そして、雑草の芽は息吹く。その5
その入り組んだ隠し通路は、
魔王ウィーズイィが意志を持ち存命していた時代に地下に張り巡らせた物である。
すでに殆どのルートは崩れ落ちていたが…
ティルスガルの教会の司教と、
山岳地帯の先の小さな集落の長との二重生活の両方を壊された男…
見習い勇者一行から逃走した『バデュリボン=ゲリュリ』は、
万が一の為のルートだけは守り残していた。
愚かにも正々堂々と騎士道精神などと言う幼稚な戯言を盲信する馬鹿が相手で助かった。
自らが進んだルートの後方の結界は解除して潰し、
悠々とたどり着いた集落の地下にある研究施設。
共に逃げ延びた兵士と隠れていた一般信者達は既に魔王因子に精神を蝕まれている。
自我を残して怯えている者達もいるが、
ツルに絡め取られて身体の自由がきかずに施設の片隅で蠢いている。
「…せっかく静かに事を進めて完成体まで作れたというのに…
全てが台無しだ!
コアの母体を宿した愛娘の身体まで悪魔に持ち去られてしまった…。
ウィーズイィの復活が成功していたなら、
協会に俺様も魔王として認めさせられたというのに!」
「司教様!
これはなんだべ!」
「なんでこっただ事するだ?
助けてくれるんじゃねえだか?」
「腹ぁ減っただ…なんか食わせてけれ…」
炊き出しに釣られて最近信者になったばかりの三人組は、
まだ深くまで因子に蝕まれていない為に他の者達のように肉の塊とはなっていなかった。
その一人を蹴飛ばしてバデュリボンは笑みを浮かべる。
「…クソみたいなカスどもだが、
意思があるなら魔物のコア程度にはなるか…。
俺様がこの大陸から逃げる時間くらいは街を混乱させる事は出来そうだな。」
共に世の混乱を楽しんできた精霊達に願いの言葉を捧げると…
ここまで逃げ延びた後に動かなくなった兵や信者たちを巻き取っているツルは激しく伸び、
それらを一纏めにして押しつぶした。
短い断末魔の叫びは呪いを込めた一つの魂としてその塊の中へと沈んでいった。
バデュリボンはその塊に魔力を込めながら薄ら笑う。
「生まれ変わるといい…腹が減っているんだろう?
土産で拾って来た爆裂宝珠でティルスガルを焼いて全て食っていいぞ!
はははははは!」
やがてその植物の塊は人と獣の間の様な形を成し、
三面の顔の口から呻き声を放ち始めた。
その醜い怪物を見下してバデュリボンは次の策を練る。
「…こいつを街に放ったら西にでも行くか。
いずれかの魔王に取り入った後に取って代わり…
今度こそレイヴンの『竜神』を滅ぼしてやろう!
…せめてバカな第五皇子程度は仕留めてくれよ、
哀れな仔羊よ…。」
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ゴムールのVIP席の大きなソファに身を沈めるユリィネル=ソーシャイハは、
両脇に抱く恋人達からの愛に応えながら上から客席を見渡す。
(やたらと竜人の多い店ですね~…
店主にも一目でバレちゃったし、
居ずらいですよ~~…ずっと見られてますし~…。)
「…お姉様はこういうお店は嫌いでしたか?」
左から申し訳なさそうにユチミイ=セイショライは尋ねる。
それに続いてココツィラ=トトノアも右から身体を密着させて言う。
「ゴメンなさい!
最後の夜だから…
ワッチの好きな歌を聴いてほしくて誘ったんだけど、
今日は違う人達が歌ってるみたい。
オネェはこういうの嫌い?」
「全く!
ココはなんでちゃんと調べてから決めないの?!
絶対って言うから食事のお店は任せましたのに!」
全ての呼吸が届く距離で仲良く言い合う二人を見ながらユリィは申し訳なくなる。
「ふふ♪
違うんです~、
お店も賑やかな音楽も好きですよ~♪
ただ…
ここの店主さんが同業者さんでして…
少し前の戦場で敵対勢力に雇われてたんですよ~…。
それでちょっと目を付けられまして…。
でもお互いわきまえてますから大丈夫ですよ~。
だからケンカはしないでくださいね~♪
ほら、
好きなもの沢山食べてね。
夜は長いんだし~♪」
その言葉に顔を赤らめる二人は再会を願い信じ、
ユリィに回したのと逆の手の指を強く絡め合う。
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「どうしたんっすか?
ママ~…怖い顔して。」
ノーイラ=タスツは険しい顔でチラチラとVIP席を気にするパナルマに声を掛ける。
「ん?
あぁ…ゴメンなさい、
怖がらせちゃったかしら…?
あの女…同業者なんだけど…かなりヤバくてね…。
依頼主が同じ時はとても頼れるんだけど、
前回は敵対勢力でね…。
あたしはレイヴンで彼女は魔王軍だったの。
今日の客層見れば感じるでしょう?
お互いプロだから、
オンオフはハッキリ区別するけれど…
今いるお客さんには当事者が多いのよ…。
今日はカディス皇子がいなくて良かったわ…
あの二人が揃ったらせっかくのステージも台無しよ。」
昨日の今日でノイは苦笑いするしか無かった…。
(…昨日のギルドにママが居なくて良かったっすね、
ははは…。)
人間なのに帝国皇子に真っ向から喧嘩を売る『雷帝』。
でもそんな大物の前でも歌ってみたかった。
自分の声を届けてみたかった。
「…しけたツラしてないで今日は働きなさい。
南の都に行くんでしょう?
全部のしがらみを振り払って自由になる為に。
大丈夫、
アナタ達はちゃんと根を広げているわ。
自分達には見えない地中でもね…。
素敵な花を咲かせてらっしゃい。
だからリャイラナ達も引っ張り上げてちょうだい?
アナタ達が去った後のこの店を支えて貰うんだから!
しっかりと水をやって育てておくわ~♪」
客席を見ながら話し込む二人の間に料理の乗った皿が差し込まれる。
「あんな造花に水をやっても無駄っしょ。
ママにはアレをへし折って育て直してもらうっしょ…。
ノイは…とりあえず客席に料理を運ぶっしょ!」
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アサヒ達が教会へ辿り着いた頃には後始末の最中であった。
集まっていた野次馬達も今夜の話題を胸にそれぞれの宴に向かう。
「え~~?
お祭りもう終わり~?」
「…祭りじゃないよ、エイナ…。」
いち早くアサヒ一行に気づいたダトスは数人の部下を連れ、
念の為の護衛を兼ねて一行を囲む。
「皆さんどうしてコチラに?」
ダトスの額に人差し指を突き立てるリアは不機嫌そうに言う。
「アンタたちが面白そうな事をしてるって聞いて見学に来たのにぃ~!
キャンプファイヤーすら終わってるってどう言うことよぉ?
アンタ詫びに何か芸でもしなさいなぁ~!」
「や、
やめろよスティルノア…兵達が見てる!
昔の様なじゃれ合いは…」
「楽しそうであるな…
我も混ぜよ。」
不機嫌そうにやってきたカディスはダトスを摘んで退かせてリアの前に立つ。
「あ!
カディスおじちゃん~!」
クルクルと回りながらカディスに駆け寄るエイナは、
嫌がらせのようにその足元をちまちまと攻撃するが…
それらは全て尻尾だけであしらわれてしまう。
結果として猫じゃらしにまとわりつく猫の様な光景が周囲を癒しの空間に包み込む。
「ん~…
がんばえ~、
エイナぁ~…ふふふ~♪」
「あはは~…
本気だけは出しちゃダメだぞぉ~♪」
戦闘に興味が無く、
渋々着いてきたアサヒとシュミカの方がこの場を楽しんでいる。
「…全く、
この騒ぎの中にどこで何をしていたのだ?
冒険者達でお前達を探していたのだぞ、
リアよ…。」
実際に探されていたのは客人であるアサヒではあるが、
同義ではあった。
「はぁ?
お家でミートパイを焼いてたのよぉ。
なんか文句があるのかしらぁ?
それより状況を教えなさいなぁ…。」
ため息をつきながらカディスの心は…
今回の失態を話すのか、
手作りのミートパイについて聞くのか…
そのつまらない二択の間で揺れていた。
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「…ふん、
お前の餌はあの方角にある街全てだ。
道を外れてサンドワームの餌になどなるなよ?
さあ行け!
雑草の残りカス…
竜人と客人を喰らってこの世の脅威となれ!」
「腹ぁ~~減ったダァーーー!」
勢いよく飛び出したものの、
その巨体は生まれたての獣のように辿々しく地を踏んだ。
「…この大陸で最後に生み出したのが雑草の塊か…
まぁ良い。
俺様はいつか大きな花を咲かせるはずだ!
俺様には魔王となる才能が有る!
ここで失敗したなら別の場所で成功すればいいのだ!」
そして、転びながら走り去る魔物に背を向けて、
薄ら笑いを浮かべるバデュリボン=ゲリュリは…
生命維持に必要な魔力以外を差し出して精霊に命ずる。
「もっと楽しい事を見せてやる。
開け…
彼の地へのゲートを!」
禍々しい空気がその場を包み、
男は姿を消した。




