そして、暴走する者達。その4
竜人、天使、その他の種族が精霊に対して抱くのは、
この世界そのものである精霊への畏怖と敬愛で同一である。
しかしいつからか弱き民の一部が天使を信仰して『天使教」は生まれた。
それは一部の民の心の支えとなり救いとなる。
やがて天使が敬う精霊をその上位存在として、
教団内では精霊の神格化が進んで行った。
一方、
それ以外の力を持つ民達にとって精霊はこの世界を保ち、
共に歩む良き友人としての関係が築かれていった。
歴史の中にも殆ど姿を現さない『天使』そのものは、
『天使教』の存在すらも知らないのかもしれない。
それでも長い歴史の中で弱き者達がすがり、
救いとして来た天使教はその数を増やしてこの世界の一大宗教へとなって広まった。
そんな中に精霊が突然異世界からの『客人』を悪戯に招き始める。
『この世界への侵略ではないか?』
『精霊様はこの世界の住民に飽きたのか?』
弱き民が不安ばかりを募らせる中に一つの噂が広がる。
『とある客人の世界では、
別の世界の客人が精霊達を連れ去り…
その世界は崩壊して消えてしまったらしい』と。
時は流れて今となっては忘れ去られ、
落ち着きを取り戻した日々は流れているが、
当時そこに目をつけた時の魔王が立ち上げたのが『天魔会』。
その魔王はあっさりと倒れたが、
結果として『天使教』と『それ以外』を区別してしまったのだ。
それは混乱を生み…世は乱れたが、
結果として『精霊達』を楽しませてしまった。
その精算の時が来た。
人の集まるギルドでは人目につき過ぎてしまう為、
このティルスガルの地ではカディス率いるレイヴン軍が貸し切る宿の、
人払いをしたカディスの個室に天使教…
いや、天の使いが膝をつく。
「初にお目に掛かります。
私共に名はありませんのでご容赦を。
我らはただただ時を待つ者。
故にこの地を騒がせる要因になっているとは…。
と、『主』は謝罪の意を卿らへと。」
鼻で笑うカディスは手をひらひらと払ってその使いを見下していう。
「やっと姿を現したと思ったら面倒臭い。
貴様達がもっと早く下界に目を向けておったらこんな事も無かっただろうに。
『天使教』の思想はもはや民に浸透し過ぎておる。
『天魔会』の差別意識もまた然り!
…この燻りは消せはせんだろうな…。
せめて貴様らの出来ることをせよ!
我らも力を貸す。
名無しよ、
我らは『ティルスガル天使教会』を殲滅する。
皆殺しだ!!
天魔会では無い一般信者もいるだろう。
恨みは全て我、カディス=レイ…
いや、竜人カディス個人が全てを引き受ける!
天使教の歴史に我が名を『暴徒』と記すがいい!」
立ち上がり剣を抜いたカディスはそれを天使の首元にあてがう。
「…お覚悟、
痛み入ります。」
広まり過ぎた『天使教』と『それ以外』の戦いと、
『天使教内の異端である天魔会』と『それ以外』の戦い。
選ぶまでもない。
各地で同様の小さな犠牲を生むのであろうが、
小さく済むのであればそれが最善であると覚悟を示す賢者達は身を捧げる。
深々と頭を下げ、
背の羽根を広げた天の使いはそれを一度大きく羽ばたかせると、
音もなく姿を消した。
カディスはそれを見届けてから顔を上げると、
天使が跪いていた場所を力強く踏み込んでから部屋を後にし、
皆を待たせているロビーに向かう。
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教会の庭では異例の御馳走が振る舞われていた。
名目としては客人を良く思わない貴族からの寄付が有り、
教団の為に日々を捧げる者達へ普段の活動に対する労いの宴である。
当然だが、
この教会の上層部には天使そのものが動いたと言う情報は届いている。
保身の為に出来ることはただ一つ。
『尻尾を切り捨てて違う顔で生きる事』
ギルドは中立だがパンクしている。
ただ、
そこには世の役に立たないどころか世に害する類の者達が集まっていた。
「うっわぁ!
こんな物食ってもええんだか!?」
「すっげえ御馳走だなぁ!」
「昨日から続けてうめぇもん食えて最高だで!」
この先に壊れる平和な日常も、
組織という物が絡んでしまうと策略の一部となり犠牲者を喰らうのだ。
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「出来たわよぉ~!
さぁ!
お姫ちゃん食べてみてぇ~♪」
あの味を酒の友に!
と、再現したいと思い…
メニクト=チャイルのミートパイをリアは暇つぶしに作り始めた。
何度か失敗は繰り返したが…
王室育ちの舌をもつエイナの的確な指導により、
今度こそ!と自信作を突きつける。
「美味しいよ!
リアお姉ちゃんの味だと90点、
メニメニとは違うから70点かな~?」
気を利かせた『失格』である。
「それでも十分おいしいよ。
感覚で生きてるぶん料理とか才能あるんじゃないか?」
適当な事をいながら普通の味をアサヒは堪能する。
「ん…愚民どもめ…
そもそもリアが調理する事が神の所業なの…」
そういうシュミカも、
もちろん美味しいという事に異論は無いが…
無駄な所に完璧主義なリアとエイナのレシピと作り方の議論に、
アサヒとシュミカは腹を膨らませる。
「ん…
でもこんな一軒家なんてよく借りれたね…。」
リアはサッとエイナを手で指す。
「お姫ちゃんがダンジョンで拾って来た羽が高く売れたのよぉ~♪」
アサヒの視線を感じたエイナはスッと目を逸らす…
どさくさに紛れてピー子の羽をくすねて来ていたらしい…。
騒がしくなり始めた屋外から隔離された一行の昼下がりは、
静かに平和な時を刻んでいた。




