第二十七話
〈原初の樹〉より産まれて一年、〈エイグレア・イーキ〉に流れ着いて半年程が経っただろうか。
この半年はいろいろとやっていた。
一番印象に残るのは養鶏場ならぬ〈収卵場〉の確立。
〈イスバァン〉や〈バイソン〉の卵は食用に適していた為、卵を回収する為の牧場を作り、捕らえる度にここにぶち込んだ。
〈イスバァン〉はそこそこの高さを跳躍するが、山羊の様に崖や木に登る訳ではなかった為、単純に高い柵で囲んだ物となった。
〈バイソン〉は大人しく草や葉を食べていた。
かなりの数になってしまったが、そう頻繁に産卵するわけでは無い様で、卵を取ると共に堆肥工場の様になっている。
うん◯製造業だな。
コイツ等が哺乳類、ホントにヤギとかだったなら乳とか採れるんだが言っても仕方ねぇ。
もっと積極的に締めてくれりゃいいんだが文化的にそうもいかん。
農場襲う奴らをやむなく狩っちまう分の解体だけでも結構な数だしな。
農作物の食害は相当に減少している為、目的は達したと言っていいだろう。
〈ヨウソー〉なる軍鶏の様な外見の生物。彼等も卵を産む。
外見はまるっきりニワトリだが、眼球が動き、羽毛ではなく針の様な体毛だ。
どうやら〈ポポスプラ〉の木とは共生関係にあるらしく、この果樹園からはあまり離れない。
〈ポポスプラ〉の木に付く虫を〈ヨウソー〉が捕食し、本来いるはずの肉食動物は〈ポポスプラ〉の匂いを嫌うらしい。
確かにこの木の匂いには〈トライ・バーミリオン〉の匂いが混ざっている様に感じる。
この匂い、何の匂いだっただろうか。日本でも確実に嗅いだ記憶があるのだが。
文書と挿絵を見る限り、過去この地に存在した肉食動物は四足哺乳類型やトカゲ型がほとんどだったらしく、元々〈ポポスプラ〉の森に彼等は近付かなかったそうだ。
多量のカルシウムを摂取させると多くの卵を産むという話を思い出し、彼等の普段のカルシウム源を探した所、カタツムリの様な生物を発見。
よくよく見ればそこら中にいる。ヨハンに聞いてみた。
ヨハン「あぁ、〈スラブ〉ですね。
どうやら石を食べているらしく、石を材料に殻を作っているのではないかという仮説があります。
あと〈プディラ〉、〈リワァド〉でキノコも食べていますね。」
取り敢えず伝える。
[同じ様に、卵の殻の材料を〈ヨウソー〉達に与えると卵の収量が増えるかもしれない。
卵の殻の材料は〈スラブ〉かもしれない。]
ヨハン「・・・なるほど、試しましょう。」
一月ほと様子を見た結果、〈ヨウソー〉の卵の収量はそこそこ増加、〈イスバァン〉の卵はやや大きくなった。
〈バイソン〉の卵は量も大きさもあまり変わらなかったが、成長期個体の身体が大きくなった。
ヨハン「変化が顕著ですね。いろいろ試してみましょう。」
との事だった。
〈ディナケッカ〉なる生物の観察を行った。
〈ディナ〉は森や森林、〈ケッカ〉は鳴き声から付けられたそうだ。
低い声のニワトリの様な鳴き声である。
森の中で「カッカッカッカケーッカッカッカッ」といった、リズミカルな鳴き声がしたら気を付けなければならない。
これは彼等の縄張りを侵してしまっているサインであり、サイやカバの様な巨体で突進してくる。
運動能力の高い者が多い〈アルブ〉達であっても、遭遇したら十人に一人程が犠牲になり喰われている。
結果的に撃退戦がそこそこの頻度で発生する為、〈ヒュドル〉では〈ディナケッカ〉の肉はそこそこ食べられている。
見た目はトリケラトプスとイノシシを足した様な見た目であるが、下顎の犬歯?が上に向かい長く伸びている。頭骨はカバっぽい。
吻部の上顎に見える部分には骨が無く、象の様に伸びた鼻が外殻に覆われてクチバシの様になっており、それが切歯の役割を果たしている。
その奥に本来の切歯も生えている。
この様に、骨格が無い部分の強度を補うかの様に外殻が発達した動物は、食性に関係無く多いらしい。
この〈ケッカ〉類は世界的にかなりの種数と個体数が存在する。鯨偶蹄目の様なポジションか?
特にこの〈ディナケッカ〉は果実食が強く、落ちている果実を見つけると率先して食べる。
そして、咀嚼が難しい小さな種を消化出来ない。
結果的に小さな種を持つ果樹を中心に、それらの生息域を広げる。そして地に落ちている果実以外、農作物を狙うわけでもない。
その為、ここで彼等は撃退戦以外で狩られる事は無いが、・・・とても美味である。
繰り返すが、そこそこの危険生物でもある。
〈ディナケッカ〉の主食は水草とキノコである。
皮膚が頑強である為、水中移動も可能であり、異常繁殖する水草〈セイセイラモン〉を主食としている。
また森林の土を食べている様な様子を確認出来るが、これは菌糸体、菌の塊を食べている。
とてつもない広さで菌糸体を伸ばす〈オーガナーラ〉なるキノコの様な生物。多分キノコで良いと思う。
タケノコの様な見た目の子実体らしきものを地上に伸ばし、目に見える程の量の胞子を飛ばす。
地上の子実体、地下の菌糸体共に〈アルブ〉達もよく食べる。
おそらく、主要タンパク源はこれだろう。
積極的な狩猟をせずともこれをタンパク源と出来るのだ。
実りの時期が訪れるとここの〈ケッカ〉達は、地に落ちた果実を、集っている生物、虫等ごと喰らう。
積極的な狩りはしないが雑食性の動物であり、動物の死体も喰らう。
メスと幼体が群れを作り、その遠く外周をオスとオスっぽいメスが囲んでいる。
牙の生えていないオスは確認出来ないが、牙の生えたメスは確認出来る。
ロディアの塒より南西の岩石砂漠にも調査に向かった。
同行者はヨハンを背に乗せたロディア。暇なんか?そして、〈サラマンドラ〉に乗ったファティマ。
そこそこ荷物に量がある為、荷車的な物を用意した。
木板を加熱変形させた板バネ、軽量化の為屋根や座席は無し。ファティマが〈サラマンドラ〉に騎乗して操縦。
車輪には〈トライ・アトライ〉のゴムタイヤが使われている。
巨蛇〈ヨルムンガンド〉の通り道である〈ヨウカシルバ〉。その内側の堤防である〈ヨウシィノウス〉。その上を道として、ひたすら西進する。
かなり綺麗に舗装されており、荷車へのダメージもほぼ無さそうだ。幅も三メートル以上あり充分。
丸一日程進むと岩場が目立つ様になり、翌日には遠く見える山の麓まで続く岩石砂漠が目の前に広がっていた。
水場は全く無い。大丈夫か?と思っていたらヨハンが声を上げる。
「見えました!あちらです!」
砂漠の中、巨大な何かが立っている。
電波塔程に高いだろうか。中腹より上には、砂漠には不似合いな程に緑が生い茂っている。
なんだあれは。
ヨハン「あちらが〈トライ・カミラ〉。
〈旅人への救い〉とか〈発展の樹〉とか呼ばれてます。」
それの前に到着する。
近くで見れば確かに樹木だ。
〈原初の樹〉程ではないが、おそろしく巨大だ。
ヨハン「この樹はかなり特殊でして。
充分量の真水を吸い上げる事が出来ていれば、多くの葉が茂り、多くの実を付けます。
水が少なければ、広げた自身の根から枝葉を伸ばす事で、地面付近の水分を保護する結果となります。
水が無い場合も朝露を集め、樹液を造る事に余力を注ぎ、この様な砂漠の様な地にあっても、最後まで立ち続けます。
例え他の生物達が滅ぼうともです。
この樹によって命を繋いた生物はとても多いでしょうね。」
〈トライ・カミラ〉。
発展の樹ね。なんか分かってきたな。
ヨハン「ここに中継基地を作りたいのです。」
ですよね。
コイツ、なんかノボルっぽいんだよな。このイキナリムチャ振り感とか。
言葉は丁寧なんだけどな。




