第二十五話
話の内容とは裏腹に、ロディアは楽しそうに説明を続ける。
ロディア「草食動物の数の調節は全然上手くいかなくてですね。年々植物が減り、砂地や岩場が広がっています。
南西の海沿いから先は特に酷い状況でして、この六十年で十倍以上の広さになってしまっているはずです。
ご意見等頂ければと。」
何処かで聞いた様な話だな。
あぁ思い出した。
[小さな草食の獣で植物の根まで食べる様な動物は居るか?]
ロディア「大型ではなく小型ですか?」
そう小型だ。
離島での山羊の食害に状況が似ている。
カメラなど無いのだ。食性の観察なんてやってもいないだろう。
そもそも自然環境の管理自体とても高度だ。
身の安全の為にと滅ぼしてしまった肉食動物のニッチを自分達で埋めねばならない。
しかもこの島の場合、積極的に狩りをしないのだから状況はかなり悪いだろう。
[大型の草食獣が食べるのは樹木の葉や果実、樹皮等のはずだ。
小型は草や若木を根まで喰らう。
結果、緑地ごと失われる。]
ロディア「根ですか。
言われてみれば〈イスバァン〉という名の〈ガウル〉がずいぶん目に付く様になりましたね。
アルブ達よりも小さな背丈のガウルです。
スミロッドやアスレの畑が荒らされていると聞いています。」
〈ガウル〉は四足獣、〈スミロッド〉は根菜の類、〈アスレ〉は麦っぽいやつだったな。
[駆除するならソイツかもしれない。
小さな島なんかだと植物食い尽くして自分達も飢えるなんて事が起こりうる。]
ロディア「ノウラとフラウには沢山食べているからと大型の狩りをお願いしていました。
間違えていたかもしれませんね。
あぁ、ゴメンナサイね、ヨハンの妹のアナさんよね?」
アナ「あ!ハイ!ロディア様!アナです!」
ロディア「私達はこれから〈イスバァン〉の対処に向かいます。
解体は何処に持ち込めばよろしいかしら?」
アナ「ハイ!この辺りですとスミロッド農場責任者のケインさんが確実です!
ノウラ様とフラウ様もケインさんの所に持っていかれているはずです!」
アナの兄ヨハン。
彼が管理しているというシステムは実に面白い。
〈コンニチワオシゴト〉が対価を支払うのは、依頼達成と一次生産品買い取り、そしてあらゆる中古品の買い取りのみだ。
新品加工品は〈コンニチワオシゴト〉以外でしか買えない。
この対価は数値化された債権として借用書が手渡される。
〈スプライス〉なるツル植物や、〈サリィライルフラウ〉なるキノコなどの絵と、文章の印鑑が押されると共に、染色と数字の刻印がなされている。
完全に紙幣だ。
一、十、百、千、万の五種類があり、単位は・・・〈草〉と漢字で書いてある。
この〈草〉を大量に発行し、対価として支払う事で結果的に経済圏への通貨供給となっている。
日本でこれを例えると、公共事業と人材派遣、一次生産品の市場、質屋や中古品市場、これを日本銀行が直接運営している様な状態だ。
統合政府と見方を変えればこれに従事する者達は、非正規公務員といった所か。
金融市場は存在せず、〈コンニチワオシゴト〉の一括管理だ。
現状、信用創造と預金管理のみだからな。
不動産市場も存在しない。
基本的にこの島の全てはロディアの物であり、すでに開拓された土地の管理を〈コンニチワオシゴト〉が請け負っている形だ。
新たに建築された住居はロディアへの献上品であり、〈コンニチワオシゴト〉が相当な額の対価を支払う。
背の高い平屋建てがほとんどだ。
いわゆる家賃は、個人の経済状況に応じて変動する様なのだが、普段は無いに等しい金額らしい。
恐らくこれはインフレ時の通貨回収の為の保険だろう。
普段は無いに等しい家賃、インフレ時に買い物をさせない為に家賃を取るという事ではないかと予測する。
徴税に近いか。
〈コンニチワオシゴト〉による、買い取りで通貨供給、売却で通貨回収。
この〈草〉という通貨の目的は、〈生産力の最大化〉であり、これは紙幣にハッキリと明記されている。
ほとんどの住民達は〈引換券〉位にしか考えていない様だが。
ロディア「それでは参りましょう!冒険ですよ!」
そうだね冒険者ギルドだね。〈好きな人にとっては楽しい〉ってのはそういう事か。
朝日の当たる海沿いをロディアと共に走る。
百メートル程の幅で海岸が見える限り全て平らに均されている。
その内陸側に堤防の様なものがあり、これがずっと繋がっている。
もう数十分程南東に向かい走っただろうか、ずっとだ。
ロディアが立ち止まり、堤防の上で横になる。
休憩だろうか。
「少しここで待ちましょう。」
海側の均されている部分が気になる。
植物が減っているという話だったにも関わらず、かなりの植物が薙ぎ倒されている。
これがヒュドル付近の海岸からここまで途切れる事無く続いている。逆側にも続いていた。
ロディアに聞いてみる。
[ここにこれから道でも造るのか?幅が広すぎる様に見えるが。]
ロディア「いえ、これは〈ヨルムンガンド〉が通った跡です。巨大な蛇ですね。」
前に聞いたアレか?
[〈砂漠の巨大蛇〉というヤツか?]
ロディア「いえ、別です。
〈ヨルムンガンド〉や〈ヴェルグリンド〉、〈ダイダラン〉と呼ばれる巨大生物がおりまして、海沿いを泳ぎながら海面付近の生物を捕食し、海沿いの陸地を移動しながら若木や生育の速いツル植物を食します。
この島ですと、一年程をかけて一周しながらこれを繰り返すのです。
結果、その巨体によって沿岸が均されてしまうわけですね。
この島では〈ヨルムンガンド〉ですが、〈エイグレア・ヒィサァカ〉では〈ヴェルグリンド〉が同じ生態です。」
巨竜〈ヴェルグリンド〉。
デカい〈竜骨〉のヤツか。
そういう生態だったのだな。もっと凶暴なヤツかと思っていた。
いや、ただデカいヤツが動き回るってだけで危険っちゃあ危険か。
[陸に上がるのは海沿いだけなのか?]
ロディア「私が知る限りではそうです。
言い伝えには、〈狂った巨竜は黒竜を喰らった〉なんていうものもあるにはあります。」
・・・〈孤独相〉ってヤツじゃないよな?おっかねぇ。聞き辛れぇ。話逸らすか。
[そういえば、目的地はあとどのくらいだ?チビ二人が多少気にかかる。]
ロディア「あぁ、目的地には到着していますよ。皆が起きるのを待っています。」
・・・気遣いだなぁ。




