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フーガック生物図鑑  作者: 遠藤迄太郎
巨獣の島とロディアと盟約

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20/24

第二十話

 大きなからすの様な生物達が私達が乗る気球を追ってきている。


 我々よりもかなり低高度ではあるが、上昇気流にでも乗られたら届きそうな距離だ。

 非常にまずい。

 真下に見える陸地に降りる事が出来ない。


 ガスが切れる前にあきらめてくれる事を願うがかなりしつこい。


 不安要素が多すぎる。


 目下の森林が相当な速度で駆け抜けていく。

 私達が進む方向に向かって木々がいでいる。


 私達を包む気団(気団)ごと移動しているのか?

 そうであるならば、カラス共は延々(えんえん)と追尾ついびしてくるのではないか?


 ガスがいつまで持つか分からない。

 ずいぶん持った方だ。

 いや、かなりおかしな程に持ちこたえている。


 そしてまた、日がかたむいている。


 夜が来るのだ。


 その前にやらねばならない事がある。睡眠だ。

 明らかに判断力の低下を自覚出来る。

 これ以上はいけない。


 ヴェルグリンドの〈竜骨〉はまだ使えそうである為、交換のみを行い、投棄とうきはしない。


 最悪墜落したとしてもトリコ達を保護出来る様に毛布で包み抱きかかえる。


 この気団を出てはならないならば、過度に高度を上げてはならない。



 大博打だ。



 三分。このまま三分の睡眠を取る。



 ・・・百八十・・・百七十九・・・百七十八・・・






 ・・・バーナーの炎がゴンドラの中を照らしている。トリコとニャフンは眠っている。


 彼等を内包した毛布を床に置き、確認を行う。


 ・・・不味まずいな、やはり寝過ごした。


 外は真っ暗だ。以前から感じていたが、この身体は際限なく喰らい、際限なく眠る。


 水平線は斜め下、であろうか。

 星空が途切れている様に見える。

 かなりの高度だ。


 進行方向は南西。何者にも追尾されてはいない。


 交換した竜骨の重量を確認する。

 ・・・明らかにおかしい。

 私は寝惚ねぼけて交換しなかったのか?

 中には明らかに液体が詰まっている。

 やや温かい。


 ・・・いや、それだけじゃない。


 目を凝らしてよく見ると、光がまとわりついている。


 これは、光の糸?天に向かって延びている。

 いや、空から垂れている様に見えるあの糸か?


 更によく見てみると、この気球自体を包んでいる?なんだこれは?ずっとそうだったのか?


 ・・・〈竜骨〉と気球だけではない。

 ニャフンにも光の糸が纏〈まと〉わりついている。


 ここに存在しているのか?触れる事が出来ていないか?光ではなく光源?通り抜けてしまうが、やや抵抗があるように感じる?


 ・・・分からない事だらけだ。


 その糸は、明るくなると見えにくく、やがて見えなくなった。


 ・・・また太陽が昇る。

 ・・・やはり相当な時間を眠ってしまっていた様だ。


 新たに昇る太陽が照らしているのは海ではなかった。

 

 真下は陸地だ。

 目下に岩石砂漠とサバンナ、遠くに大森林。

 海がほとんど見えない。

 背後にそれらしきものが見えるだけだ。


 遠く南西、更に遠く地平の向こう南にも煙が見える。

 規模からしておそらく噴煙ふんえんだろう。


 火山島なのかもしれない。


 付近には人工物らしきものはなにも無い様に見える。


 バーナーの火力を弱め、リップラインを操作し、少しずつ高度を落とす。


 数日だった。


 だが何年も飛行していた様に感じた。


 着陸は成功。

 気球に破損無し。

 バルーンを丁寧ていねいに回収してたたみ、ゴンドラに押し込む。

 リップラインを利用して背負子の様に背負う。


 先ずは食い物だ。森に向かおう。何かあるはずだ。






 三十キロ程を歩いただろうか?崖の上に森林が見えてきた。


 ニャフンはゴンドラの中にひそませている。


 トリコは周辺警戒しゅうへんけいかいをしてくれている様だ。

 おそらく意図的いとてきであろう、こちらの視界内からは出ていかない。


 それにしても、ここまで歩いてきたサバンナに獣が居ない。

 小動物すら見つけられない。

 居ないのか。見つけられないのか。


 崖を登り森に入る。


 程なく、変化があった。



 『ーーー。ーーーーーー。ーー。ーーーーーーーーーーーーー。』



 声が聞こえる。声のみだ。私は身構みがまえる。



 『ーーー、ーーーーーー?ーー、リル?』


 「まさかあなたは〈神獣しんじゅう〉か?この言葉は分かるか?」


 日本語だ。


 急ぎ荷物を降ろし、地面に文章を刻む。


 [私の名前はリケイ。

 確かに〈原初の島〉では〈神獣〉と呼ばれていた。

 この文字は読めるか?私は生まれ落ちて間もない。言葉を発音出来ない。]


 後退して、地に刻んだ文章に向けて指を差す


 後ろからやぶをかき分ける音。

 私の横に並ぶ形で姿を現した。


 「・・・本当に〈リワァド〉。

 発音出来ないのは大変不便でしょう。ぜひ付いてきて下さい。」


 全く敵意を感じない。綺麗な日本語だ。


 体毛は純白、細長い四肢の狼の様な体型、四肢の他に一対の鳥類の様な大きな翼。

 白いタテガミオオカミにアホウドリの様な翼、といった見た目であろうか。


 体高はヨシミよりもやや高くテオよりは低い。


 「私の固有名こゆうめいは〈スカイ・ノウラ〉。

 ノウラとお呼びください。

 過去数度勘違いされた事がございますので一応申し上げておきますと、私は〈神獣〉ではありません。」


 私はうなずく。

 確かに〈野浦のうら〉や〈ノーラ〉、〈スカイ〉は苗字みょうじや名前として存在するはず。

 それで間違われたのだろう。


 ノウラの案内を受けて森を進む。


 緩慢かんまんな動きの巨大な獣が多い。

 かなりの距離でも目視確認出来る程度には巨大だ。


 ・・・食欲を刺激されてしまう。

 保存食は全てトリコとニャフンに与えてしまった。

 気球には元々大した量は入っていなかった。

 もう干し肉ひとつとして残っていない。


 ノウラ「リケイ様は空腹ですね?肉と果物でしたら十分にございますよ。」


 リケイ〈様〉ね。

 〈神獣〉の存在を知っていた事といい、〈原初の島〉からはさほど離れていないのか?原初の島周辺の島々は〈竜の眷属〉の領域である為、大変危険だという話だったが。


 やがて洞窟に辿り着いた。

 いや、洞窟じゃない。またトンネルだ。

 コンクリートっぽいな。

 半径五、六メートル程の半円だ。


 そういえばミユズが〈天より隠された〉と言っていたな。

 地下に隠さねばならない物の条件でもあるのだろうか?


 案内のままトンネルを進む。

 流石に電気はついていない。やや登りだ。

 五十メートル程先だろうか。奥が明るい。


 トンネルを抜けると神殿の様な場所に出た。


 目算直径五十メートル程だろうか。

 円柱状えんちゅうじょうの空間、壁は石積とコンクリート建造物の外壁の様な壁、天井は木造の屋根らしきものがあり、中央に空いた穴からは空が見える。

 明かり取りだろうか。


 壁に何かえがかれている。

 やや肩や背中の大きな狼の様に見える。


 躍動感やくどうかんを重視したであろう、漫画の一コマの様な絵だ。


 「ノウラ、お客様ですか?なつかしい匂いがしますね。言葉はこれで合っていますか?」


 何処どこからかこえひびく。


 ノウラ「こちらはリケイ様、〈神獣〉であらせられます。

 〈原初の樹〉より産まれられて間もない為、マルキド語は少々、〈リワァド〉による筆談ひつだんが望ましいとの事です。

 紙と鉛筆を用意してまいります。」


 それは神殿の端から現れた。


 テオ程に大きな狼だ。

 恐らく壁画に描かれている者であろう。


 「あぁおずかしい。

 そちらは私の留守の間に私の姿を模して〈アルヴ〉達がえがいてくれたものなのですよ。

 私の住処である事を証明するもの、なのだそうです。」



 銀と白の体毛、美しく、巨大な狼がそこに居た。



 「始めまして、〈神獣〉リケイ様。

 〈クラン・ロディア〉が私の固有名です。


 どうぞロディアとお呼び下さい。」

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