そして、花咲く丘で待つ。その3
「もう誰だろうが関係ねぇ!
オラァおめえみてぇな高飛車女が大っ嫌いなんだよぉ!」
「ウルセェ音垂れ流しやがって!
客人と関係ねぇなら精霊共に気兼ねすることもねぇ!」
「オラの養分になれぇ!」
結界内で魔物が叫ぶと、
ステージの床下から複数のツルが勢いよく突き出す。
キョトンと辺りを見渡すエイナを見てアサヒはギリアの影を思い出す。
(あの背中に手を伸ばすために出来ることは…
意地を張る事じゃない!)
「お願いだエイナ!
あのお姉さん達を守って!」
ニヤリと笑みを浮かべたエイナード=クルセイトは電光石火のスピードでリャイラナ達の前に立ち、
次から次へと四方八方から襲い掛かるツルをむしり、
クルクルと回りながら楽しく踊る様に舞う。
「ななな何ですの?
この…天使の様なお子様は!」
「…可愛さに同意はするじゃん、
けどやってる事は悪魔じゃん…。」
リャイラナとウリンはガクガク震える足で立つことも出来ず、
なんだかんだ言いながらもその天使の舞に魅了されていた。
ステージ上は何とかなりそうであったが、
魔物の殺意はもちろんその場に居る全ての者に向けられる。
「皆殺しだ!」
「皆殺しだ!」
「全部オラ達の飯だぁー!」
先程までの静寂は引き裂かれた。
そんな中…
客人の血を引くだけの自分と間違えられて理不尽に狙われたリャイラナの為に、
心のままに飛び出してしまったノーイラ=タスツの目の前に今…
幸せそうに微笑むルキリ=スターニーの顔があった。
「良かった…
今度はちゃんと守れた…」
「…へ?」
魔物を捕らえていた結界は今、
ノイを守る結界に移行し…
無数のツルに貫かれたルキリが魔物の本体へと絡め取られていく。
「ルキリ=スターニー!
なんとかせよ、クーロウア=バエレ!」
「全員吹っ飛ぶだけじゃ!
腐っても魔王因子…
最後の足掻きで活性化しておる…」
青ざめるカディスやクーロ、
ガトダトや兵達は襲い掛かるツルの対処で動けない。
リアや避難している客達も戦える者は応戦しているが、
一般の非戦闘員を守りながらでは思うように手が出せずにいた。
「ルキリ姉さん!
シュミカぁ!?」
「んん!
『愉悦種』の精霊が多くて…届かない…
防御で精一杯!」
魔物に囚われ、
足元から同化して行くルキリの姿を…
アサヒ=ハザマは震えながら見ている事しか出来なかった。
「姉さん…ルキリ姉さん…俺は、
俺は…」
例え死んでもいい。
ここで飛び出す勇気はあった。
気持ちを伝えられたならそれだけで良かった。
だが、
アサヒの身体は動かなかった。
(震えてる場合かよ…
クソ精霊とやら…何の為に俺を呼んだんだ!?
お前らだってあの人が大好きなんだろう!?)
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ルキリや逃げ遅れた人達の身体に根を張り同化しながら、
魔物は魔力を蓄えてゆく。
「目の前に騙される馬鹿な結界女め!」
「オラはどこまでも手を伸ばせるだ!」
「まずオメぇから取り込んじまうだ!」
薄れゆく意識の中、
ルキリ=スターニーは先程一瞬だけ感じた幸福に…
(…今度は?
…あぁ、そうだ。
あの時は守れなかったんだ…子供の頃から虫が苦手で…
動けなかった…散々いじられたっけなぁ…。
そうか、
ごめんよ…みんな、
お父ちゃん…
ごめんなさい…。
アサヒ…最後に出来た弟…生きててくれて良かった…
そんな顔で見ないでおくれよ…
あの時ルキリだって同じ様に動けなかったんだから…)
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膨れ上がる魔力に元々薄い自我を失う魔物。
「もう全部ぶっ壊してやるだ!」
「ワシはウィーズイィ…かつて魔王だった者…
他の者の絶望こそがワシの糧!」
「溜め込んでた爆裂宝珠で全て吹き飛ばすだ!」
『潔く全部巻き添えだぁー!』
全ての状況を正面で受け入れたルキリは片道切符の行先を定めた。
『愛していた家族達の元へ』
(遅くなってごめんよ…
今行くからさ。
またみんなで飲もうさね…。)
「頼むよ精霊ちゃん達…。
わかるだろ?」
魔物に取り込まれながら、
ルキリは力を振り絞って手を伸ばす。
神職でない彼女には精霊の声も姿も感じられないが…
多くの仲間に支えられている気がした。
魔物が身体の中から爆裂宝珠を飛散させる!
が、それらは全て見えない壁にぶつかり足元に落ちる。
「はぁ?」
「へぇ?」
「ひいぃぃ~!」
再び円柱陣に組まれた結界の中で爆裂宝珠は…
煙突の様に爆炎と共に店舗の天井と魔物のコアを吹き飛ばした。
やがて店内で暴れていたツルは動きを止めて地に落ち、
皆が呆然とその爆心地を見つめる。
「姉さん!
姉さん…ルキリお姉ちゃんーーー!」
四つん這いで手足の出し方の順序も忘れた様に慌てて駆け寄るリアだが…
消えた結界から溢れ出す様々な煙によって何も見えない。
早くルキリを助けたいと願う精霊の仕業であろうか、
一陣の風が煙や埃を巻き上げて周囲の視界を清浄にする。
そこに倒れているルキリ=スターニーは、
あの爆発の中に居たとは思えない程の姿で居た。
…半身だけは。
「うぉわわああぁぁ!」
「クーロ様!クーロ様!」
ガトスダトスの叫び声が響き、
皆が取り敢えずそちらに目を向けると…
狼狽する二人の間には黒焦げの肉片がプスプスと煙を上げていた。
「クーロが…?
何があった、
どういう事か説明せよ!」
カディスが近寄ると…
その肉片は次第に大きくなり、
少しずつ人型へと戻ってゆく。
「ぎゃあぁぁぁ!」
「キモいぃぃぃ!」
それを見てガトダトは抱き合って腰を落とした。
暫くしてため息を吐いたカディスは改めて尋ねる。
「呆れる程の不死であるな…
説明せよ、
クーロウア=バエレ…。」
ようやく上半身が形を取り戻したクーロは虚な目で語る。
「…無茶をしよる、精霊共め…。
ワシがかけた記憶改ざんの魔法の道を逆流して、
娘の外的ダメージを全部ワシに押し付けてきよった…。
なぁ~にが…
『不死の人よ、ルキリちゃんを守って』…じゃ…
精霊の声など何百年ぶりに聞いたことか…。
…人種への無知があの娘を苦しめるとも知らずに…。」
数百年を生きてきた賢者は、
精霊を通じて繋がってしまったルキリ=スターニーの記憶と痛みを知り涙する。
カディスは取り敢えずステージに掛かっていた垂れ幕を外して、
未だ知らぬ者が見れば卒倒しそうな賢者の有り様を隠す為にその上に被せる。
「ふん…
その様な姿になってまでまだ涙など流せたのだな…。
…それでこそ我が恩師である、
尊敬に堪えない。」
ステージ上のリャイラナ達は震えて動けないまま。
その無事と周囲の安全を確認したニリとカニャミは、
こっちは自分達に任せろとノイに目配せして走る。
パナルマはシュシュルにこの場から動かない様にと念を押して、
外の状況を確かめる為に民を守る軍人の姿へと戻る。
半壊したゴムールティルスガル支店から見た街は先日の燃える空とは逆に、
地上の街が燃えていた。
ルキリの半身を抱き抱えて狼狽するリアとシュミカ。
だがアサヒだけは、
そこへの一歩を踏み出せないまま立ち尽くしている。
やがてうっすらと目を開くルキリ=スターニーは目を丸くして涙を浮かべ…。
「お前達…!
全く今までどこに居たんだよ…
良かった…生きててくれたんだね…
みんな心配してたんだよ…おかえりなさい。
ずっと…みんなで探してたんだぞ~…」
ルキリ=スターニーは残された家族達との本当の再会を果たし、
幸せそうに笑みを浮かべた彼女はそのまま再び意識を失った。




