そして、暴走する者達。その5
念を押したガトスとダトスの計画の準備にカディス達は時間を取られ、
すでに昼下がりである。
「どうせ向こうにもこちらの動きはバレているであろう?
ギルドの部隊はすでに高額なゲートまで使って東に行っているというのに…。
教会など我一人で十分破壊できると言うのに…。」
それを聞いたガトスは呆れて冷たい目をカディスに向ける。
「動きがバレているからですよ…。
しかも奴らは上からも見放された。
…貴方ならどうします?」
カディスは即答する。
「我ならば迎撃の準備だな!」
それに返すのはダトス。
「でしょうけど…
我々でしたら逃げ出します。
しかも奴らは烏合の衆。
…我らの様な軍隊では無いのです。」
ようやくその真意に気付いたカディスは兵達を見渡す。
明らかに少ない。
「…流石だな。
やれやれ、
我の影に隠れてばかりだったお前達も立派になったものだな。」
ガトスとダトスは笑って答える。
「貴方の影にいたからこそです。」
「影はコソコソと貴方を支える術を磨くのですよ。」
追われる群衆は、
一部は纏まり対応する為の準備をする。
だが一部は混乱して保身の為に散ってしまう。
その後者こそが後の乱の火種となる。
全てとはいかないだろうが…
この場に居ない兵達は今まさに、
張り巡らされた網に引っ掛かった個別の烏合を処理中と言う事である。
「竜人を隣人と勘違いしている輩に思い知らせておきましょう。」
「隣人を侮ればどれだけのしっぺ返しを喰らうのかとね。」
ガトダトの放った隠密達の合図を待って、
集まった迎撃側の教会への進撃の準備は固まっていた。
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リリリー=コンキリシャは少し気まずそうな仲間達二人に気を使わない。
むしろ二人がさりげなくお互いを気遣う視線を交わしている事に喜びを感じた。
「さあ、
行こうか。
北へ!」
もちろん彼らが滞在するこの宿にもギルドからの伝令は届いた。
しかし…
『宗教がらみには付き合わない事にしているんだ。』
とのリリの信念からそれは断り、
本物の勇者を目指す身として北の『魔王フォルナーイ』への挑戦を選んだ。
「外も騒がしくなってきた…
路銀は稼いだし、
きな臭い事に巻き込まれてこれ以上足止めを喰らうのは御免だ。」
そう言ってそそくさと街を去ろうとしている所を竜人の兵士に怪しまれて今に至る。
「貴様らは何処へ行く!?
天使教の逃亡者か?」
即事態を把握したリリは身構える仲間達を制して前に出る。
「北の魔王討伐の旅に出る所だよ。
オレは…
今はまだ見習いだが勇者リリリー=コンキリシャ。
話は聞いたが、
我々が助けた馬がもたらした手紙で騒ぎを起こしてしまった様で申し訳ない!
しかし馬助けをしただけだし、
それで我々の旅を妨害されてはかなわない。
ギルドへ行ってその真偽を確かめる程度の時間は作れるが…
その見返りはどうする?」
それを聞いた兵士達は、
堂々と両手を広げて胸を張る自称勇者に膝をつく。
「失礼しました!
我らが盟友の言葉を届けてくださった方とは…
我が主に代わり感謝を!」
「ギルドから話は聞いておりましたが…
その名しか存じませんでしたので…。」
リリはうつむいて首を振り、
申し訳なさそうな顔で兵に言う。
「…至らなかったのはオレの方か…ははは!
ならばその名だけでなく顔も知れ渡る程にならないとだね。
君達だけでも記憶しておいてくれたまえ!」
立ち上がった兵は改めて頭を下げる。
ササとピッピはその一連のやり取りを見ている事しか出来なかった。
「…時々無駄に勇者よね…。」
「…見習いのくせにな。
慣れなくても詐欺師でやって行けそうだ。」
「そうね。」
「兆候が見えたらトンズラしような。」
声を殺してクスクスと笑う二人の空気にリリは満足している。
「あ…」
去ろうとしている兵達を引き留めてリリは決め顔で助言を残す。
「今朝のギルドから来た伝達で気になったんだが…
君達のボスに伝えて欲しい。
『君達の網にもかからない様な最底辺にこそ注意した方がいい。
論理も信念も持たない者達こそ『理性の無い毒虫』だ。
あと、
あの賢い馬も大事にしてやってくれ』とね。」
軽い頷きを残して兵達は、
精霊の網にかかった他の不審人物を探して飛び去っていった。
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教会の礼拝堂に集められた一般信者達は、
竜人達の襲撃を知らされて動揺していた。
街の教会と山岳地帯の砦、
どちらも天魔会の拠点ではあったが…ルキリ達を騙し通し、
街の教会側は『白』であると思わせて再起を図る予定だったが…、
天使教本部からも切り捨てられた為に馬脚を現す羽目となった。
元々はあっさりと落とされた砦側を囮として落とさせて、
レイヴンの軍にそれで終わりと満足させ…
東のゲートから帰国するレイヴンの軍を強襲し、
東方の拠点とで挟み撃ちにする予定であったのだが…。
まさか本物の天使が下界のイザコザに介入してくるとは思っていなかったのだ。
カモフラージュの為に本当の一般信者も紛れているが…
殆どが兵隊である為に、
その場の統率の取れた動きは逆に恐怖感を煽った。
「な…なんでオラ達まで戦わねぇと行けねぇだ…?」
「そもそも戦い方なんかしらねぇだよ…。」
「天使様とやらがなんとかしてくれるんじゃねぇのか?」
そもそも信仰の意味すら知らず、
祈っていれば食事が貰える…
それだけの理由で天魔会に身を寄せていた例の三人は慌てふためく。
この教会の司教の大層な演説の中…
その様子を見た兵の一人は、
状況が理解できずに縮こまっている一般信者の塊に小声で伝える。
「戦えぬ者共は何処か地下にでも身を寄せて隠れていろ。
司教様の言葉も耳に入っとらん様だが、
外部からの精霊結界が貼られている様だから外には出ん方がいい。
網にかかったら竜人からも天使からも狙い打たれるぞ。」
それを小声で伝え聞いてザワザワとその場から退場する『戦力外』の者達。
その騒音に演説中の司祭は目を向けるが、
助言をした兵が司教に祈りを捧げて赦しをこう。
「お騒がせ致し申し訳ございません。
もはやこの場に居ても邪魔になろうかと…。」
司教は軽く首を振って言う。
「構いませんよ。
素晴らしい判断です。
今、貴方が植えた種はいつしか芽を出し…
やがて大輪の花を咲かせるかもしれません。
さぁ皆さん、
愚かな叛徒共の為に我々は一度滅んで見せてやりましょう!
全ては『天魔会』創始者、
魔王ウィーズイィ様の名の下に!」
声を上げる兵達の目は正気を失い血走っている。
そして、その後頸部からは雑草の芽が顔を出していた。




