そして、暗躍する者達。その5
こっそり食堂から抜け出したリアとシュミカは、
リアの本能に従ってギルドの厩舎に隠れていた。
「あぁいいわねぇ♪
お馬さんの匂い!
力と信念と忠誠心の香り!」
無理矢理巻き込まれたシュミカは多少不機嫌である。
「ん…獣臭いだけ…。
なんで僕まで逃げなきゃいけないの…?
というか…
あの女は何?
昔の恋人⁈」
膝の上に居たのでつい…と言いかけながらリアは誤解を説明する。
「いつも一緒で居たいじゃない~シュミカちゃん~!
あの女はヤバいのよぉ。
幼年学校からカディス共々の幼馴染でねぇ…
やたら懐いてくるもんだから…
酔った勢いで遊んだら、
次からは『お姉様~!』なんて付き纏い出しちゃって…。」
一瞬頭の整理で硬直したシュミカは、
頭を抱えながら深く深呼吸をしてみせる。
「…ん。
自業が自得を背負って来たのね…。」
「てへぇ♪
アタシがこっそり旅に出たのも、
あの子から逃げたい気持ちもあったのよぉ~。
あの子、
アタシに近づく人全部に攻撃的だし…
そのせいで愚カディスもあの子とぶつかるし…。
そのおかげでシュミカに会えたのなら全部運命だわぁ♪
今夜も寝かせないんだからっ!」
ハフハフと擦り寄ってくるリアを両手で押し返しながらシュミカは何かを感じる。
「ん~…、
この街に来てから色々有り過ぎて疲労困ぱい…
今夜はお預け!
…あ、
そう言えばエイナと…なんかもう一人を置いて来てる…。」
そう言えば…と、
リアも思い出して手を叩く。
「そうだそうだぁ…
お姫ちゃんを待ってたのよねぇ!
流石にもう帰ってくる頃じゃないかしらぁ?
晩御飯にはちょうど良い時間だしぃ♪」
そんな話をしていると…
『ヒン…』と厩舎の奥から一頭の馬の力無い声が聞こえた。
「あらぁ?
怪我でもしてる子かしらぁ?」
気になったリアはその声の方へ向かうと、
馴染みのある匂いと声が聞こえた気がした一頭の馬が自分の存在を知らせようとしていた。
「あ、あなた…
ギリアと東に行った子じゃない⁉︎
何で一人でこんな所に?
…何かあったのかしらぁ?」
そっと近付いて優しく首を撫でるリアは、
その馬が何かを伝えようとしているのはわかるのだが…
「ちょっとシュミカ~!
この子ギリアを送って行ったんじゃないの~?
その後はバカンスだって張り切ってたじゃないのぉ…。」
シュミカは精霊を通して馬が伝えようとしている事を翻訳する。
「ん~…?
自分は…『ギル』。
主人が名をくれた…?
んん…
主人は自分を逃して死んだ…。」
言葉を遮るリアの関心はギリアである。
「ちょっとぉ!
アナタが運んだ勇者ギリアはどうしたの⁉︎」
その賢い馬は改めて順を追ってシュミカを通して思念する。
『自分が運んだ勇者は無事に目的地へ。
その後に主人が建物に入り…
追われた。
主人は自分に偉大な勇者から借りた『名』と『使命』を与えて矢に打たれた。
『使命』は優しい人間が届けてくれた。
どうか主人の気持ちを主人の主…
あの強い竜人様へ届けて欲しい…。』
ギリアが無事なのだけを理解したリアは後を聞いていない。
代わりに理解したシュミカは連れて来られて良かったと思った。
(ん…
相手はわからないけど…
何者かが竜人の…皇子の部下を殺した⁉︎
ん~…面倒臭くなりそう…。)
「ん、
リア…
これは一度受付に戻るべき。
精霊さん情報で、
さっきの乳デカ女もギルドからは去った模様。」
ギルの毛並みにうっとりしながら頬擦りしていたリアは話を聞いていなかった。
「良いわぁ♪
この子は優秀ねぇ!
ほら!…ほらぁ~ここはどぉかしらぁ?
ほらほらぁ…気持ち良いでしょぉ~?」
話を聞かないリアにシュミカはドス黒い笑みを浮かべて抱きついてみせる。
「ん…
リア…
僕の事は好き?
愛してる?」
その嫉妬に心動かされたリアは舞い上がる。
「あらあらぁ!
この子も素晴らしいけれど…
一番愛してるのはアナタよシュミカぁ~~!!
愛のベクトルが違うのよぉ~~!」
片手をギルから離さずに、
もう一方の腕でシュミカを抱き寄せるリアにシュミカは耳元で告げる。
「ん~、
嬉しい♪
今夜は新鮮な馬刺しで元気をつけたい気分…
ちょうどいい…ね。」
ギルは冷や汗をかいて視線を泳がし、
リアは深く土下座して許しを乞うた。
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無事に検閲の間を通過したアサヒとエイナはギルドの受付に報告に行くのだが、
今回も客人差別の様に結界に囚われる。
「はぁ…またあの担当の人なのかな…?」
などと呑気に独り言を呟くアサヒの額に小石がぶつけられる!
「痛ってぇ!
何⁈」
その小石を投げたポーズのままの例の受付嬢さんが肩を震わせてお怒りであった。
「アサヒ=ハザマぁ~!
優しく指南してやった挙句に…
パーティ初めての換金依頼がそこらの石ころとはどう言うつもりだぁ!」
…色々有り過ぎて忘れていたが、
確かに最初にエイナが送ったのは石ころであった。
思い出してヒヒっと笑うエイナを咎める筋合いも無く…
お互いに察した二人は頭を下げる。
「まぁ…その後に送られてきたのはアレでしたけど…。」
とりあえず彼女は一発目の衝撃を清算したかっただけのよう。
「とりあえず!
82階層到達。
ティルスガルルートでのレコードキーパーの称号は承認されました!
気に入りませんけど!
アサヒさんは居ただけですからね?
エイナさんの実績であることをお忘れなく!」
何やら嫌われているなぁ…と、
自覚しながらアサヒはふざけた会釈で『もちろん!』と返してみせる。
ギルドやダンジョンに慣れたエイナはひと通りの手続きが終わったと理解し、
「じゃあまたくるね~♪」
と、与えられた称号など興味がない様に食堂へ行こうとアサヒを誘う。
(…クルセイトではもっと凄かったって訳かな?)
改めてこの世界の住人の強さに見た目は関係ないと思い知らされ、
顔を上げたアサヒの前にリアとシュミカが合流した。
「あらぁ、
やっと帰って来たのねぇ?」
「ん…
ちょうど良かった…ね♪」




