そして、トンネルを抜けたらソコは…。その1
雇い主への直接の報告は急ぐべきなのはわかっていた。
ただ…その雇い主、
テッド=ケヴィンスの顔を見るのも嫌なユリィネル=ソーシャイハは、
日々の報告だけは怠らずにノンビリと帰国の途についていた。
…各地の偵察という名目の観光である。
日々報告を受けながら、
『最寄りのゲートを使用する経費は気にする事は無い。』
と、良き上司のつもりでは無いが効率を考えるテッドは提案するのだが…。
本心としてはどうでも良かった。
目的の物が手に入った事は了解したし、
他に足りない物はまだ揃ってはいない。
ユリィがふらふらと寄り道をしていたとして、
その道中にその貴重な『目的の物』を狙って彼女を襲うような輩が現れたとしても…
テッドはその哀れな輩の愚かさを笑うだろう。
『まぁ残りの必要な品はコロノラ君に任せましたから…
少しなら羽を伸ばすくらいは良いですよ。
間違い無くソレを持って帰ってくれればね…。』
道中に立ち寄った小さな町のギルドでは珍しい精霊通信を使う美女に周囲はどよめき、
同じくこの様な高額且つ高ランクの存在にしか許されない機器を適当に扱うユリィに対し…
片田舎のギルド職員はドギマギしていた。
簡単に例えるならば、
『据え置きの黒電話』
の様な物である。
「え~~!?
帰ってもコロンちゃん居ないんですの~?
ますます帰る気が削がれます~…。」
『フンっ…』という一瞬の鼻笑いが益々ユリィを少し苛立たせる。
『…そうだろうね。
君のそういう正直な物言いは嫌いではないが…
とりあえず『ソレ』を早く届けて頂きたいかな。
コロノラ君にも伝えたが…
優秀な君達のお陰で予定は順調この上無い。
契約期間はまだまだ残っていますが、
彼女の帰還をもって約束の報酬は全てお支払いします。
それでこの関係も精霊の名において終了と誓約いたしますよ。
ソレでよろしいかい?』
もう契約解除しようとしていたユリィの心に大きな影を残していた『違約金問題』。
それが肩からスルリと流れ落ちた瞬間だった。
押し殺した笑顔でメガネを上下させながら、
ピョンコピョンコと跳ねるわがままボディ。
『受話器の様な物』を握り締めるそのソバカス娘に見惚れる周囲の男達は知りえない。
その通話をしてるのが何者で、
その通話が繋ぐ相手が何者で、
その通話が繋ぐ先の未来に。
---
トンネルや通路と言うより小さなダンジョンと呼ぶ方が近しい地下道で…
リア=スティルノアは岩壁にめり込んでいた。
「…勝てないのは楽しいけど…
圧倒的に負けるってのは最悪の気分ねぇ…
そもそもなんでこんな所に機械種なんているのよぉ…。」
そこはエルライエリへ向かう道中の山岳地帯を抜ける為に旅人が利用する坑道。
手入れはされていないが古くからある極々安全な通り道のはずだったのだが…
「ん…バド!
話が違う!」
岩陰に隠れているその他の面々は息を潜めて責任をなすりつけ合う。
「話も何も全部アンタ達のせいでしょ!
なんで『こんにちは』の挨拶が幼女もどきの不意をついての全力パンチなんですか!
言語知らないんですか!?
ヤベェのが集まる祭だからって、
道中は注意して下さいって言ったでしょう!?」
アサヒ達の目の前にはダンジョンの壁にめり込んだリア、
テンパってワチャワチャしているシュミカとバドゥワ…
ロボだかアーマードスーツだかサイボーグだか分からない漆黒の戦士。
それに興味を抱いて不意をついたはずのエイナは反撃を喰らって吹き飛ばされ、
アサヒの腕の中で今まで見たことの無いほどのダメージを受けていた。
「だってぇ~…
ハナ…ルーニーがぁ~~…『アレ強いからダメ』って言ってるって…
シュミカお姉ちゃんが言うからぁ~…」
エイナは無事ではある様だが目を回している。
「『強いからダメ』って言われたらダメだよ!」
ソレを見て面白がったリアが追撃を仕掛けた結果がコレである。
キィィィーーーン…と高音域の嫌な音が空間内に響き始めると、
その戦士はゆっくりと身動きできないリアの方へと歩み寄りながら…
カチャカチャと全身を変形させてゆく。
リアを心配していない訳では無いが、
そのまま岩陰に隠れて様子を伺う一同はワクワクせずにはいられない!
「お…おい、
なんか変形するぞ!?
前に言ってた謎変形?謎変形~!?」
「ん…んふーーっ!
すごいすごい…いけぇ~!」
フンフンとその姿を興奮しながらアサヒとシュミカは盛り上がり、
「ちょっと!
大きな声出さないでくださいよ!」
と、冷静なバドはより遠くへと身を隠す。
「ちょっとぉ!
ボクも見たぁ~い…!」
そう言いながらアサヒの腕の中から顔を出したエイナの目に映った、
かつてロボだかアンドロイドであった筈のソレが姿を変えたものは…
上半身裸で手を頭の後ろに組んで胸を張る愉快で変なオッサンであった。
「…は?
謎変形にも程があるだろう…?」
「ん…んん…?
もはや変身…?」
『で、なんでそれ?』
お気楽に眺めている一行に、
岩壁にめり込んで動けないままのリアは言葉にならない叫び声をあげている。
「やあああぁぁぁ~~!
ちょ!たすっ…!!
なんか…なんか出そうとしてるぅぅ~~~~!」
オッサンの乳首はホワッと光を放ちながら…
その光は段々と大きくなり、
やがてそれぞれ二つの点に集約してゆく!
エイナはソレを見てワクワクが止まらない。
「ねぇっ!ねぇっ!
あれ何かな!?『波』かな?『砲』かな?『ビーム』かなぁ!?」
「いやあぁぁぁ~~!
ちょっとやめてぇ!
そんな変な所から出たので死ぬのは嫌よぉ~~!!」
いつもは最強の頑丈さで余裕綽々なリアが慌てふためく姿を楽しみ、
落ち着いて傍観しているアサヒ達には策があった。
「…流石にそろそろ可哀想だな…。」
「あはは!
アサヒ後で酷い目に遭いそうだよね!笑」
「ん…
滅多に見れないリアの姿が見れて良かった…。
さぁバド、
いつもの無敵結界でアレをなんとかして…。」
三人が当たり前の様に頼る目の先には…
一人分の結界の中で縮こまって半笑いするリス獣人。
「あなた達本当に馬鹿なんですか?
アタイが出来るのはこれが精一杯ですよ?
御師様も言ってたでしょ?
あの森は夢と現実の間の様な空間…
理想とする自分を体験できるイメトレ空間なんです。
今のアタイのマックスはコレです。
短い間でしたが…
あの方のご冥福をお祈りしながら眺めましょう。
あとその他の飛散物などには自己対応をお願いします。
ふふっ♪」
サァ~…っと青ざめる三人を尻目にリアの絶叫はボルテージをあげてゆく。
謎粒子の光が二点に纏まりきったその時!
怒涛の勢いで走り込んできた人物が何を横薙ぎに振るい、
オッサンの二つの点をジャストミートした!
「わりゃあ何さらしとんならぁ!
やめりぃや、
このドポンコツがぁ!」
弾き飛ばされたオッサンは尻餅をつき、
集約された謎エネルギーは内部で暴発しているのだろうか?
激しい光を目や口から漏らしながら…
暫くすると、
ゴクン…と飲み込む様にオッサンの中に吸収されていった。
「目ぇ覚ましぃやエンド…。
まじスクラップにすんで、
大概にしぃや!」
液体まみれの顔のリアは、
颯爽と現れて命を救ってくれた人物を見上げてこう呼んだ。
「にゃ…
にゃいとしゃまぁ~~~…?」
竜人。
ソレは恋多き種族である。




