そして、熊さんの言うことにゃ。その3
やがてちょっとした騒動が収まり…
エイナはアサヒに、
シュミカはリアに…
ジュリエットへの警戒心を最大にして抱きついてひたすらに暴言を放つ。
「ん…!
もう騙されない、
この熊畜生…。」
「そうだそうだ!
この熊畜生め!
人喰い熊め!」
それぞれの誤解が解けたとはいえ…
本当に実力のある二人にとっては、
見た目と余りの強さは油断出来ない異次元の脅威であるようだ。
言葉の暴力にシュンとするジュリエットを見兼ねてリアが出すのは助け船では無く渡し船。
「まぁ~…
どうせ抵抗出来ずに食べられるのはアサヒだけでしょぉ~?
熊さんの料理の腕が確かのなのは分かったしぃ…
みんなでアサヒを美味しく頂いてから考えましょうよぉ~♪」
「俺は誰が調理しても美味になるつもりはねぇぞ!」
「だから!
ぼくは人間は食べないよ!!
そもそも本当に野生の熊じゃ無いからね!?」
訝しげにジュリエットを警戒し続ける二人をアサヒとリアはそれぞれに苦笑しながら宥める。
「もぉ~…
それよりも『この子』の話でしょぉ?」
「ん…
『ルーニー』…ね。」
「え~?
『ハナコ』じゃダメなのぉ~?」
「シュミカが精霊本人から聞いたんだから…
それで呼んであげようよ。
エイナだって『ちんちん姫』って呼ばれてたからって
勝手に名前を『ちん子』に変えられたら嫌だろう?」
「ん~…
首を飛ばすくらいかなぁ?」
(よくクルセイトで大惨事になってなかったな!?)
そんなこんなでアサヒの溜息と共にルーニーへの名付けの件は、
エイナにも承認された。
シュミカ以外に言葉は届かないが…
小瓶から顔をだして揺れるルーニーは嬉しそうに見える。
「ん…
喜んでるよ。
エイナも呼んであげて…」
納得したエイナは満面の笑みでその小瓶の前に肘をついて見つめる。
「あらためましてボクはエイナ。
エイナード=クルセイト!
よろしくね、
ルーニー!」
エイナがチョンチョンと優しく指で突くと
可愛らしく揺れるその姿にアサヒは背を向けた。
「…まったくぅ、
いつまで死んだ人間の事でメソメソしてんのよぉ…。」
そっと肩を寄せてくるリアにアサヒは気持ちを終わらせる。
『ルキリ=スターニー』は死んだ。
『ルーニー』はその変わりでは無いし成り得ない。
「そうだな…。
メソメソしてたらルキリ姉さんは怒って怖かったからな…。
…うん、
多分もう大丈夫だ。
レイヤを亡くしたエイナだって…」
さらに辛気臭く成りそうな状況に、
リアは静かにアサヒの横腹へと拳を突き立てる。
ひっそりとリアの腕の中で呼吸を忘れて痛みと苦しみに耐えるアサヒにリアは耳打ちする。
「…忘れるんじゃ無いわよぉ?
アタシ達だって忘れる訳じゃ無いわぁ。
そうして行かないと生きてくのが大変な世界なのよ、
ここはねぇ…。
失った家族達も…
新しい家族達も…
アタシには大切よぉ…
守るために手を貸してちょうだい~♪」
その痛みと苦しみと共にアサヒはリアのその気持ちを飲み込んだ。
「グゥぅ…お前、
もうお母さんよりもママでも目指すつもりか…?」
「もう一発
ブツわよおぉ~…?」
何はともあれ『ルーニー』は特殊ではあるが、
暫くの間は家族の中のペットの様な存在として同行する事になる。
それはそれとして…
この場に集う中で唯一顔色を悪くしながら頑張り続けているバドが遂に弱音を吐く。
「ところで…御師様、
自分は限界が近いので…
明日辺りにはそろそろ発とうと思います。
…こんなに長く滞在出来たのは初めてですが…
また暫くはお別れです…。」
予想は出来ていたのであろうジュリエットは小さな溜息を吐き、
顔色の悪いバドの頭を撫でる。
「残念だけど仕方が無いね…
あんな化け物達を相手によく頑張ってくれたね。
また愉快な土産話を期待しているよ~♪
あと、
みんなにも会ったらちょくちょく帰ってくるように言っておいてよね。
で、
この先君はどうするんだい?」
バドは撫でられる頭から何かしらの力で癒やされているのだろうか?
少し落ち着きながら呼吸を整える。
「はい…
ギルドから『エルライエリの精霊祭』のサポートを頼まれてますので…
そちらへ向かいます。」
「あぁ、
もうそんな時期なんだね!?
最近『ヒヤちゃん』も来てくれないから忘れていたよ…。
そろそろ『ウユミちゃん』の魔力も溜まってきたのかな?
『----が寂しがってたから、
最後に会いにきてよ?』
…って伝えておいてくれないかな?」
これまで世話になったバドの不調に気づか無かった申し訳なさと、
『精霊祭』という言葉にアサヒ一行は目を光らせる。
「え!?お祭りに行くの?
お姉ちゃん!」
と、ストレートに反応するエイナ。
「ん、聞いた事がある…
エルライエリの精霊祭…。
強者には『それぞれが求める物』を…
弱者には『血祭りを楽しめる場』を…
そんな愉快な温泉街?」
と、うろ覚えの知識を垂れ流すシュミカ。
「温泉街ぃ?
決まりたてのアタシの旅の目的に早速ちょうど良いじゃなぃ~♪
しかも強者なら何でも貰えるのぉ!?
全部アタシの為の祭じゃ無いのぉ♪」
と、温泉巡りが旅の目的へと決定しながらも勘違いしているリア。
「…求める物が手に入るとか胡散臭すぎるだろう…。
てかシュミカ、
今『血祭り』とか言わなかったか!?」
と…常に弱腰で危機回避に余念の無いアサヒ。
と、それらを眺めながら揺れるルーニー。
と、その光景を眺めながら『俗物共め』と溜息と共に一瞥するジュリエット。
「改めて説明するよ。
この森の中の結界はね…
夢と現実の間みたいな物なんだよ。
だからぼくはどんな相手にも無敵だし、
君達はバドの結界のお陰でエイナちゃんみたいにすぐに蘇生する。
便利な空間なんだよね。
どうしてそんな便利な空間に誰も残ってくれないのか?
…わかるよね?」
振り返ったジュリエットの前の彼らは、
ああでも無いこうでも無いとワチャワチャしていて聞いていない。
「…普通は生命力と魔力の消費が激しすぎるんだよココは…
…名前を付けたりしなくても、
十分にその花の子からの加護を受けてたんだけどね…。
まぁ仲良くしていくといいさ。」
…翌日である。
「…面白半分なのはわかるけど、
バドのことはお願いするね。
この結界から出たらバドも回復すると思うから…
旅の頼りにはなるはずさ。」
アサヒは少し気恥ずかしい気持ちを残すのを躊躇して心を晒す。
「…まぁ…ね、
色々と気を遣っていただいて嬉しかったですよ。
バドゥワさんの結界の中で一人で過ごさせてもらって…
前を向けたと思います。
だから少しでも力になれたら嬉しいですよ。」
ジュリエットは優しくアサヒの肩に爪を立て、
気を引き締めるために助言をする。
「うん、
君は今まで見た『客人達』とはどこか違うね。
何かを成す人には見えないけど…
はは。
楽しめば良いと思うよ。
出来れば…
また、
どんな旅をしたのか話に来てくれると嬉しいよね♪」
そんな楽しい話と不確定な小さな約束を交わして一同はその森を後にした。
そして、アサヒはいつか、
海を見たことのないらしいジュリエットへ
『貝殻の小さなイヤリング』を贈りたいと思った。




