そして、雑草の芽は息吹く。その1
すでに教会を包囲し、
教会からあぶれた天魔会の逃亡者の殲滅の報を聞いたカディスは…
静かに人差し指を天にあげ、
ゆっくりと教会へ向けて振り下ろす。
十分に警戒をしながら竜人達は包囲網を狭めて行く。
頭に血が上って激情していた、
豪快で力押しを得意とするカディスが慎重なのには理由があった。
出撃直前に名無しの天使から伝えられた情報。
『天魔会創始者である魔王ウィーズイィは滅んでいなかった。
その性質は植物系。
弱者を取り込み食事を与え…
その食事には『魔王の因子』が混ぜ込まれている。
やがて発芽した会員は広大な天使教のネットワークの中に入り込んで情報を集めて、
『魔王教会』へと流す組織となっている。』
魔王協会と暗黙の共存関係にあったギルドも、
流石にそれは看過出来ない話であり…
天使側も下々を放置していた結果の『お家騒動』である。
それだけでも歴史を揺らす程の情報であるのだが…
『魔王ウィーズイィ本体のコアは東の大陸で補足。
…先程、
勇者ギリアが討ち取ったとの報告あり。
今後は雑草共の株わけに配慮しつつ殲滅せよ!
今後ギルドのクエストにも追加する。』
カディスは鼻で笑う。
「そうか、
あの男…秘匿の理由はこの布石であったか…
次に会ったらヒュウミナロゥの功績を讃えてもらわんとな。」
その報を精霊通信で受けたカディスを含む各地の指揮官達は各部隊へと指示する。
『草むしりの時間だ!
花畑を作るために雑草共を除去せよ!』
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街中の宿に放たれたギルドの伝令ゴーレムは、
結局アサヒ一行を見つけられずに土に戻る。
普通の旅半ばの冒険者が町外れの一軒家を借りたりはしない。
同様にそれを貸したりする大家だって普通にいたりはしない。
アサヒ一行がこの午後のひと時を優雅に過ごしていられる理由は単純。
目の前でリアが用意したミートパイを美味そうに頬張るこの家の大家の中年男が、
昨夜のギルドの食堂でリアと飲んでいたろくでなし共の中にいたからである。
その中の会話で出てきた幻の王国のミートパイに興味を持った商人でもある大家は、
それを食べさせてくれるなら…と、
どうせ空いている物件を格安で貸してくれている。
それでも高額なのだが…
そこは先述のエイナの手癖の悪さが解決してくれたようだ。
「本当に美味いな!
この街で集めた食材で出来るとなれば…
もうこの街で店でも出さんか?
出資はいくらでもするぞ?」
一瞬ニヤけてゆっくりとアサヒを見るリアをシュミカがクッションでぶっ叩く。
「ん~!
確かにこの街は素敵だけど僕には目的がある!
ここで別れるの!?
…それとも…
そのレシピをギルドで契約した上で交渉…
マージンを振り込ませ続ける…どぉよ?」
…棒読みのクソみたいな茶番に微笑む大家さん。
「もちろん、
むしろその程度でいいのか耳を疑うよ。
『チャイル家秘伝、
幻の国のミートパイ』
それで売っていいかい?」
一応リアはエイナに目を向ける。
そのミートパイを美味しそうに食べているエイナは笑顔で応える。
「メニメニだって喜ぶよ♪
美味しい物はみんなに食べて欲しいでしょ?」
穏やかな団欒の中でその場の者は皆思う…
(本当に天使なんてものが居るのなら、
こんな存在であって欲しい…。)
緩み切ったままの顔をした大家はふと思い出した。
「あぁ、
そう言えば街の反対側の郊外にある教会あたりが騒々しいみたいだったよ。
ウチの商会にもギルドや竜人の出入りが激しかったし…。
何か知ってるかい?」
逆にこちらが聞きたい…という視線を感じた大家は頭をかいて恥ずかしげにいう。
「あ…
自分は跡を継いだだけでそう言うのは苦手でね…
何かあった時に腹を切る覚悟だけして有能な部下に任せているんだ。
こうやって顔を売りながら遊び惚けているだけなんだよ。
でも、
今日こうして新しい商売も始められそうだ。
この出会いに感謝だね。」
ただただ人脈だけを切り開くだけの才能。
それが彼にはあった。
普通に生きていればただの八方美人で終わるだけだが…
その人脈を有効活用してくれる有能な部下達を先人から引き継ぎ、
やがてそこそこに財を成すシュシュル商会のトップ。
『クショトーゴ=シュシュル』
世間一般から見ればただの金を持った遊び人である。
「リアちゃんも竜人さんだよね?
だから何か知らないかなぁって思ってね。」
…人懐っこいだけで、
腹芸は全くの不得意であった。
しかしだからこそ簡単に人の心に入り込む。
策略家の才能も持ち合わせていればそれなりの軍師にもなれただろう…
残念でもあり、
いつか商いの部門で世を照らす幸せな男だ。
「さあぁ?
この街で再会はした昔の知り合だけどぉ…
こちらは一般冒険者だしぃ、
流石に帝国から軍として来てるアイツらの情報までは知らないわぁ…。
知りたくもないしぃ。」
首を傾げながら言うリアに、
今起こっている事を何も知らないアサヒとシュミカもウンウンと首を縦に振る。
「そうかぁ~。
まぁどうせ今更武具の仕入れなんて間に合わないし…
被害の復旧の方面を見た方が良さそうだね…。」
クシュの先見の目は確かである。
その直後に街の反対の教会方面から爆音が届く…。




