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そして、俺は〇〇になりました。  作者: Foolish Material
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そして、花咲く丘で待つ。その1

 二日後である。


 客人や竜人、

 ましてや天使教などとの宗教に関心の無い一般の人々からしてみれば…

 終わってしまえば今回の事件の後始末や街の噂話も、

 その程度で終わるささやかな騒動でしか認識されない。

 

(後から聞いてみれば恐ろしい話が進んでいたのか…。)


 そんなアサヒも当事者であった筈が…

 何故か名簿から落ちていたという事で、

 のほほんと過ごしていただけであるのだが…。


 ゴムールティルスガル支店。


 南の大陸で行われるコンテストのエントリー期限にはまだまだ余裕はあるが、

 今回の件を受けて念の為に早めの出発する事を決めたノイ一行の送別会の席である。


 この街でそれなりに人気が出てきたとはいえ、

 殆どがカディスの部下やアサヒがこの街で知り合った者達…

 あとは何人かのノーイラ=タスツのファンを自認する店の常連で埋まっている。


「まぁ…

 こんなもんっすよね~…。

 普段の感じからしても超満員ってのを期待した訳じゃ無いっすけど…。」


 ステージで歌っていないノイに対してはその常連ですら笑顔の会釈程度。

 

 ライブを店の売りとしてはいるものの、

 この世界では飲食店のスタッフの余興程度の認識なので一部の客にしか浸透していない。


「それでも別れを惜しんで参加してくれてるんじゃ無いですか。

 俺が元にいた世界では送られる側が必死に頭を下げて駆けずり回って、

 それでも集まってくれないもんなんですよ?」


 楽屋にお邪魔してこの世界の楽器を堪能させてもらっているアサヒは、

 元の世界での鳴かず飛ばずだった自分を基準に物申す。


「嫌な世界っすね…」

「…そうだね~…

 でも逆に好かれない事を前提に好き勝手やってる人達が人気になったりしてさ、

 腹はたったけど…

 それが面白い世界だったんだろうな…。」


 ニヤリと笑うノイは予備のシリウトを取り出してアサヒに合わせる。


「今日なんか一緒にやってみるっすか?」


 苦笑いのアサヒは嬉しくて可能なら…と高揚はするが、

 その気持ちは抑え込んだ。


「今度ゆっくりね。

 俺が知ってる楽器に似てはいるけど…

 音の並びが違いすぎててすぐには出来ないよ。

 邪魔はしたく無いから今日は楽しく観させてもらうよ。」


 アサヒにとって、

 ギターよりバイオリンなどの方に近い音の並びの楽器は馴染みが少ないが…

 ノイ達の音楽にはやりやすいのだろう。


 逆にリャイラナ達にはアサヒの知るギターなどの音の並びが合う気がした。

 

(商売の匂いがする…シュシュルさんに相談してみるか…♪)


「じゃあこっちの楽器ならどうっしょ?

 前に筋肉の人と来た時にそこそこ弾けてたっしょ~。」


 本日は立食形式の為、

 厨房に引きこもっていないカニャミは朝早くから仕込みを終えて自由の身である。

 アサヒの知る楽器としてはベースにあたるリウトラを差し出して、

 異世界のフレーズを盗み出そうと虎視眈々と目論んでいる。


(…今回のピッチが微妙に違うんだよなぁ…。)


 世界は違えど物理的に音階は限られて似たような物になるのは当たり前だが、

 音楽という物が浸透しきっていないこの世界では基本理論として成り立っていない。


 地域地域で微妙に違うのだが…

 それはそれで特色があって面白い。

 

 だからこそ今ここでアサヒが慣れ親しんだものと比べるのは無粋である。


「いやいや、

 今日の主役は君らなんだから…

 客席から楽しませて欲しいかな~…なんて…。」


「せやで!

 アサヒの兄ちゃんには手拍子で客席を盛り上げてもらわんと!

 なぁ?」


 ニリは助け舟のつもりで言っているのだろうが、

 それは見る側のプレッシャーになるだけで助けにはなっていない…。


 楽器で遊ばせてもらうのは全部終わった後にする事として、

 アサヒは応援と期待の言葉を残して客席スペースに戻る。


 そこで最初に目に入ったのは店主のパナルマに熱く語るシュシュルである。


「他の街のゴムールはたくさん視察してきたが、

 こんな店舗は初めてだ!素晴らしい!

 店主それぞれの裁量でやっているという事は君のアイデアなんだろう?

 どうだい?

 そのノウハウを持ってウチに来ないか?

 資金は潤沢にある、

 今を知らないから倍とまでは言えないが…

 それに沿うような収入は約束しよう!」


 好奇心旺盛に店内の機材を見渡しながらシュシュルはパナルマを口説いている。


「…あ、あたしは唯の雇われ店長だし~…

 本業は傭兵で…そっちの収入で事足りるのだけど~…」


 少し戸惑い気味のパナルマだが…

 夢を追いかけながら店内を走り回るリャイラナや、

 他の店員達に目をやりながら考える。


「…で、

 マジな話するとしたら相当な額だぞ?

 夢見てる奴らの背中押したくて傭兵までやって来てんだ。

 安泰の世界チェーン店から乗り換えるだけの保証は約束出来るのか?

 精霊の名にかけて!?」


 シュシュルは元々この店に目を付けていたが、

 世界最大大手チェーン店を敵に回すほど愚かではない。

 

「副業からでどうだい?

 この街の中や周辺の土地や物件もおさえてあるし、

 小さい所からでもやってみないか?


 アサヒ君に言わせると、

 こちらは高級ライブレストラン…

 次に始めるのは軽い飲食と音楽で大衆に寄り添うのはどうだろうか?

 彼が言うには『ライブハウス』と呼ばれるものらしい。


 実は絶品の看板メニューも決めてあるんだ。

 極秘に入手した幻の王国の秘伝レシピだぞ?」


 お互いにニヤリと見つめ合う変なおじさん二人の納得した表情を見て、

 アサヒはあの日介抱された恩を返せたかも知れないと笑みを浮かべ…

 そそくさと仲間の元へ。  

 

 例のVIP席で当然の様に酔っ払うリアとそれをなんとか操るシュミカは安泰。

 同席しているカディスとガトダトはエイナを囲んでいた。


「なんなんすかこの子!」

「あんな階層にたどり着いた存在すら聞いた事無いですよ⁉︎」

『ピー子様が居なかったら羽虫の雷撃で死ぬ所だったんですよ二人共!?』


 昨日アサヒはエイナと約束した通り、

 ピー子に会いにエレメンタルダンジョンに入るのに着いてきたガトダト。

 『見た目に惑わされずに強者というものを見て来い。』

 というカディスの言葉に従ったのだが…

 本当に見ている事しか出来無かった。

 なんならアサヒと一緒に足を引っ張っていた。


「お兄さん達のおかげで前よりも楽しかったよ♪

 前に潜った時は途中で会ったお姉ちゃんが強すぎて物足りなかったんだよ~…。」


(どんな筋トレ思考だよ…。)


 クルクル回りながらガトダトにハイタッチを強要するエイナに、

 『重り』認定された二人の竜人は愛想笑いしながら手を差し出す事しか出来ない…。

 

「最強と謳われる勇者ギリア殿と本気で戦えるお子様だぞ。

 アサヒ君が言うには二度ほど勝っているらしい…

 末恐ろしいな!ははははは!」


 クルッと回って決めポーズをするエイナは付け加える。


「うん!

 1回目は何日か起きれないくらいにボッコボコにしたよ♪

 次はギリギリだったけど…

 その後からは何だかズルい事ばかりする様になったから勝てなくなっちゃって…

 ずっと負けっぱなしなんだよ~…☆」


 大人達全員が聞かなかった事として目を伏せる中、

 リアは最初から背を向けて耳を塞いでいた。


「ん、

 大丈夫…

 エイナが精霊力で桁違いなだけ…。

 人間種で個人の力がトップクラスなのは間違い無くとおちゃだから…。」

「そうよねぇ~!

 アタシの旦那は世界一よねぇ~~!!?」


 シュミカの謎の慰めに心を落ち着かせるリアを見るカディスは複雑である。


「…アタシの旦那…とな?

 ギリア殿同様に我もこの子との相性は最悪であるので控えるが…

 ギリア殿とは一度本気でやり合ってみたいものであるな!」


 その光景を眺めながらルキリ=スターニーは笑みを浮かべる。


(カディス様…

 幸せそうだ。

 本当にリアの事が好きなんだな…。

 でも恋敵のギリアって人の事も認めてるんだ…。

 潔いな…かっこいいな…ずっと仕えて行けたらいいな…。


 ルキリは唯の部下の一人だし…しょうがないよね…。

 初めて会った時から貴方はリアを追い掛けて来たんだもん…。

 

 でも…


 でも?)


 その時店内の照明は落ち暗闇に飲まれた。

 少しの騒めきの後にステージに小さな光を放ちながら飛び回る精霊達が現れ…

 カウントの後、

 爆音と共に世界は区切られた。


 輝くステージとそれを更に輝かせる影とに。


 余興の始まり、

 リャイラナ達の憧れを見送るステージが始まる。

 

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