第十三話
彼等は跪き、叫ぶように声を発する。
『バカキエロカスガ!マジデシネカスガ!モウヤダー?!』
・・・なんて?
タチアナ「〈バカ・キ・エロ・カスガ〉はノボルの名前、〈マジ・ディ・シネ・カスガ〉はリュウ君の名前。
〈モウヤダー?〉はこの状況だと〈こんなところで何やってんですか?〉だね。」
あぁ名前、そうだったな。〈カスガ〉はたしか、王族の苗字だったか。
声を発した男性の名は〈フアン・アスマキオ〉。
細身で長身、筋肉質。
陸上競技等が向いていそうな体型だろうか。
後ろに控える男性は〈ベリウス・イーズ〉。
無骨。
身長はそこまででは無いが、単純に強そう。
格闘家体型と言えば良いだろうか。
女性が〈メイ〉。
細身、小柄、女性的な体型。
だが服の袖から覗く両手に、武器訓練の跡であろうものが見える。
三人とも前合わせの服を帯で締めている。
フアンとベリウスの物は白く道着っぽい。
メイの物は藍染めの浴衣っぽい。
〈カスガ家〉の養子の様な形で扱われている、ノボル、リュウ、タチアナの世話係兼護衛として側仕えをしているのがこの三名である様だ。
ヨシミは〈竜〉である為、カスガ家の客人、という扱いらしい。
余談だがこの地では、基本的に王族以外の者に苗字は無い。
フアンとベリウスが王族では無いにも関わらず苗字を持っている理由は、一度ここを旅立ち、それぞれが〈アスマキオ〉と〈イーズ〉という地に到達して情報を持ち帰ったからだという。
気になる事がある。
集落の人々の生活は、簡易的な建造物でのキャンプ、といったイメージのものだった。
ある程度の人工水路が引かれてはいるが、水は汲みに行かねばならず、燃料は薪、炭、油だった。
生活レベルの印象としては石器時代程度だろうか。
だが衣服や、干されている洗濯物であろう物に、かなりの違和感があった。
ノボル達の物もそうだが、布地を一見すると現代日本の物と変わらない様に見える。
生活に対して少しレベルが高すぎないか?
ノボル、リュウ、タチアナは、フアン達に保護同行、もとい連行され、私とヨシミはメイにより、丁寧に案内を受けた。
程なく〈カスガ家〉の母屋に到着した。
コンクリート平屋建てに緑青の屋根、といえば伝わるだろうか。
明らかに石器時代の代物では無い。
現代でも住居、ともすれば要塞として通用する物だろう。
広いな。敷地は数ヘクタール程もあるか。
屋根は銅か青銅辺りか?
金属板である事は間違い無いな。
触れてみれば充分以上の強度を確認出来る。
という事は、金属源と金属加工技術があるということだ。
ヨシミ「近くに、とはいっても森の外だけど。
〈死の谷〉、〈ゾオジルシィ〉って所があってね。
そこでかなりの金属が採れるらしいのよ。」
・・・ぞおじるし?
ヨシミ「〈ゾォン〉は死、〈ジルシィ〉は谷。」
・・・死の谷ね。まぁいろいろ有毒だろうな。
広いホールに通された。
上位者との謁見が始まる、と思っていた。
我々は何故か壇上に通され、座らされた。
まるで玉座だ。六つ並んでいる。
ノボル、リュウ、タチアナ、ヨシミ、そして私と・・・なんか黒いコウモリの様な翼を持った白猫?それとカカポ?緑のニワトリみたいなのが居る。
なんだあれは。
ノボル「リケイさん、気にすんな。
〈原初の樹〉から産まれるとこういう扱いになる土地なんだよ。
取り敢えずそのまま座って出されるもん食ってりゃいい。」
ノボルはバツが悪そうに声を絞り出す。
なんなんだ一体?
千人程であろうか。ハイエルフ達が集まっていた。
彼らは綺麗に列を成し、跪いた。
始まったのは明らかに儀式だ。
ヨシミ「この玉座は〈ルリンクドーラ〉、〈聖者の祠〉の中の卵の数だけ造られる。
おチビたち二人はひとつの卵から六年前産まれた。その時もこの〈祭り〉は行われた。
私達が産まれた時もね。」
・・・あー、つまりこれは・・・。
ヨシミ「あなたの生誕祭よ。付き合ってあげるだけで良いわ。」
挨拶が始まった。
「「「感謝します。
世界はすでに救われここにあります。
感謝します。
私達はすでに救われここにあります。
感謝します。
恵みと生に感謝します。」」」
おもいっきり流暢な日本語だった。
おもいっきり宗教クセェ挨拶だった。
なんだよこれおっかねぇ。
ヨシミ「ここで日本語は〈リワァド〉、〈神語〉と呼ばれているわ。
〈ワァド〉は〈言葉〉、そして〈リル〉は〈神獣〉、〈原初の樹〉より産まれた者。
私達の事よ。」
・・・信仰対象は私達全員、という事だな。
ノボル「しかもヨシミさんは喋る竜。まぁ神扱いなんだわ。俺等もなかなかだけど。
日本語喋れるヒトらもそこそこいるんだよ。日本語で書かれた本を読むためだな。」
流石に情報量が多いな。後で纏めなければ。
突然ホール中央に道が開けられた。
女性が一人立っている。
柔らかく綺麗な音が響く。
これは楽器か。
タチアナ「あ、歌が始まるよ。
あのヒトは〈モカ・フェルミ・ニカ・エル〉。
カスガ家の分家、〈エル家〉のお姫様だよ。」
ノボル「言っちまえば、〈原初の歌姫〉って所だな。ファンも多いんだよ。」
歌われたのは〈テオス・ドラゴン〉。
日本語で言えば、〈黒竜〉。
荒ぶる竜との戦い方を伝える歌、とされている様だ。
『白雲に隠された闇を恐れなさい
決して起こしてはならない
決して触れてはならない
怒りを買えば全てを失うだろう
それは火吹き山の、毒の森の、暴れ川の、この世の全ての暴力の顕
決して起こしてはならない
決して触れてはならない
怒りを買えば全てを失うだろう
金色の双眸を恐れなさい
決して視てはならない
決して視られてはならない
怒りを買えば過去を失うだろう
天に地に轟くその声を恐れなさい
決して聴いてはならない
決して探してはならない
怒りを買えば未来を失うだろう
暗い万虹を恐れなさい
決して立ち塞がってはならない
決して背を向けてはならない
怒りを買えば全ての隣人を失うだろう
漆黒の剣を恐れなさい
決して抜かせてはならない
決して振らせてはならない
怒りを買えばその心を失うだろう
立ち並ぶ刃を恐れなさい
決して開かせてはならない
決して閉じさせてはならない
怒りを買えばその身を失うだろう
鈍色に隠された素顔が顕になったならば
許しを請わねばならない
全てを捧げねばならない
至上なる者の怒りを買ってしまったのだから
白雲に隠された闇を恐れなさい
決して起こしてはならない
決して触れてはならない
怒りを買えば全てを失うだろう
それは火吹き山の、毒の森の、暴れ川の、この世の全ての暴力の顕あらわ
決して起こしてはならない
決して触れてはならない
怒りを買えば全てを失うだろう
竜の視線を恐れよ
竜の咆哮を恐れよ
竜の翼を恐れよ
竜の爪を恐れよ
竜のアギトを恐れよ
そして、竜の素顔を恐れよ
嘆き続ける竜に救いを
復讐の竜に救いを
至上なる者に救いを』
タチアナ「荒ぶる竜との戦い方を伝える為の歌、って言われてるけど。なんか違うんだよね。
歌は好きなんだけど。」
私も訳された歌詞を読んだ。
確かに違和感を感じた。
とても優しい旋律だった。
強い言葉を乗せるのには少し、不似合いに感じた。
何か別に伝えたい事があるのか?
・・・情報量が多すぎるな。
今日はもうパンクだ。




