第三十話
先ずは声を震わせるノウラをなだめる。
私が世話を頼んだ訳でも無く、ノウラ達は好意で世話をしてくれていた。
ノウラに責任があるはずも無い。
[チビ共の勝手は以前からだ、気にするな。
何よりトリコは強く賢い。大丈夫だ。]
ノウラ「数日前から兆候はあったのです。自力で解錠して抜け出しておられました。
完全に足取りを掴めないのは本日が初めてです。
大変申し訳ございません!」
・・・なんかの犯人みてぇだな。
[周りに迷惑かけない様に閉じ込めといただけだからあまり気にするな。一応戻ろう。]
フラウ「リケイ、私が運ぼうか?」
ノウラ「?!フラウ様?!」
?なんだ?
[あぁ頼みたい。問題無ければ、だが。]
フラウ「〈盟約〉の中に〈神獣への最大の敬意〉というのがあるんだよ。
私がリケイに軽口を叩いたからノウラはそれを咎めてる。」
あぁ、そういうのがあるのか。
[私達はお互いを友と認めた。何も問題無いよ。]
ノウラ「・・・そうでしたか・・・失礼致しました。
私はロディア様の下に向かい協力を仰いで参ります。お二方は〈ヒュドル〉へお戻り下さい。」
さっきも言ったが。
[あまり気にするな。大丈夫だ。]
ただチビ共が私の下に向かっていた場合、少々厄介か?位置の特定が難しくなる。
ノウラは〈ロディアの塒〉に向かった。
フラウ「では私達も向かおうか?心配ではあるのだろう?」
あぁ、よくわかっていらっしゃる。
[まぁそうだな。頼むよ。]
私達は〈ヒュドル〉へと出発した。
この数日はフラウ、そしてフロスティアを始めとした〈フエロ〉の住民達とは人数が少ない事もあり・・・とても軽々しい関係になっていた。
・・・なんかずっと料理してたな。
この辺りには〈スプライス〉なる大変な繁殖力を持ったツル植物が繁茂しており、更に付近にある幾つかの湖沼には〈セイセイラモン〉が繁殖している。
砂漠の程近くでありながら、植物の総量が異常なのだ。
それ故、異常な数の草食動物が生息している。
その森の中にある〈フエロ〉は気性の荒い草食動物からの襲撃を受ける事が多い。
縄張りを侵していると認識されてしまう様だ。
だが相手は〈ディナケッカ〉と〈サラマンドラ〉がほとんどであり、彼等は群れで縄張りごと移動する。
縄張りを侵しているといっても、群れで縄張りごと向こうから移動してくるのだ。
更には湖沼のヘビ共も捕食の為に襲ってくる。
非常に危険な地である為、フラウがほぼ常駐しているのだが、〈フエロ〉に住む三人の女性、フロスティア、ヴィヴィ、シオネアの三名が異常に強い。
そして、鍛冶職という事もあり、それぞれがそれぞれに合った武器を製作し、使用しているのだ。
三人で来られたらノボルとリュウだと負けちまうんじゃねぇかな。
フラウ「少し高台で柵も掘りもある。彼女達に任せておけばここは問題無い。」
との事だった。
ここでは村を襲う動物達を駆除している為、食料は充分以上にある。
そして、〈スプライス〉の実である〈スプライト〉等のスパイスとして使える物も幾つかあった為、ステーキ、ロースト、フリット、ポワレといろいろ試していたら、子供らも含めなんか仲良くなってしまった。
打ち解けた結果であろうか、この村の秘密も明かしてくれた。
シオネア「本人達の為にも命を取るのが正しいのでしょうが・・・」
この村の地下には、金属の檻、牢の様な物があり、そこには男性が二名、女性が一名、閉じ込められていた。
目は赤黒く、明らかに正気では無い。
奇声、怒声を上げ、涙を流し、猿轡をかみしめている。
布や紐でかなりきつく拘束されている。拘束衣を着けられた様な状態だろう。
シオネア「縛り付けて置かねば暴れてケガをします。檻すら壊しかねません。
疲れ切るまで暴れ、満たされるまで喰らい、眠って起きた後、少しの間だけ正気を取り戻している様です。
拘束したまま食事を与えています。
千日程前です。子供達が砂漠に迷い出た際、子供達を探し出しここへ戻ってくる迄の間、食料を子供達に譲っていた結果こうなった様です。
ここに戻り、眠りにつき、起きた後はもう手が付けられませんでしたので、動物用の罠に閉じ込めたのです。」
〈孤独相〉だ。
痛々しいというのが一見した印象だ。どうしょうもないものを、暴れる事で、大声を出す事で、発散しているのだろう。
薬物中毒にでもなったらこんな感じなのだろうか。
だがこの〈孤独相〉、対処は簡単だった。
知ってさえいれば対処は可能だったのだ。
ロディアに症状を聞いてから元に戻す方法をずっと考えていた。
結果私が試そうとしたのは、絞め落とし、もしくは、絞め殺した後の蘇生。
現代日本では推奨されない人工呼吸をシオネアに教えた。
私の口の形では人工呼吸は不可能だったからだ。
対処に入った。
喉では無く頸部血管を絞める。
呼吸を止めるのでは無く、脳への血流を止める事で、脳を酸欠状態にするのだ。
それにより、脳の何処かにあるであろう〈孤独相〉の原因器官から血液を抜けば良いのではないか?との仮説からだ。
はっきりとした原因はまだ不明だが、どうすれば元に戻るのかは判明した。
脳への血流を最小限にする状態の維持、簡単に言えば、正気を取り戻すまで絞め落として回復、を繰り返すだけだ。
男性は三回、女性には緩くやってしまったせいだろうか、六回が必要だった。
ここ数日様子を見たが、再発は無い様だ。目の色も元に戻っているがまだ檻の中で生活している。
ヴィヴィが大変感謝していた。男性の片方が夫だった様だ。
ロディアにも伝えてやらなければな。
フラウが「私にも出来るならば教えて欲しい。」と言い出した。
教えている内にずいぶんと打ち解けてしまった。
それからは飛行訓練だの鉱山観光だのにも同行してもらった。
昼過ぎに〈フエロ〉を出発し、太陽が完全に沈む前に〈ヒュドル〉に到着。
徒歩三日程を数時間か。やはり速いな。
・・・様子がおかしい。町に人がいない。
フラウ「・・・あれは?・・・なに?」
北に目を向けたフラウが呟く。困惑している様だ。
私もその方向に目を向ける。
二本の光が立ち昇っている。
まるでそこに〈原初の樹〉が二柱存在しているかの様だ。
急ぎ現地に向かう。
近い方の光の柱に辿り着く。北の海岸、岬の先端だ。
ニャフンだ。
まただ。
また光の柱を纏っている。
傍らにロディアとトリコも居る。私達も駆けつける。
なんだ?何が起こっている?危険では無いのか?
遠い方の光の柱に目をやる。ニャフンとロディアもそちらを見ている。明らかにあちらの方が大きい。
光の柱と重なる様に、黒い竜巻の様な物が海上をこちらに向かって来ている。
微かに見える対岸の島、〈エイグレア・ナル〉から渡って来ているのか?
ロディア「・・・〈テオス〉の〈レィディ〉・・・?!黒を支配する者・・・?!」
〈テオス〉?〈レィディ〉?何を言っている?
ロディアは我を忘れている様に見える。
目を凝らしてよく見る。
大きな翼を持った飛行生物が五頭?いや、影四つはグライダーだ。人が操縦している。
一つは・・・タチアナを乗せたヨシミだ。
そして黒い竜巻はタチアナのファントム達か?数が尋常では無い。何があった?
光の柱はタチアナを中心に立ち昇っている様に見える。
著者不明、ある書物より抜粋。
【黒竜は本来、縄張りを守ることしかしない。
〈ファントム〉は〈テオス〉を持つ黒竜にしか従わない。
もしも〈黒竜の翼を持つグレムリン〉なんてモノが実在したならば、〈ファントム〉を従える事が出来てしまうかもしれない。
彷徨う無数の〈ファントム〉の被害を抑え、従え、移動可能な強大な力となるだろう。】
四機のグライダーは西の砂浜に向かい、それを手放して飛んだ者達はパラシュートを開き、着地する。
ノボルとリュウ、後二人は・・・ミユズと・・・ウォードの息子のシャルか?
ノボルが叫ぶ。
「おらぁ!どうだ!来たぞ!リケイさん!」
それを確認する様に、ヨシミは上空を旋回しながら高度を落とし始めた。
ロディア「・・・〈黒の聖女〉と〈銀月の黒竜〉が・・・揃った。・・・今・・・やっと。
・・・やっと、今度こそ、あなた達を救えるかもしれない・・・!」
黒の〈聖女〉?と・・・〈黒竜〉か?ヨシミは確か〈白天竜〉と呼ばれていたはずだが。
タチアナを背に乗せたヨシミが我々の眼前に降り立つ。
タチアナは掌をひろげて天に向かい手を伸ばす。
天より垂れる光の糸は一層強く輝き、〈ファントム〉達はタチアナを中心として地に舞い降りた。
ロディアは涙を流していた。




