そして、暴走する者達。その3
二日酔い気味に目を覚ましたカディスの滞在する宿に、
ギルドから馬の帰還とヒュウミナロゥの死が伝えられるとその場の空気は一変した。
「…チョロチョロと目障りに策を弄しておるだけなら、
今回の様にたまの躾で済ませてやろうとも思っておったが…
ギルドの職員どの。
精霊どのへの契約の儀はすぐに執り行えるか?」
静かだが地の揺れるような憤りがその言葉に響く。
伝令を済ませたギルド職員の老紳士は驚く事もなく無言でその場にひざまづき、
膝下に静かに小さな魔法陣を書き記す。
「これより我が行う事はレイヴンとも天使教とも関係がない。
ただの私闘である。
戦場でならば我が戦士達が散るのは誉れであろう!
だがヤツは休暇を与えたばかりの非戦闘員だ…」
本来のリア達の捜索などの都合にも合う条件だったので自ら志願した遠征。
ギリアを送り届ける命を下したのも自らであり、
それを成し遂げた後のことである。
『責任は我のみに在り』
怒り心頭の中、
良い機会であると思いながらカディスは宣言する。
「今後この軍はガトスとダトスに任せて我は帝国より離反し、
一人の復讐者として天使教どもを狩り尽くしてくれよう!」
その決意は固く、
その場に居る者達には響いたと思われる。
しかしながら、
その場に居るのは電令の老紳士と未だにブツブツと寝言をほざくガトダト、
よく理解せずにパチパチと手を叩くルキリ=スターニーだけであった。
「…伝令役どの…、
これで我が何をやっても兄上に迷惑は掛からんか?」
あたかも人間のように振る舞う伝達用のゴーレムである老紳士は言う。
「ご立派なお覚悟、
感服いたします。
しかしそこまでする必要はございません。
件の東の天魔会の拠点へは既に手を回しております。
此度の各地での事で天使教側も天魔会には見切りをつけ、
叛徒して追放する事を大司教アスカリエルの名の下にギルドを通して宣言致しました。」
それは天使教トップの名であり、
そうそう聞く事はない。
「なんと…
すでにそこまで事が進んでおるのか…。」
「はい。
ティルスガルの教会も先日の報告で拠点の一つと知れましたので、
あなた方にはそちらをお任せしたいとの要請でございます。」
カディスは少し考えてルキリに伝える。
「…もちろん引き受けよう。
ルキリ=スターニー、
皆を呼べ。」
「カディス様~、
あいつらさっき休ませたばかりだよ~?」
それはカディスも承知しており気は引けたが、
声に出さなかった手紙に書いてある内容をルキリに伝える。
「嫌な偶然ではあるが、
ヒュウミナロゥが耳にした名はノーイラ=タスツ。
ナイトソードである彼女も客人の子孫の一人だ。
何人かをゴムールへ、
そこに居たなら護衛につかせろ。」
目の色が変わったルキリは飛び上がって各部屋の扉を叩きに回った。
「で…
この街にいる他の客人関係者の情報はあるか?」
「現在ギルドに申請されているのは一人だけ。
…ご存じでしょう?」
カディスはため息をついて頭を抱える。
「…あの男が居たか。
滞在先はわかるのか?」
老紳士は一枚の紙を渡す。
「…こちらにも何人か向かわせよう。
まぁ、あのパーティなら何の問題も無いではあろうが…」
立ち上がったカディスは大きく息を吸って一言喝を入れる。
「起きろお前達!」
飛び上がるガトスとダトスはまだ半分夢の中にいた。
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朝の日課を一通り終えたノーイラ=タスツは楽器をしまい、
ゴムールのランチ営業の仕込みに向かう為に立ち上がって背伸びをする。
「ん~!
調子いいっすねー♪
続きは夕方っすね…さて。」
見慣れた風景を見渡して大きく息を吸い込み、
空を見上げたノイはそれを空に放つ。
(リャイラナ達が店に馴染んだら、
いよいよこの街ともお別れっすね…
いつか名前だけでも帰って来れる様に頑張らないとっす!)
「とりあえず買い出しして戻るっすか…。」
ノイがその場を去った後、
しばらくして天魔会の三人組が聴こえなくなった歌声を求めて現れた。
「確かコッチの方から聴こえてただよなぁ…?」
「だと思うだが…」
「腹減って帰ったんじゃねぇか?」
キョロキョロと辺りを見回すが、
それらしい姿は見当たらない。
散歩の途中なのであろうか、
ベンチに腰掛けて休んでいる老婆に尋ねると…
「ああ…
毎朝お歌の練習してる子ねぇ。
お仕事かしら?もう帰っちゃったけど、
わたしも好きなのよ〜…
それで毎朝の運動も欠かせずに続けられるの。
わたしは食事の支度があるから来れないけれど…
夕方にも仕事帰りかしら?
よく歌いに来てるらしいわ〜♪」
うだつの上がらない人生に一輪の花の情報を得た三人…
特に舞い上がる細みの男は出会いへの希望を抱き、
高揚する。
「そう言えばオラ達も腹減っただなぁ…」
「…だなぁ。」
「そろそろ教会の炊き出しも始まる頃だし、
行ってみるかぁ…」
昨夜の偵察の報告もあるのだが、
そんな事よりも三人にとっては信仰心よりも食事の方が大切であった。
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大規模な部隊編成の為、
ギルドは冒険者の手配で慌てふためいていた。
ユリィとの優雅な朝食を済ませて遅刻気味に出勤したユチミィとココツィラに怒号が飛ぶ。
「ちょっとアンタ達!
早く窓口開けて手伝って!」
いつもであれば深夜の魔物討伐から戻った冒険者達を迎えるか、
薬草採集程度の依頼しか無い為…
不慣れな職員がアタフタと対応していた。
「は、はい!
ココ、事務処理の方をお願い!」
「はいよー!」
そそくさと席に着いて窓口の一つを開放するユチミィの後ろの机に座るココツィラは、
隣の窓口対応職員の後ろに座って事務処理をしている同僚に声をかける。
「なになに〜?
どうしたのコレ…」
前から送られてくる書類を凝視して手を止めないまま彼女は質問に答える。
「天使教と竜人がぁ、
いよいよ天魔会を潰すみたいぃ。
街の拠点は竜人でぇ、
東の拠点は天使教の大司教からギルドに依頼があったのぉ。
街中の宿に伝令が行ってぇ、
こんな感じぃ。」
「へえ〜。」
と、
他人事の様に聞きながら机の方に目を向けると…
既にそこには書類の束が山になろうとしていた。
「ココ!
早く処理して!」
「…全部廃棄処理でいいかなあ?」




