そして、ある日森の熊さんに出会った。その3
「で、
この後君達はどうするんだい?」
食事の準備が済んだ頃には全員が揃い、
離れたソファで寝息を立てているエイナに気を使う事もない一同は…
やがてひと盛り上がりを終えた後、
今後のことに目を向けさせられる。
ジュリエット自身は全員の心を読むことは出来たとしても…
結局はこの先共に進んで行く者達同士、
お互いの言葉で伝え合っていくしか出来ない。
見た目も相まって、
このような場の司会者としては絶好の存在である。
何年、何十年も独りで居る事が当たり前のジュリエットにとって、
それは来訪してくれた客に対しての感謝のおもてなしでもあり…
数少ない自分にとっての癒しの時間でもあった。
「そぉねぇ…、
そぉいえばアタシ達どうするんだったかしらぁ?」
酒と食に満足したリアの頭の中は見事な『無』として熊に無視される。
「ん~!
西の果て!
僕の一族の情報を探しに行くの!」
「ぁぁぁ~…
それ聞いたかもしれないわぁ~♪」
二人の意見を聞いたジュリエットは『それで?』とアサヒに目を向けた。
そのアサヒの頭の中も見事な『無』であった。
「とりあえず西?
まぁエイナと同じく色々知らない物を見たいかなぁ…」
「…うん、
君達はとても楽しく旅を続けて行けると思うよ…。
アサヒくんは意味もわからずにこの世界に連れて来られたんだからアレだけど…
元の世界に帰る為の方法を探すとかの目的は無いのかい?」
アサヒ本人としては、
元の世界での便利で自堕落な生活に戻れるのであればそれでも良いと思ってはいた。
それでもこの世界での不便さや不快な環境も楽しく思えているのである。
「…そぉですね…
それはコイツらと色々見ながら楽しんで、
帰れる可能性が見つかった時にでも考えようかな~…とか?
…少なくとも、
俺を拾ってくれた恩人達に御礼を伝えるくらいはしないと…ですかね。」
ほぼ野生の熊そのものの風貌であるジュリエットは、
アサヒの心の深い闇まで見据えながら熊っぽく振る舞う。
「まぁ、
全部のしがらみが無くなった世界で心の洗濯をするのも選択のウチだね。
良い旅になるように祈っておくよ。
ぼくは心が読めても預言者じゃないからね。
聞きたい事があるなら答えるけど、
この森の結界の外の事は殆ど知らないからね…。
バド達みたいな弟子達が持ってきてくれる魔術の知識しか集めてないし…。」
そこで乗り出してきたのは泥酔のリアである。
「へへへぇぇ…
あんらここいらじゃ無敵なんれしょぉ~?
勝負しましょ!
らにがいいかしら~…」
戦闘のために背伸びをし、
全身の柔軟を始めるリアを見てアサヒは提言する。
「腕相撲とかにしとけよ~…
家屋に被害が出たら申し訳無い。」
ニコリと笑ったのだろうか?
そんな風にアサヒの肩に優しく手を添えてジュリエットは立ち上がる。
「そうだね…
家の修復の為に力を温存するのは申し訳無いから、
お庭に出ようか?
精霊達もこういうの好きだし…
ぼくも鍛錬してきた技や魔法を試してみたいしね♪」
瞬時に状況を理解したバドゥワは食卓に結界を張り、
アサヒとシュミカの前に立つ。
「…お師様ハシャギ過ぎですよ~…
お二人共アタイの前には出ないで下さいね!
…また変な影響を受けて…
命名。
『ロミジュリの庭』展開!」
バドゥワが手を広げると、
食卓の前が突然舞台のように外の森に切り替わった。
「アタイの前からは精霊さんのお楽しみ広場です。
三人共死ぬ事は無い全力ドッタンバトルが出来る…
まぁなんでもアリな空間ですよ…。
アタイ達もしごかれました~…。」
ラウンド1!的な雰囲気の中、
その催しは幕を上げた。
両者とも酔っ払いながらも初手からえげつない破壊力をぶつけ合う。
「あれ?
君に守られてるのは俺ら二人で…
バトるのは三人?」
バドが頭を掻きながら指差す先には少し前までソファで寝息を立てていたエイナが野生化していた。
数分後、
パンパン!と手を弾いて立っていたのはジュリエット一体。
「あ~っはっは~~!
負けた!
負けたわぁぁ~~♪
どうかしらぁ、
お姫ちゃん…
どんな気持ちぃ~?」
精霊の力で修復されていく身体を、
パキパキと鳴らしながら理性を取り戻したエイナは満面の笑みを浮かべて言う。
「リアお姉ちゃんは?!
ボクはね~…
すっごく楽しい!
ねぇねぇ熊さん、もお一回!」
そんな事を何度繰り返したのだろうか…?
アサヒとシュミカは声援を送りながら飲み食いを続けてそのショウタイムに夢中になっていたが、
いつしか眠りについている。
バドゥワの精神にも限界が訪れようとした頃、
ようやくリアの体力が尽きた…。
「すごいわぁ…
面白い…!
負けるって、
勝てないってこんなに楽しい事なのねぇ!!
ねぇアナタ!
アタシと契りましょう!
二人目よ!
強さでアタシをメロメロにしたのはぁ♪」
…一人目ヤベェな…と溜息をつくジュリエット。
「残念ながら、
ぼくはメスだよ…
と言っても君には関係無いね…。」
エイナも興奮しながらジュリエットにしがみつく。
「本気で戦って勝てないなんてレイヤお兄ちゃん以来だよ!
ありがとう!」
「…そんなのこの結界の中だけだよ。
ぼくは友達に助けてもらってズルをしてるだけ。
でも、
それで君達が何かを学んで先に進んでくれると嬉しいよね♪」
熊の足元で考え込むエイナはやがて満面の笑みを熊にぶつける。
「じゃあ、もう一本?」
ジュリエットも久しぶりの外界との…
それもとてつも無い強者との語り合いに心が震えていた。
そして思う、
アサヒの心に有った、
とある歌の一片。
「お礼に歌ってくれるなら…
一緒に踊りましょう♪」




