第二十九話
ロディアが〈ヒュドル〉に向かって五日後の明け方。
〈トライ・カミラ〉より海側に微かに見える堤防〈ヨウシィノウス〉。
その上に、おそらく荷車であろう物の影が多数、微かに見える。
そこから多数の人影がこちらに向かって来る。
大量の物資を持った一団が到着した。
総勢三十名。半数が建築関係者らしい。
ヨハン「流石ロディアさんですねぇ〜有名どころかなり集まったなぁ〜依頼滞りそ〜」
あぁ、ここに有能な人手を割くとそうなるか。
荷物には管が多いな。塩ビパイプみたいな。中に食料なんかが詰まっている。
ダンボールみたいな使い方なのか?
私も手伝い、程なく荷下ろしが完了した。
彼等が到着するまでの五日間、私達は水の確保に尽力した。
具体的には〈迷宮〉内部の大きな水たまりを捜索し、その天井に穴を空け、地上に手動ポンプを設置した。所謂ガチャポンプだな。コレは〈原初の島〉でもよく使われていた。
設置出来たのは内陸に向けて〈迷宮〉の真上地上、三キロ先、五キロ先、六キロ先の三ケ所。
他は天井が分厚く、短期間では非効率だった。
ゴツい〈アルブ〉の若者ととヨハンが荷台に書類を広げ、計画を練っている。
そういや設計図描いてたな。今広げているのがそれだ。
ヨハン「先ずは〈ヨウセイ〉の設置、水管作業ですね。
排水管を設置します。そのままその地上にトイレを作ります。蓋と排気管も設置して下さい。悪臭がこもりますので。
ゴン君、どれくらいで出来そうですか?」
ゴン「〈白粉〉と共に〈トライ・アトライ〉の樹液製の管をお持ちしました。管を通すだけならば本日明るい内には完了します。
・・・〈死宮〉ですか?これの機能は信用出来るのですか?」
ヨハン「実証済みです。問題ありませんよ。大丈夫です。
〈トライ・アトライ〉の樹液の管ですか?それはどの様な?」
ゴン「〈ジャァンキルシュタインデス〉を砕き、加熱して取り出した物を、〈トライ・アトライ〉の樹液、〈コニー〉を温めながら混ぜ合わせると、量に応じて硬くなります。
これを熱い内に管状にしてそのまま冷やすと、硬い管が出来ます。水に強く熱に弱いです。」
ヨハン「ほう。興味深い。いや、今は仕事をしましょう、今度教えて下さい。
では現地に向かいます。」
また知らん言葉が並んだ。この場合の〈白粉〉は石灰の粉だな。
〈ヨゥ〉は道、〈セィ〉は水、〈ヨウセイ〉は水管。〈ヨウセイナツガ〉は鉛水管だったか。
〈トライ・アトライ〉は樹木でその樹液が〈コニー〉?
〈ジャァンキルシュタインデス〉は〈ジャァ〉って言う位だから鉱物だよな?
また今度調べよう。喋れねぇのいい加減めんどくせぇな。
昼を回る頃、〈迷宮〉が伸びる方角、砂漠から二つの影が飛んでくる。
一つはノウラだな。もう一つは何だ?黒いな。鳥か?二つの影は私の前に降り立った。
ノウラ「リケイ様、お久しぶりです。こちらはフラウ様、ロディア様の・・・お姉様の様な方です。」
何だ?間があったな。
〈黒鳳竜テオドール〉だったか。挿絵で見たな。
漆黒のヘビクイワシに両腕が生えている様なイメージだろうか。翼が特にが大きい。
フラウ「お初にお目にかかります。フラウが固有名です。
早速なのですが、テオと協力しての移動法というものを試させていただけませんか?」
テオ?
確かロディアにはテオとのグライダー飛行について話したな。
話し声に違和感を感じたのであまりこの話題は出さなかったのだが。
[テオとは〈ウロボロス・ドラゴン〉のテオか?会ったことがあるのか?]
フラウ「あの子はこの地に住んでいた事があります。
聞けると嬉しくなれる名です。」
・・・そうだったのか。
あれ?黒い竜はあんまり喋れねぇんじゃなかったか?普通に喋ってんな。
ノウラがフラウ〈様〉っていう位だからそんだけ長く生きてるって事か?
それとも黒いだけで単純に別種?竜っていうより鳥っぽい見た目だ。
ノウラ「ではフラウ様、私はこちらの手伝いをしますので。」
ノウラはヨハンと合流し、話し合いを始めた。
初対面放ったらかしとかノウラらしく無いな。
フラウ「すみませんがリケイ様、本日は立て込んでおります。
私と共に〈ダンジオン〉の終点を目指して調査して頂きたいのです。ノウラでは内部に入れませんでしたので。
多分コチラの方がお好みかと思いますよ。」
・・・喋り方も含めなんというか、そこはかとないロディア感。身内なんだな。
[承知した、向かおう。]
やはりこの移動方法は、速い。
低空飛行するフラウと平地で速度を合わせて加速、フラウの前肢を掴んでグライダー飛行。
テオとの時はほぼ滑空のみだった。
だがフラウは、長時間維持出来る訳では無いが、私を吊り下げたまま羽ばたいて飛行している。
相当な飛行能力だ。
休憩を挟みながら三時間程で砂漠を抜けて森林に辿り着き、小高い丘の上に降り立つ。・・・百キロ以上あったんじゃねぇかな。割と高さ登ってきたのに海なんぞ全く見えん。
到着したそこには、高台に六軒の木造家屋。
村か?木の柵と掘りが敷かれている。
村の入り口に一人の女性。
我々の到着を待っていた様だ。
フラウ「彼女はフロスティア。この地〈フエロ〉の長です。」
この村の名は〈フエロ〉というそうだ。
〈フェン〉と〈エィ〉と〈ロゥ〉か?〈白〉?と〈大きい〉?と〈偉い〉?だったか?よくわらかんな。
フロスティア「はじめまして!ダンダ・フロスティアが固有名です!
皆はフロスとかティアとかって呼びます!長いので!」
・・・声がデケェ。
いや、にこやかでハキハキと話す子だ。
・・・知っている誰かに似ているが、誰だっただろうか。
[名はリケイという。原初の島から来た。]
フロスティア「私が〈ジオン〉内部の探索にお供致します!宜しくお願い致します!」
村から三キロ程離れた場所に崖があり、〈迷宮節殻貝〉による壁が露出し、穴が空けられていた。
早速そこからフロスティアと共に洞窟内部に入る。
〈ジオン〉は洞窟で、〈ダン〉は貝を差す。
〈ダンジオン〉、〈ダンジョン〉は〈迷宮節殻貝〉により作られた洞窟を差す、と書物にはあった。
洞窟の終点、つまり〈迷宮節殻貝〉による掘削の先端、及び、〈死宮〉の位置は判明している。
今回の場合は私とフロスティアが洞窟内部に潜り、〈迷宮節殻貝〉の分泌物により硬質化した壁や天井の隙間を探し、地上と繋げられる部分を探す事が目的である。
私の身体の聴覚、というか五感全てか。非常に優れている様で、地上との距離を音や振動で大体把握出来る。
今回は二メートル以下程度の金属の棒を用意してもらい、それで天井に穴を開ける予定だ。
フロスティア「多分なんですけどこの穴、〈フエロ〉に向かって伸びてるんですよ。
〈迷宮節殻貝〉って〈原初の樹〉に向かって〈ジオン〉を造るって聞いたんですけど、何かと間違えたんですかね?」
そう。
[それは私も気になっている。だが情報を持っていない。すまない。]
フロスティア「いえ、私は調べ方すら分かりません。」
そうなのだ。全く持って見当すら付かない。
[私も同じだ。この探索で何か分かれば良いが。]
〈迷宮節殻貝〉は海から〈原初の樹〉を目指して地中を掘り進めるらしいが、そもそもどうやって〈原初の樹〉の位置を認識しているのだ?
・・・やはり見当もつかんな。
〈フエロ〉にかなり近いであろう場所に大きな〈宮〉を発見。
〈心宮〉と〈死宮〉、二つの部屋が繋がって並んでいた。
フロスティア「これが〈死宮〉の穴ですか?落とし穴みたいですね。
あと〈心宮〉の音、すごいですね。」
・・・棒でつついてやがる。殻の上からだが。
一応伝えておくか。
[傷つけるなよ、毒を撒くかもしれない。]
フロスティア「え?!そうなんですか?!」
そう、以前どっかのバカがやらかしたのだ。
私が産まれて三ヶ月程度経った頃だっただろうか。
〈原初の島〉の〈迷宮節殻貝〉の洞窟内部にてノボルが、「コイツの体液ってやっぱ血液みたいなモンなんかな?」とか言いながら〈死宮〉と繋がる体液が通っているであろう管を刃物で刺した。
普通はそういう柔らかい器官は全て、硬いセメントの様なもので覆われているのだが、たまたま露出していた部分を発見してしまったのだ。
だからっていきなり刺すか?生き物だぞ?生物に対して疑問即行動とかイカれてんのか?
結果、それと直接繋がっている天井部分の〈迷宮節殻貝〉から刺激性のガス、というかおそらく塩素かその化合物だ、あの臭いは。
〈竜骨〉みたいなのを持っているのかもしれない。
即座にそのガスを散布され、喉と目に異常をきたし、慌てて逃げ出した。
あのクソバカには一応アイアンクローをかましておいた。
[撒くとすればおそらく猛毒だから気をつけてくれ。]
フロスティア「二度と触りません。」
その後〈ダンジオン〉の終点まで到達。付近に発見した小規模な〈死宮〉の壁上部に風の通り道を発見。棒を突き刺すと地上まて貫通して光が差した。
地上に戻りその場所を確認すると〈フエロ〉より五十メートル程度の場所だった。
それから三日をかけて、穴を広げて地上と繋げ、土管で排水路を設置した。
元々〈フエロ〉で製造され、使われていた土管が優秀であった為、非常に早く施工出来た。
この地〈フエロ〉に滞在する間、私は平屋を一棟丸々貸し出された。
聞けばここには女性三名と子供九名しか住んでいない。
ここ〈フエロ〉では、近くの鉱床で採取出来る銅や銀等で金属加工品を作り、これを〈ヒュドル〉へとフラウとノウラが運んでいる様だ。
槍や銛の穂先、包丁、釘や金槌、手斧やナタの刃物部分等、作られているのは狩猟具や生活用品ばかり。
大きさがあると量を運べないからだろうか。
更に数日過ぎたある日の昼過ぎ。
ノウラが〈フエロ〉訪れた。なにやら慌てている。
「リケイ様!至急〈ヒュドル〉へお戻り下さい!
申し開きのしようもございません!
ニャフン様とトリコ様が行方不明です!」
・・・チビ共、やりやがったな。




