態の者達は相当な数となり、生態系を支えている様です。
まぁほぼ全てが食べられてるって事ですね。
私達王族は専用の水場に産卵し、そこで育てられます。食べ物を与えられる訳です。
やがてその中でも少数の、大きく強い個体が現れます。
他の者達は水場の端で群れを作り、捕食もしなくなります。
そうなった者達は飢えて死ぬので自然下に放流されます。
残った少数の大きく強い個体達はやがて、そこで繭を作るのです。」
・・・なんかヤマメとサクラマス思い出すな。
確かにこの生態で世襲やろうとしたら技術必要だわ。
ミユズ「〈アルブ〉や〈ハイエルフ〉と混血する〈オーガ〉もおそらく同じ生態でしょうね。
これは〈ハクロ号〉と〈ハウルの一団〉の総力を上げた研究なのだそうです。
私が産まれる前のお話ですね。
それでニャフン様なのですが、翼こそ生えていますが、〈ヘプバァン〉の繭から出てきたばかりの姿に似ていますね。」
・・・やはりか。
[ありがとう。正に聞きたい事だった。
〈ヘプバァン〉の幼体はどんなものを食べているのだ?]
ミユズ「基本的には母乳ですね。」
あぁもう無理なん来たな。
ミユズ「母乳を与えられなかった〈ヘプバァン〉は著しく小さいです。
成体となるには三十年程かかりますので、その前に口にさせた方が良いかもしれませんね。
・・・もしこれでニャフン様が聖女に成長された場合、〈グレムリン〉の正体は、翼を持った〈ヘプバァン〉だという事になってしまうわけですか。
・・・興味深い。
・・・そうなると〈ヘプバァン〉は〈混獣属〉である可能性が・・・。」
あぁもうまた学者モード。ブツブツ言い出しやがった。
ヨシミ「〈ヘプバァン〉が母乳を分泌する条件は?
さっきの話だと出産のタイミングと子育て開始のタイミングがかなりズレるわよね?」
そうか、確かに。さすが子育て経験者。
ミユズ「あ、はい、経産者全員です。
産卵した経験のある者は量の多少あれど必ず出てます。
因みに私はまだですのでご協力出来ません。」
ヨシミ「あぁそう言う・・・ニィアにお願いしようかしら。」
マリちゃんの乳母か。頼んでみようか。
ミユズ「ニィア!無事ですか?!」
ヨシミ「無事よ。知り合いだったかしら。」
ミユズ「はい!ヨハンさんやマリさん、エィシィさんやミィサとかと一緒に色々勉強してたんですよ!」
ヨシミ「エィシィとミィサは〈アルケマリア〉の、かしら?」
ミユズ「そうです!元気にしてますか?!」
ヨシミ「元気よ。
・・・こうなってくると、なんとかして〈ククリ島〉まで連れていきたいわね。」
そうだな、そうなんだけど。・・・私的には〈マリさん〉が気になっていてだな。




