そして、花咲く丘で待つ。その2
店内で激しく繊細に響き渡る演奏を無粋な破壊音が台無しにする。
突然ゴムール店舗の入り口を破壊して現れたソレは、
ここまでの道中に取り込んで来たのであろう生物たちが乾涸びて形成されていた。
「地面の中さ伝わってきてウルっせーんだよおぅ!」
「高飛車で嫌な女のノーイラ=タスツめ!竜人どもめ!」
「腹ぁ…減っただあぁぁ!」
破壊された入り口に立つ魔物の背後に燃える街と悲鳴が、
店内の残響音と共演を申し出る。
「何よ…これ?
みんな逃げて!」
入り口側のバーカウンターにいたパナルマは叫びながら、
そのカウンター席でステージを楽しんでいたシュシュルの護衛に飛び出すが…
魔物の蔓に弾き飛ばされ、
その蔓は近場にいたシュシュルを新たな養分とするべく襲い掛かる。
「ふざけるんじゃ無いさね!」
『守る』と言うこと。
それは今の彼女にとっては何があろうともなすべき理想であり
封じられた無意識の中に生き残る希望であり…
呪いでもあった。
ルキリ=スターニーは咄嗟に板状に組んだ結界を飛ばしてシュシュルを守り、
その間に立つ。
(良かった、
今度は守れた…
…今度は?)
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「何事だ!?
この様な日に!」
慌てて戦闘体勢に入るカディスに、
アサヒは呆れた視線を送る…
(あれだけの事を中途半端にしておいて、
『この様な日』になんの対策もしていなかったのか!?)
アサヒは驚きながらも自分が当たり前だと思っているリスク管理が、
この世界では、
強力な種族であればある程疎かであるのだと知る。
ガトスとダトスは部下を率いて街中の状況を確かめる様に部下を飛ばす。
半壊した建物にはハウリングした音が弾き渡り、
歓迎されない客人の耳を煩わせる。
「ああ、うるせええ!」
「頭ん中で声が響きやがる…黙りやがれ!」
「食われた奴らが騒ぐでねぇ!」
雑草の様な物でできた巨体の本体であろうか、
三面の頭の回りに並ぶ顔や首はパクパクと口を動かして呻き声を上げていた。
「なぁによぉ…気色悪いわねぇ…。」
客達はステージ側に集まって避難し、
カディスをはじめとした兵達に守られている。
「雑草という事は天魔会の残りが復習にでも来たか…。
たいした魔力も感じん所を見ると置き去りにされた下っ端であろう?
囲んで叩き潰してやれ!
ルキリ=スターニー、
得意の結界で身動きを封じておけ!」
愛するカディスから指示を貰ったルキリは周囲に居るであろう精霊たちに、
照れながら頼み手足を大きく動かす。
「がってんさね!」
先日見た筒状の結界に囚われた魔物は、
あっさりと捉えられた事を悟ってその中で暴れ出した。
それを見ながらアサヒは、
すぐそばで周囲を伺っているクーロに進言する。
「クーロさん…
やっぱりあの設定だけでも何とかなりません?
あんなデレデレのルキリ姉さんなんて気持ち悪いですよ…。
もっと本来の…いつも明るくて愉快な姉さんには戻せないんですか?」
哀れな者を見る様な目をアサヒに向けるクーロはため息を一つ。
「…あの時言ったのは嘘じゃよ。
記憶はいじれても心までは変えられんよ…。
ああ言えば流石にカディス坊も受け入れるかもしれんと思っただけじゃ。」
「…は?」
言ってる事を理解出来ないアサヒにシュミカがニヤケ顔で付け足す。
「ん~…
カディスがキャラバンに居た時の姉さんはずっとあのまま…。
リアしか見てなかったからあのバカディスには届かなかったけど…ね。
それでも一番幸せそうだった頃の記憶…。
そこのでっかいリスはちゃんと良い仕事をしている…。」
「でっかいリス言うんじゃ無いわぃ!」
「やめてよねぇ…アタシはシュミカ一筋だったんだしぃ。
今は二筋だけどぉ~…。」
(なんだ?
なんの話をしている?)
心が騒つくアサヒが見ると、
ルキリには聞こえていたようで、
照れ照れと笑いながら結界に魔力を送っている。
「受け入れるも受け入れないも…
我にその気は無いと何度も伝えたはずだが、
その記憶も封じたのか…。
通りで前より従順になった訳だ。」
カディスは神妙な顔つきで言っているので、
ルキリを見下していたりするのでは無いと理解は出来るが…
その言葉にアサヒは非常にカチンと来た。
アサヒとカディスの間には守ってくれている兵達が居るので出来ないが、
この世界の住人が客人に手を出せないという特権をいつかコイツに使ってやろう!と。
「それで…
どうであるか?
クーロよ。」
「…無駄じゃな。
完全に切り離された尻尾じゃな。
逃げた司教には繋がっておらん様じゃ。」
その言い回しにその場に居る竜人達は一瞬反応するが、
クーロに反論出来る者はこの場には居ない。
クーロはアサヒに目配せし、
(今はこの程度の嫌がらせで我慢せよ。)と鼻を鳴らす。
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「ノイ~…
あのバケモン、
なんかアンタの名前言っとったけど…
知り合いなん?」
バーカウンターの奥のキッチン兼楽屋スペースに隠れている五人、
ノイ、ニリ、カニャミ、パナルマ、シュシュルは息を潜めている。
「んな訳ないっすよ!
…でも、
あの訛り…前に店で聞いた事ある気がするっすね…。」
「あ~…
リャイ達のデビューの日にニャミが連れてきた客に絡まれてた奴らっしょ?
でも奢って貰えて結果、
喜んで帰って行ったはずっしょ?
…あの日一番可哀想だったのは、
三人パーティでメンバー二人がしけ込んでボッチになったあの兄さんっしょ?」
「あ~…
おったなぁ。
やたら色目使ってきた挙句に田舎のオッサンと半泣きで楽しんどった自称勇者な?」
リリリー=コンキリシャ…
今宵も何処かの街で仲間にいらぬ気を回し、
クシャミをしながら一人飲み歩く可哀想な見習い勇者の事である。
「あのバケモノ、
あれだけの竜人に囲まれて…
結界で封じられてるならもう出て行って外に逃げちゃっても大丈夫なんじゃないですか?
商会の方が心配なのでここらで失礼したいのですが…。」
クシュトーコ=シュシュルのシュシュル商会は他の街にも拠点はあるが、
本部はこの街に置いているので気が気ではない。
「いや…
もう少し様子を見た方がいい。
ウチの団長が本体は討ち取ったらしいが…
曲がりなりにも魔王の因子を持ってるなら油断してはダメだ!」
騎士団の隊長の顔に戻っているパナルマは、
ようやく掴んだ富豪の客であるシュシュルはもちろん…
これから夢を抱いて旅立とうとしているノイ達に傷一つつけまいと、
注意深く周囲を探っていた。
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「な、なんなんですの!?
街が…街が燃えているじゃないですか!
あのバケモノも捉えたのなら早くやっつけてしまえば良いのではなくて?!」
ステージ上でメンバー達と固まって震えるリャイラナは、
訳もわからずキョロキョロしているウチに床板の隙間から探る様に顔を出す物に気づく。
結界内で暴れている魔物を用心深く包囲する兵達の足元で蠢く物。
立派な竜人が敵は雑草と言っていた。
雑草の…植物の手足は根っこである。
「皆様!
敵は地中から結界の外に出ていますわ!
足元にお気をつけくださいませ!」
叫んだリャイラナの声に反応した根やツルはターゲットを見つけ、
一斉に地表にのび上がる!
「その子はリャイラナ=バキャッソ!
あんたら探してた客人の子孫のノーイラ=タスツは自分っす!
何勘違いしてるんすか?
この田舎者め!」
結界の中で暴れていた魔物はその声の方に気を取られるが…
それが憎んでいたのは名前が違くともリャイラナ達の音である。
だが因子は告げる。
『客人を滅せよ』と。
その魔物のコアである三馬鹿の意志はリャイラナに向かいそのままツルを伸ばす。
そばにいるカディス達はそちらに対応する他なく、
魔王の意志は狙っていた客人の遺伝子に向かい根を張り襲い掛かった。
…気付かれもしないで勝手に失恋モードの、
本物の客人そのもののアサヒは…
情けなく本気モードのリアとシュミカの陰に隠れて丸くなる事しか出来なかった。
(ちくしょう…ちくしょう!)
「ねーねーアサヒ~、
何してんの?」
何故か全員が忘れていたそれは欠伸をしながら現れた。
遊び疲れてVIPルームで寝ていた小さな怪物。
ちんちん姫エイナ様である。




