そして、雑草の芽は息吹く。その4
「え~?
今日もノイちゃん達は演奏しないのかい?
楽しみにしてたのに…。」
「新しい子達も賑やかで良いけど、
やっぱりあなたの歌が聴きたいわぁ…。」
ゴムールの常連の老夫婦は残念そうにフロアスタッフとして働くノイに、
少し多めのチップを渡しながら言う。
「あぁ~りがとっす!
でもほら…
今天魔会の件で街中がピリピリしてるじゃ無いっすか。
実は自分も客人の家系なんで…
ちょっと目立ち過ぎちゃったみたいなんすよ…。
しかもナイトソード…とか、
人をたぶらかすみたいな胡散臭い一族なもんで…。
目をつけられちゃったかな~~…?
なんて…
騒動が終わるまでは自粛っす…」
目を伏せながら申し訳なさそうに頭を掻くノイに、
老婦人は少し驚いて両手を口元で合わせて目を丸くする。
「あ!
でも自分は不発現なんで!
変な能力で魅了したり操ったりなんか出来ないっすよ!?
皆さんに応援してもらえてるのは曲を作ってくれるニリと、
素敵な言葉を紡いでくれるカニャミのおかげなんで…。」
優しい顔で見下ろす老紳士はその大きな手でそっとノイの肩に触れる。
「どうでも良いんだよそんな事は。」
老紳士に寄り添う老婦人も笑顔で答える。
「そうよ~。
そもそもみんな非現実に酔ってあなた達に魅了されたくて来てるのよ~?
逆に不発現が残念なくらいよね、
アナタ。」
婦人を軽く抱き寄せながら微笑む紳士は周囲を見渡して納得した。
あちらこちらからの視線は、
今ノーイラ=タスツを独占している老夫婦に早く順番を渡せと目配せしている。
「そうだね、
でも君は魅了の力を持っているよ。
それは生まれや与えられた物じゃない。
『君達自身』が頑張って獲得した力だよ。
新人の子達もそれはそれで好きだから今日はそちらで楽しませてもらおう。
な、オマエ。」
ウットリと紳士に寄り添う婦人はそっとグラスを手に取り、
ウッカリと割ってしまわないように口へ運ぶ。
「そうね…。
今夜の安全はそこらの竜人さん達に任せて楽しみましょう♪
あ…長く引き止めちゃって御免なさいね!
何かあったらギルドなんて通さなくて良いから言ってちょうだい?
いつでも助けになるから…。」
そっとテーブルにグラスを置くと、
婦人は周囲に目を配って軽く頭を下げてノイを独占していた事を詫びる。
「じゃ、
自分仕事に戻るっすね!
どうぞごゆっくり楽しんでいってくださいっす!
自分らが居なくなった後のこの店の顔になる子達っす!
応援してやってくださいね~!」
他の客達よりも二回りほど大きく筋肉の塊のような老夫婦は目を丸くする。
『聞いてないけど…どう言う事⁉︎』
その声はちょうど始まったステージの爆音にかき消された。
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北方の地。
襲いかかってくる魔物や野党などは容易く瞬殺して進むが、
幼女の歩幅での進行は容易くない。
屍である身体を維持する魔力を回復する為に、
それは大地に大の字に横たわって空を仰ぎ小さき者と会話する。
「そういえば…集落ではなんと名乗りましょうかね?
聞いていませんでしたが、
あなたの名前は?」
道すがら蓄えて来た木の身を頬張るハムスターはその意味を知らない。
「名前って何?」
幼女は目を瞑り、
暫くして問い直す。
「…例えば、
あの父親に語り掛けられる時にアナタはなんと呼ばれていましたか?」
「…『おい』とか『おまえ』?」
清々しいほどの悲惨な生い立ちに気づく事もなくいた魂である。
「…なるほど…。
それはまた後で考えましょうかね。
ところで…この身体は何をされていたのでしょうか?
先程、
首の後ろから変な芽が生えて来たので駆除しましたが…」
「…知らないわ?
大きな魔物が来る前…
初めて頭に手を乗せてもらったの。
気持ち良かったわ!
魔王様の新しいコアになれるんですって!
それも沢山作れるって!」
幼女の身体の方の魂は理解した。
(なるほどなるほど…
私が邪魔してなければ成立していた蘇生術式を成し遂げるほどの魔道士。
植物系の魔王のコアを量産しようとしてましたか…。
この娘はたどり着いた実験の成功例だったが…といったところでしょうか?)
「まぁなんにせよ、
今の我々には関係ありませんね。
アナタの魂が満足するまで暫く旅でも楽しみましょうか。」
幼女の胸の中のハムスターはパタパタと手足を動かして喜びを表す。
「いいの?いいの?
嬉しいわ!
土や草以外にも食べ物ってあるのかしら?
絵本では見たことあるのだけど…
お外の人達って大きくていろんな形のある物を食べるのでしょう?
どうやって食べるのかしら…?」
それを聞いた幼女は心の底からの怒りを飲み込み、
両手で優しくハムスターを包み込んで言う。
「…これから沢山教えてあげますよ。
この世には美味しい物がいっぱいあるんです。」
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「じゃから本当に地上だけで良いのかと確認に行かせたじゃろうに…。」
カディス自ら先陣を切り、
颯爽と教会内に突入した敵陣内は強力な魔物と化した兵達で溢れていたが…
殆どが正気を失っていて唯の烏合の衆と化していた。
その先にあったのは地下通路。
軍や個人のプライドをかけた相手としか相対することのなかった、
放蕩皇子の限界であった。
「ぐぬぬ…
よもや指揮官が逃亡しようなどとは…。」
「そりゃ逃げますよ…正規軍じゃあるまいし。
兵士も殆どは正気の無いアンデットみたいになってましたし…。」
ガトダトの二人のうち、
どちらかと言えばカディスの性格を理解しうるのはダトスであり此処にいる。
それでも進言しなかったのは、
その漢気こそが彼がカディスに憧れる起源であるからだった。
「まぁ…
これだけ結界でガチガチになっとりゃビクともせんかったじゃろうがな。」
後方で焼き爛れた人だか草だか魔物だか分からない燃えカスを眺めながら、
クーロは少しでも情報を集めようと気を探る。
「で、
どうする?
後を追うか?
カディス坊。」
今までになく大きく息を吐いたカディスは告げる。
「…お前がその様に言うと言うことは、
やめておけと言うことであろう?
一度引こう。」
一呼吸おいてカディスは言う。
「ダトスは部下に命じて通路の先…方角だけで良い。
探らせよ。
どうせ途中で途切れておろうがな…。
頼む、
何かあったら無茶はせずに死ぬような事はせずに逃げよ。」
結界に包まれた地下通路で何かがあれば、
もちろん命の補償などある訳はない。
様々なしがらみを背負い苦悩する心優しいだけの第五皇子を哀れに見ながら、
クーロウア=バエレは思う。
(皇族や竜人ではなく、
普通の世に生まれていれば…
これほど優しく愉快な勇者と呼ばれる資質の有る者は居なかっただろうに…。)
…と。




