そして、本当に雷鳴は轟く。その6
遥か下層で暴れ狂う雷鳴。
ギルドの食堂にも、
それを彷彿とさせる嵐の後の惨状が広がる。
「確認が取れました、
サラライさん両名とも南方のギルドへの転送完了。」
「別人として生きていく事になりますが…
故郷の国も前より醜悪な魔王が着任した様ですし…
平穏に過ごしてほしいですよね~。」
耳打ちでダトスとガトスの報告を聞くカディスは、
昼間とは思えない食堂の荒れっぷりに呆れながら溜め息を吐き…
「勝手に『サラ』『ライ』とか呼び名をつけるな…
だがまぁそうだな、
彼方は彼方で問題はあるだろうが…。
下手な事に首を突っ込まなければ問題なかろう。
この先は我らの関わる所では無いな…
折角助かったのだ…願うなら幸せになって頂きたいものだな。」
死屍累々の中のリアの飲みかけが残ったグラスを手に取って口に運ぶ。
「ぶうぅっ!!
コイツなんて物を飲んどるか…カハ…カハっ…
言い忘れていた事を伝えたかったが…。」
思わず吐き出したその酒は、
『内臓を溶かしてしまうのではないか?』
と思わせる程の液体であった。
「まぁ別に後でも構わんか…奴の事など。」
ここに居る冒険者どころか従業員まで数人を残して潰れている。
軽くした目眩を振り払ったカディスは、
ハンカチを取り出して自分の粗相を拭き取り思った。
(…冒険者の日常。
少し前まで我もここに居た筈なのだがな…。)
やがて別のクエストを終えた冒険者パーティが入ってきて驚く光景を見て、
カディスは言う。
「…今日はもう予定も無い。
冒険者達の憩いの場を綺麗にしてから…
みんなで美味い酒でも飲もうか。」
幸せそうに酔い潰れるルキリ=スターニーの寝顔を眺め…
付き物でも落ちたかの様な穏やかな笑みを浮かべて言うカディスに、
ガトダトを含めた部下達はテンションマックスで食堂の掃除と…
くたばっている有象無象の排出を始めた。
(帰りたかった家族はもう無い。
せめて…)
「そういえば…
あの男の姿が見えんな。
子守りでもしておるのか?」
「当たらずも遠からずっすね。
たぶん面倒を見られてるのはアサヒさんの方っすけど。」
その疑問に即答したのは手洗から戻ったノーイラ=タスツ。
「自分は飲んでないっすから、
手伝うっすよ。」
「先程我の喉は潰れかけたが…
お主の喉の調子は良さそうであるな。
だが今回の恩人にその様なことはさせられん。
綺麗になった席…いや、
誰か付けるから何処か良い店にでも…。」
カディスの申し出はありがたかったが、
今夜歌うステージの無いノイはこの場所に居たかった。
「いやいや逆っすよ…
自分は姉さんに少しでも恩を返したかっただけっすから。
まだまだ足りて無いっす!
毎晩酔っぱらいの後片付けしてるプロに任せるっすよ♪」
夕刻に向けて食堂に顔を出しては引き返す冒険者達も増えてきた。
何処かで見ているギルドマスターの視線を感じたカディスは、
速やかな原状回復が優先であると判断する。
「…では申し訳ないが皆の指揮を頼む。
もちろん我も使ってくれ、力だけは誰よりもあるのでな。
それと、
頼むから身分などと言うくだらない事は忘れてくれ。」
一瞬考えたノイはすぐに理解した。
「あ~…、
カディスさんもそうみたいに自分も元々こういう口調なんすよ。
似た物同士なんかもっすね。
自分にとってアンタは最初からウチの店の『唯の客』っすよ。」
瞬間、郷愁に駆られたカディスの口元は緩む。
「…そうか。
ではどんどん指示をくれ。」
「そっすね…
まずはそこの屍どもを隅に纏めるっす!」
「おう、
了解したぞ親方どの!」
「ぷっ…何すかそれ?」
一纏めにして抱えたリア、シュミカ、ルキリを腕で感じながら、
カディスはノイから顔を逸らして言う。
「…ハハ!
…少し昔の癖が出ただけだ。
恥ずかしいから気にするな!」
ひと通りの事情の説明を聞いていたノイはヤラカシを自認した。
もちろんその様な事を気にされる方がカディスは嫌である。
「お前達!
この場はこちらの歌姫が現場のプロとして指揮をとってくれる。
全員、親方の指示に従って速やかに原状回復!
働いて帰ってくる冒険者さん達の為に快適な場を!」
作業中の兵達はその言葉に賛同し、
手の空く者はノイに群がる。
(『照れ隠し』と『人心掌握』と
『責任なすり付け』と『作戦立案』を同時に擦り付けたっすか⁉︎)
ノイはカディスに文句を言いたかったが…
当の本人も皆と平等に後尾に並んで指示を待っていた。
「なに並んじゃってるんすか?
アンタもこっちで一緒に指揮を取るんっすよ!」
竜人の皇族にも臆さない、
彼女の種族名は『ナイトソード』。
遥か昔に招かれた『客人』の末裔である。
いわゆるバンパイヤに近い特性だが、
個々が持つ特性には偏りが有り何でも出来る訳ではない。
ノイは平均。
弟の様に力や能力も無かった。
全てが平均。
それ故に日に弱い訳でもなく、
ほぼ普通の人間と変わらないが…
若い彼女はそれ以上を求める。
ただ、
魅了の能力も無い…
だがそれは彼女にとって誇りであった。
(能力なんてなくたって…
お姉ちゃんは頑張ってるっすよ、
ルメ。)
ノーイラ=タスツは田舎にいる弟の面影を、
カディスに重ねて何だか嬉しくなっていた。




