そして、熊さんの言うことにゃ。その2
激しい音を立てて破壊された扉から飛び出したのは、
全裸のままで長く美しい銀髪をクルクルと回りながら靡かせる小さな男の子。
それは目の色を失い、
牙を剥く様にジュリエットへと襲いかかった。
バドゥワは片手でアサヒへの優しい結界を展開しながら、
空いているとは言い切れないもう片手で必死の表情の中…
新たな結界空間を作り出して怪物達の騒乱を切り離す。
「アサヒ!
アサヒアサヒアサヒ!
ボクのお兄ちゃんをどうした!?
この熊畜生!
お前もまたボクのお兄ちゃんを喰ったな!?
殺してやる殺してやるコロスコロスコロスーーー!!」
話の流れは場所をエイナとリアがいる露天風呂へと変えて
時間は少しだけ戻る。
「あーらあらあらぁ♪
ほんとにちゃんと男の子なのねぇ…
色々と可愛らしいわぁ!お姫ちゃん!」
「そぉだよぉ…もぉ!
カワイイお洋服は大好きだし、
みんなが喜んで選んで着せてくれるし…
チヤホヤしてくれるから着てるんだよ~♪
ヒラヒラさせてるとお花みたいでワクワクするし…
今度リアお姉ちゃんも選んでよ♪」
「はぁぁぁ…
もちろんよぉぉ~!
なんて尊いのかしらぁ!
さ、
早く入って温まりましょぉ?」
(…それでも一撃で地竜を粉砕するのよねぇ…この子…。
気に入られておきましょ☆)
種族も血筋も違うが、
紛う事なきアサヒの家族の一員がそこには居た。
ジュリエットが数百年の間の暇潰しに造ったのであろうか?
源泉掛け流しの露天風呂は側に流れる川の水を呼び込める作りになっていて、
温度調整も出来る優れ物である。
「お姫ちゃんにはちょっと熱いかもしれないしぃ…
ちょっと触ってみてから川の水を引きましょおねぇ。
どぉかしらぁ?」
聞かれたエイナは湯気やグツグツと聞こえて来ていた音で察してはいたが…
そこにあったのは地獄温泉と呼ぶのに相応しい沸騰した石造りの釜である。
「…う、うん。
触らなくても良いかなぁ?
ボク子供だから…川の水全開放で冷まして欲しいんだよ…。
割と蒸気だけでのぼせちゃうかも~…。」
「あん…
やっぱりそうなのねぇ?
お姉ちゃんには丁度いいんだけどぉ…
シュミカ達もほとんど水みたいなのが好きだしぃ…。
と、言うわけで良いかしらお姫ちゃん?
お姉ちゃんは竜人だから身体が違うって事を知っておいてよねぇ…
合わない事があったら遠慮なくちゃんと言うのよぉ?
これからずっと、約束よぉ?
…残ったこの家族は大切にしたいのよぉ。」
リアはそう言ったことを伝える為にエイナを誘ったわけでは無いのだが、
これまで共にいた人間達から自然に気を遣う事を覚えてきた。
「うん、約束するよ♪
だから一回お水全開にして欲しいんだよ…」
感傷に浸る中…
クラクラしながら縋り付くエイナに気づいたリアは慌てて水門を開いた。
勢いよく流れ込む水は辺りの空気も浄化する。
リアはエイナの身体を一気に冷やさない為に、
片手をその水で濡らして要所要所に優しく当てていく。
「ごめんなさぁい、
お姫ちゃん~!」
…離れた場所でジュリエットの咆哮が響いたのはその時であった。
「…アサヒが…死んだ?」
リアが介抱するエイナがパツン!っと覚醒する。
「え…?
アサヒがぁ?」
「あの熊め!
ボクを騙してまたボクからお兄ちゃんを!」
目の色が変わったエイナは無意識に裸のまま熊ホームへと飛び去っていった。
唖然としながらも、
リアは落ち着いている。
「…水シャットダウン~♪
…あぁ…
あったまって来たわぁ…。
10…いや、
20数えたら追いかけようかしらぁ~…?
…気配が消えただけで狼狽えるなんてぇ…
本当に、
かぁ~わいい~わねぇ♪」
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時と場所は戻り、
駆け付けた目の前でシュミカは倒れ、
アサヒの姿は無い。
錯乱し切ったエイナは気が狂う程の全力で両手両足、
全魔力をジュリエットへぶつけている。
「あぁぁ…
もの凄く勘違いをしているね…」
そのエイナの猛攻すらも余裕で捌きながら、
ジュリエットは必死の形相で両方の結界を維持しているバドゥワに目配せした。
それは『もう良いよ』という合図であり、
次の瞬間バドゥワは崩れ落ちる様に倒れ込む。
「この森の中では無敵なんだよ!
ぼくは!」
飛び掛かってくるエイナの顔を鷲掴みにしたジュリエットは、
それを大きく振り上げて全体重を乗せて床に叩きつけた。
弾け飛んだ頭部はバドゥワの結界内よりも早く修復し、
そこに横たわるのは何の損傷も無い全裸のちんちん姫である。
「…ちょっと配慮に欠けていたみたいだね…。
どうしよう…これ。」
目の前の惨状…
倒れたバドゥワの隔離結界は消滅し、
泣き腫らした目をしたアサヒが目にするのは…
どうやら熊辺りにのされたらしいエイナと…
のんびりと遅れて来た、
エイナと同じく全裸のままのリアである。
「んもぉぉ~!
…て、
何なのよぉお姫ちゃん~…
は…犯人は誰ぇぇ~~~!?」
そう叫びたくなるような状況ではあるが、
手を上げて首を振るジュリエットを見て逆にアサヒは落ち着いていた。
「…はぁぁ~。
なんだコレ?
全く…大丈夫だよ、リア。
いつものドタバタだ。
てゆうかとりあえずは乳をしまえ。」
アサヒ如きは弱く頼りにするには程遠いが、
アサヒ如きが大丈夫などと言える状況はリアにとっては何でもない事を意味する。
「ふぅ~ん…
少しは割り切れたのかしらねぇ?
思う存分泣きじゃらした後に出る言葉じゃないわぁ♪」
フンっと気持ちを切り替えてリアは、
大きな布をヨタヨタと運んでくるバドゥワからぶん取り、
身体に巻く。
「泣いてなんかねーし!
大丈夫かい?
エイナ…」
アサヒは倒れているエイナを膝に乗せる。
アサヒとリアはエイナと、
横たわるシュミカに目を落とした後にジュリエットを指差して言う!
『犯人はお前だぁ!!』
「…いや、
そうだよね!
ボクがやってるの見てたでしょ!?」
何ということも無い軽い一笑いをして、
アサヒとリアはこの短い時間の中で起きたお互いの出来事を共有した。
「そっか…
じゃあエイナには色んな場所で可愛く着飾らせても良いんだな…
ひひひ♪」
「眼福の極みねぇぇ~♪」
呆れ切ったジュリエットの淹れてくれたお茶を飲みながら、
リアは優しい顔でその花を愛でる。
「改めて…アタシはリア。
初めまして『ルーニー』。
これからはアナタもアタシ達の家族よぉ~♪」




