そして、暗躍する者達。その2
シーティスカヤの研究所。
コロノラ=バージレモは、
雇い主であるテッドの事は嫌いだが…ユリィと同室の自室だけは気に入っていた。
呼ばれない限りはほとんど引き篭もり、
定時に運ばれて来る指定した銘柄のお茶を飲みながら魔術の研究をしている。
「ユリィお姉様…いつ帰って来るのかしら?
…このままだとお姉様の香りも薄れていってしまいますわ…。」
今はお茶が運ばれて来る時間ではないが、
ノックする音が響く。
「バージレモ様、
チェルキノです。
先生がお呼びです。」
ドアを叩いたのは『チェルキノ=シィヤパナ』。
テッドの助手の少年であり、
料理やお茶は彼が全部用意している。
コロンはこの少年の事は好ましく思っているが…
タイミングが悪かった為、
深いため息をついて扉を開ける。
「あ…ゴメンなさい!
でも…」
軽く怯えるチェルキノにコロンは優しく微笑む。
「あの男に部屋には近づかない条件を出したのはコチラですもの。
アナタは悪くなくてよ…。
用件はわかるかしら?」
チェルキノは申し訳なさそうに首を振る。
「そう…どうせろくでもない内容でしょうけど。
わかりましたわ。
すぐに行くのでロビーに待たせておいてくださるかしら?」
「かしこまりました。
先に行っております。」
扉を閉めたコロンはゆっくりと服装を整え…
大鎌を手に取り肩に担具と、
姿見の前でポーズを取ってニヤける。
(今日のアタクシもユリィお姉様に相応しいですわ…。)
扉に手をかけて颯爽と部屋を後にしようとした所で、
いつもの様に大鎌を引っ掛けて尻餅をつく。
彼女の二つ名『迂闊な死神』の所以である。
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カウンター越しにステージと客席の間に張られた防音障壁結界から小さく聞こえる、
ステージリハーサルの音を楽しんでいたパナルマ=ハルロカカは重く開いた扉に目を向ける。
「あら、
カニャミちゃん…そちらの方々は?」
カニャミは胸を張って応える。
「お客さんっしょ。
ボッタクリと高いだけでマッズい店から保護して来たっしょ。」
自慢げに言うカニャミに苦笑いのパナルマ。
「…ご近所付き合いもあるんだから、
ほどほどにね…。
まぁいいわ、
いらっしゃいませお客さま~。
結界で音は抑えてますけど…リハーサル中でも大丈夫かしら?」
「ああ、構わないよ。
むしろ貴重な体験で嬉しいくらいさ、ははは!」
その後ろに続くササと…
その頭越しにパナルマの顔を見たピッピは噴き出して顔を背ける。
(た…隊長⁉︎)
二人ともかつてギリアが率いた『精霊騎士団』に居たわけだが、
いくつか分けられていた部隊の中で二人は上下の関係にあった。
ピッピはそっとササのローブを引っ張って耳打ちする。
「さっきは悪かった。
謝るから隠れさせてくれ…
あのゴツいの昔の上司なんだ…。」
「な、なによ…もぉ…。」
入り口でもたついている二人にパナルマは声をかける。
「三名様とも、
武器の類はこちらで預からせていただきますので…
さっさと出しな!
気配でバレてるぜ、ピッピ!」
「ヒィぃっ!」
何事なのかは分からないが、
ササは背中に隠れるピッピに悪い気はしなかった。
むしろ喜んだ。
「もぉ、だらしないわね!」
パナルマも優しい口調で続く。
「ここは戦場じゃないんだから固くなるな。
…久しぶりだな、元気にしてたか?
今ここではあたしはあの子達のママさんさ。」
恐る恐る前に出て武器類を預けるピッピ。
「そういえばギリア団長にも会いましたけど…
何かが?」
深刻そうな顔で訪ねるピッピにパナルマは笑って肩を叩く。
「ここにも来たわよ、偶然ね。
あたしは元々ここ出身。
あの人はいつもの放浪癖でたまたま面白い子を拾って楽しんでるみたい。
さぁ仲間が待ってるわよ、
サービスするから楽しんでいってちょうだい♪」
ピッピは苦笑いしながら席に向かう…
(…結局この店が一番のハズレじゃないか…。)
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ギルド食堂の一角はまた騒がしくなっていた。
「ち…ちょっとぉ、
なんでアンタがこんな所にいるのよぉ~!」
体調が戻ったリアは、
『ムシャムシャ禁止』用の防具を装備したシュミカを膝に乗せて慌てていた。
「リアお姉様~!
運命の再会ですわ~♪」
立ち上がって声の主を睨んで警戒するカディス。
三人の前に勢いよく現れたのは、
ダンジョン帰りのユリィネル=ソーシャイハである。
「貴様!
傭兵風情がまたノコノコと…」
カディスを一瞥したユリィは派手に舌打ちをする。
「…感動の再会に水を差さないでいただけます~?
このトカゲの大将風情が!」
「…それアタシにも悪口よぉ…!」
「まさか~!
こんな奴と違って、
リアお姉様は美しい天竜ですわ~♪」
ユリィのカディスに向けた手に雷が集まりだし、
戦闘体勢をとるカディスは身体が硬化していく。
「…ん、
そろそろ来る…かな?
リア、目をつぶって…。」
ここはギルド内である。
何となく察したリアや、
周囲の野次馬達も目を伏せてその時を待つ。
いよいよ二人の気が高まった瞬間…
二人の眼前に烈しい閃光が走った!
「ぐぁっ!」
「きゃあんっ!」
精霊の介入である。
ギルド内で喧嘩などがあった場合、
普通の者達には精霊の声が聞こえない為、
普段なら怒った精霊さんが引き起こした現象として流されるが…
「ん…、
『ギルド内での如何なる暴力行為も許しません。
引き下がらないのであれば…
エレメンタルダンジョン最下層に封印する。』
…って精霊さんは言ってるけど…
どうする?」
神職であるシュミカが代弁した精霊の言葉…
それを聞いた野次馬達はゾッとしていた。
流石にカディスとユリィも頭を冷やして心の矛を収めるが、
睨み合いはつづく。
「先の戦争でコイツが何をしたか知っているのか⁈
リアよ!」
旅先で情報などに興味のないリア達は知りようがない。
「…婦女暴行かしらぁ?」
カディスはそれはそれでしそうだとも思ったが…
「我らの国を…
お前が住んでいた街も破壊し尽くしたのだぞ!」
言葉が出てこないリアがユリィの目を見つめると…
ユリィは柔らかくも冷たい笑みを浮かべる。
「だって~あの時の雇い主は魔王軍だったし~…
リアお姉様の居ない国なんてどうでもいいでしょ?」
緊迫した空気が漂う中…
ルキリ=スターニーの爆睡はまだ続いていた。




