第十五話
とても良い友人が出来た。
彼女の名は〈テオ〉。〈ウロボロス・ドラゴン〉の女性である。
山頂が森の外に位置する〈エイオゥガ・テオス〉、意味は〈黒竜の山〉。
彼女はそこに住んでいる。
もちろん〈テオス〉は彼女の事である。
山の村側、中腹まで〈原初の森〉が広がり、その外側に〈トライ・バーミリオン〉の森林が広がる。
原初の樹より産まれて一ヶ月程経ったが、テオとは毎日の様に共にいる。
ある日には海より来る、黒蛇や陸鯱の集団、〈テオタータン〉を共に駆除し、ある日にはバーミリオンの外からハイエルフを狙うワイバァンを狩り、またある日には近くの海岸にて彼女の特性を見せてもらった。
テオ達〈黒竜〉は、翼爪、翼の先にある爪から爆発する液体を分泌する。
これは爪から外に出た後は、時間が経つか衝撃を与えると爆発する。
普段は翼を形造る第三指から第五指の中に留めておけるのだが、ふいに翼を強く振る等すると漏れ出してしまう事があるらしい。
初めて会った日のあれは、躓いて地面に翼をぶつけてしまった結果、外に漏れ出た液体が爆発し、下草に引火してしまったとの事。
これはもちろん攻め手にも利用され、翼を前に羽ばたく様にして敵対者にその液体をぶつけ、爆発させる。
テオ「ニカ、ケガしなくて良かった。あの子、大事。」
テオはモカをミドルネームの〈ニカ〉で呼ぶ。〈モカ〉を発音出来ないからだ。
ちなみに〈ニカ〉は遥か西の地名であるそうだ。
テオ「ニカ、小さな頃、〈ディナ〉で居なくなった。赤い竜に保護されて、遥か西に行った。赤い竜はここ、知らなかった。」
十八年前、当時五歳のモカは、〈森〉で迷い赤い竜に保護されたと。
赤い竜はこの村の存在を知らなかった為、共に西へ向かったという事らしい。
赤い竜はモカをハイエルフではなく〈エルフ〉だと誤認してしまい、隠れ住む事が多いエルフの里を探すのは大変だと判断し、保護し、旅を続けたのだという。
赤い竜は急いでいた為、里を探す事自体しなかったそうだ。
三年程の後、その赤い竜に乗ってモカは戻って来た。
その際お詫びとして、彼が分かる範囲の地図を始め、彼が背負って飛べる程度の物をここへ運び、残していったという。
テオ「では、約束通り、お願い。」
今日は彼女に竜の身体でも使えそうな格闘術を教える、もしくは開発する事になっている。
産まれて間もない私との手合わせで、彼女は一度も私に勝てていない。
このありえない事がとても楽しい様だ。
私も、自身が何をどの程度できるのかを知る為にとても都合が良かった。
テオ「テオスを複数で殺す、あり得る。一人で圧倒する、あり得ない。
リケイ、強すぎる。」
確かにこの身体、私の身体は少々異常だ。
立ち幅跳びで目算六メートル以上を跳び、助走を付ければ二十メートルを軽く超えているだろう。
おそらく百メートル程を五秒かからず走り抜けている。
爪は硬く、その辺りの岩や樹木を殴っても傷ひとつ付かない。
というよりも、初日に川で己の電撃を喰らった以外で痛みを感じた事が無い。不安になる位だ。
試しにテオの爆撃を喰らってみたのだが、特に何があるというわけでは無かった。
あぁ、体毛は少し焦げたか。
私がテオに教えているのは、〈さなぎ兵術〉、その入り口。〈さなぎ兵術〉は、まぁ格闘技の流派だと認識してもらえれば良い。
これは、徒手空拳を基本とする〈剛術〉、刃物を扱う〈葉術〉、投擲や弓を扱う〈素弓術〉に分かれ、ひとつを基本として他も修める。
私、ノボル、リュウは、この〈さなぎ兵術〉を使う。
先に注意しておくが、〈過呼吸〉になりやすい者は決して真似をしてはならない。これは現実に作用する。
今テオが実行しているのは、やや身体を強張らせる程度に全身で力み、ただ息を限界まで吸い切る、限界まで吐き切る、これを繰り返させているだけである。
所謂インチキとされがちな呼吸訓練なのだが、これには目的がある。
これを実行するだけで筋肉痛になったり、筋肉がつったりする者がかなり高確率でいるのだ。
そうなる者は先ず基礎訓練となる早歩きやランニングから始める事になる。
未熟であっても単純に持久力が上がる為、これを行ってから訓練を始める。
これは一部、地球でも実際に似たようなモノが長距離走等で使われている。
疑う者は試してみる事を勧める。今まで走れなかった距離を走れるようになる。
但し、繰り返すが、過呼吸になりにくい者である事が条件だ。
最初は、座るか横になった体勢で始めるべきだ。
日本に居た時のリュウを例に話をすると、彼は百メートルを十一秒台で走り、三百メートルを三十三秒台で走り抜ける。
三百メートルのこれは女子競技の世界記録を上回るのだが、注目すべきは、百メートルでも三百メートルでもペースが変わらないという事である。
競技に特化したトレーニングをしているわけではないにも関わらずだ。
つまり、この訓練の先にある〈技〉を会得すれば、格段に持久力、もとい、継戦能力が伸びるのだ。
さなぎ兵仗素弓術・鶏皇(さなぎひょうじょうそきゅうじゅつ・けいおう)
〈さなぎ兵術〉に於いて、最も優先される〈技〉である。
見学していたタチアナとヨシミがそのうち訓練に参加する様になり、その後ハイエルフ達も数十名が参加する様になった。
ミカとモカも参加している。全員が全員真面目にやっている。
というよりは余裕がある様に見える。
ハイエルフの身体は人間のそれよりもずっと強いのかもしれない。
関係無いが、気になる事がひとつ。
モカの右手首から先が赤子の様に小さい。他の者達には全く見られない特徴だ。
そういう病でもあるのだろうか。
ノボルとリュウはずっと布を作り、それを大きく縫い合わせているらしい。
帆船でも作る気だろうか?
海や湖は危険だと聞いていたが。
私が産まれて三ヶ月程が経ったであろうある日。
ノボルとリュウは完成させた。
ノボル「結局、立案から数年かかっちまった!完成だ!」
そこには洋梨を逆さにした様な形の大きな布の袋が浮いている。
気球だ。
ノボル「コイツで海を渡る!」




