第十二話
住民が集まって来た。私を警戒しているのだろう。
無理もない。よくよく見ればこのヘビ、バケモノだ。いや、ヘビというよりも黒くて長い雷魚、もしくは太いコチ頭ウロコウナギといったイメージか。
目算体長10メートル以上、目算体高1.5メートル強。頭はデカいが軽い。頭部のほとんどが吻部の役割なのだろう。
肩があり肩甲骨と鎖骨の様なモノも確認出来る。ヘビの様に這うと共に、四肢部分の爪を使いシャクトリムシの様な体勢から跳躍する様にも襲い来る。
訂正だ。黒くてバカデカいツチノコだな。
こんなものを難なく、しかも一度に三匹も殺してしまう様な人外が現れたのだ。警戒は当然だろう。
そんな中、ヨシミが住民に何かを伝えている。
『ーーーーーーーーーーー!』
わからん。現地の言葉なのだろう。
「〈彼もリルだ。心配はいらない。食料になるはずだ。解体を頼みたい。〉、だって。まぁ大丈夫だよ。」
タチアナが教えてくれた。よく気が付く子だ。ありがとうと言いたいが「ゥワゥフ!」と犬の様な声しか出せん。
・・・〈リル〉ってなんだ?話せんのは不便すぎる。
ノボル「そんなことより!スキル!魔法!」
・・・コイツ本当に楽しそうだな。
リュウ「後にしろ。結構異常事態だぞコレ。
黒蛇は海以外じゃ群れねぇだろ。しかもここ森の外だし水場からも遠い。」
〈テオミィア〉。コイツは単独で生活するらしい。
基本的には、森の中や水中での待ち伏せ型の捕食動物の様だ。
嵐等で海まで流された場合や、海まで流された卵から孵った場合には集団で淡水域を目指して遡上、もしくは陸に上がってくる場合もあるらしい。
それが平原で、しかも複数で村を襲った。確かに異常行動に思える。
ノボル「ん?あぁ、〈肉屋〉から逃げ出しただけだぞ。多分。」
・・・〈肉屋〉?
リュウ「〈肉屋〉?」
タチアナ「?」
リュウも知らないらしい。タチアナも知らない様子だ。
ノボル「ん〜?・・・あぁ!そうか!〈汚れ仕事〉つって遠ざけられてんだっけか。
オレは結構しれっと覗きに行ってる。」
ノボルは一冊の本を取り出し、説明を始めた。
「丁度持ってたわ。割と距離あるから歩きながらな。」
〈原初の樹〉から海に向かってほぼ直線上に六ヶ所、大きな洞窟が口を開いている。
この洞窟は〈メイキュウセッカクガイ〉、〈迷宮節殻貝〉と呼ばれる貝の様な生物により、海から掘り進められているそうだ。
通常個体としての体長は、目算30センチから1メートル程度。分厚い三葉虫の様な見た目らしい。
海中の崖、特に海食崖に取り付き、前向きに伸びた触腕による穿孔を開始する。
これは〈穿孔触腕〉による〈穿孔行動〉と表現される。
この穴が自身の大きさ以上程度になると、貝を下にして入り込み、更に穿孔行動を行う。平行して穴の拡張も行いながら自身も成長する。
前向きの触手を〈穿孔触腕〉、これは複数形成される場合がある。
左右に伸びる触手を〈拡張触腕〉、これは例外無く左右に一本ずつのみ。これは体外消化、吸収、吸水管による捕食、吸収を行う事が出来る。
後に腹側から伸びる触腕を〈固定触腕〉、これは無数に伸ばされる。
拡張触腕による拡張は倒れた円柱状に進められ、〈迷宮節殻貝〉本体は天井付近に位置する形となる。
この時期になると拡張触腕より伸びてくる吸水管による吸水行動、プランクトンの捕食に重きを置いた生態となる。
この穴が直径目算数メートル、奥行き目算も数メートル程に達する頃、自身をより強く固定する〈固定触腕〉なるモノを腹側から放射状に伸ばし、天井面を侵食、分泌物により同化、固定される。セメントの様な成分の様だ。
平行して穿孔触腕と拡張触腕も同成分で固定され、触腕としてはほぼ動かなくなる。
また同時期、穿孔触腕先端に、血管の様な器官で自身と繋がった自身のコピーを作る。
これらの工程を繰り返す事で長大な洞窟を形成する。
洞窟がある程度の規模になると、血液をより遠くまで送り込む機能を持つ心臓の様な役割の器官、〈心宮〉を形成。
〈宮〉とは部屋、フロアだと思っておけば良いらしい。
心宮形成の前後、大規模な捕食器官である〈死宮〉を形成。これは拡張触腕の吸水管が発達したものである様だ。
洞窟が地上に達してから形成される。
縦穴になっており、落ちて来たものを消化吸収する。
原初の樹の根まで辿り着くと、接触部分で同化し、その後、心宮、死宮以外の機能を持つ〈宮〉を形成出来る様になる。
この中に〈卵宮〉なる〈宮〉があるらしいのだが、これは聞く限り、とても有用であり、悍ましい。
〈卵宮〉は付近に〈死宮〉を形成し、そこから生物の生体を取り込み、取り込んだ生物の生殖器官を利用し、発生段階から洗脳した子を成し、自らの手足として使うのだという。
〈迷宮の成長〉には膨大な時間を要するが、この〈迷宮節殻貝〉、どうやら寿命の概念が無い様だ。
自然死した個体が発見されていないとの事。
この世界の危険極まりない海を、唯一渡ったとされている船、〈ハクロ号〉。
その乗組員である〈センカ〉による観察、研究であるらしい。
ずいぶんと昔の話ではある様だが。
ノボル「この〈センカ〉ってヒト多分、〈メイキュウセッカクガイ〉大っ嫌いだよな〜。」
本の内容を音読しながらノボルは言った。私も読ませて貰ったが確かにそういう印象を受ける。
この〈センカ〉ってのも日本人か?日本語で書かれている。
ノボル「そんでだ、あえて〈卵宮〉に可食動物取り込ませたらどうなると思う?」
ヨシミ「・・・なるほどね。
考えてみたら大規模な畜産やってるわけじゃないのに、十分以上の肉があったわね、ずっと・・・。」
リュウ「あー・・・そういう。」
タチアナ「全然知らんかったよ。十何年もここにいたのに。」
つまり、卵宮にあえて食べられる動物を取り込ませて産ませ、それを食用にしているという事だ。
〈肉屋〉とはその管理者の事だろうか。
ノボル「卵生の〈一生類〉の〈迷宮クローン〉はほぼ成体の状態で産まれてくるからな。
ヘビとか魚とかだと産まれてすぐ食える。
でも多分、赤子殺してるみたいで気分悪いから〈汚れ仕事〉なんだと思う。」
・・・〈汚れ仕事〉ね。
〈迷宮クローン〉は何となく解ったが・・・〈一生類〉?聞いた事無いな。
タチアナ「〈多生類〉ってのが居てね。オタマジャクシから魚になってトカゲに成長する、みたいなのがいるんだよ。
〈一生類〉は最初からトカゲ、みたいな。その中間が両生類になるのかな。
両生類もその辺にいるよ。」
あぁなるほど、イメージ出来た。〈多生類〉ね。そんなのが居るのか。
ノボル「海のプランクトンだの動物の死体だので肉作ってるかと思うと、なかなかのご都合生物だよな。
餌いらねぇんだぜ?」
本当に野生生物か?という疑問が湧いてしまう。
話を聞きながら歩いていたら洞窟の入り口に到着した。
ノボル「この下に〈テオミィア〉を食わせた〈卵宮〉がある。」
階段の様に加工された洞窟を降りていく。床壁天井全てカルシウム質に見える。
壁の一部が粘液で覆われている。これが〈拡張触腕〉なのだろう。
天井にあるコブが〈迷宮節殻貝〉の本体か。
以外な程に明るい。本体の一部と拡張触腕の粘液に覆われた部分がホタルの様に光っている。
体感数分降りると大きく開けた場所に出た。
大きな球体、カルシウム質で包まれているのだろう、表面は白く、ざらついている。
直径がトレーラー程もあるそれが複数、三〜六並び、その上にひと回り小さな球体が乗っている。
これがひとつの〈宮〉にひとつずつ、地上に六、水中にも六、存在していた。
磯臭いな。海水か。
壁と天井に目をやると、いくつのも光源がある。〈宮〉は、膨大な数の〈迷宮節殻貝〉により形成されているのであろう。
ノボル「これが〈卵宮〉。上の玉が生殖器官。受精した胚を下のデカい玉に落として生育させてるっぽい。」
リュウ「・・・SF?バイオハザード感・・・。」
タチアナ「・・・なにこれ。」
ヨシミ「・・・あなたちゃんと情報共有しなさいよね。こんなの存在すら知らなかったわよ。」
ノボル「だってみんな狭いトコ嫌がるし。なんかいろいろ忙しそうだったし。」
聞きたい事が山程あるのだが、しゃべれん。会話に入れん。
普段は地上に〈迷宮クローン〉?は出てこないんだろ?なんで今回出てきたんだ?
タチアナ「〈迷宮クローン〉だっけ?いつもは地上に出てこないんでしょ?見たこと無いし。
なんで今日いたの?」
・・・タチアナ・・・ナイス。読心術とかじゃねぇだろうな。まぁ構わんが。
ノボル「あぁ、出てきてるぞ。普段から。」
リュウ「いや、見たこと無いんだが。」
ノボル「産まれたばかりの〈テオミィア〉の〈迷宮クローン〉は、いつもなら水中に向かう。そんで〈ダンジオン〉を超えて海に出る。そんで魚やら海岸の動物やらを食ったり、持ち帰ったりする。」
・・・〈ダンジオン〉?食うは分かるが〈持ち帰る〉?
ノボル「まぁあれだ。いつもは海側に出て戦士達に狩られてる。
手伝った事あんだろ?〈テオタータン〉の駆除。あれだ。」
ヨシミ「〈テオタータン〉!あれか!」
タチアナ「〈テオ〉は黒、〈クラウタータン〉が戦いの旗印みたいな意味。〈テオタータン〉は〈黒い軍勢〉でいいと思う。
〈陸鯱〉、〈エバンミィア〉っていう腕が生えた黒いヘビみたいなのがいてね、海洋生物を砂地に追い込んで狩りをするんだけど、そこに〈黒蛇〉も居たら追われて海から上がってくるんだよ。いっぱい。
〈陸鯱〉も〈黒蛇〉も真っ黒だから〈テオタータン〉。
海沿いで止めないと危ないから皆で狩るの。」
ありがとうタチアナ。
ん?誰か走って来る。あー、ここにに向かって来てんのか。ハイエルフ?が三人か?なんか慌ててんな。
彼等は跪き、叫ぶように声を発する。
『バカキエロカスガ!マジデシネカスガ!モウヤダー?!』
・・・なんて?




