そして、本当に雷鳴は轟く。その4
ティルスガルのギルドへの報告の為の道中、
ピーニゲレ=ピイラギィネは頭を抱えていた。
(…まったく、
人助けが勇者の本懐とはいえ…
捕らえた罪人を引っ張り回した挙句に『気がついたら居ませんでした!』とは。)
『禁呪使用の罪人』、
その村長をギルドに売り飛ばせば今後の旅も多少は楽にもなっただろう。
クエストとして受けていた案件であれば損失だがそれは無い。
それでも正義感の強い彼は…
あれ程の魔術を発動してしまう程の男を逃してしまったという、
冒険者としての罪悪感で溜息しか出ないでいる。
「ははは!
そう気を落とすなよピッピ!
手綱を引くのを忘れて魔物に突進してしまったのはオレが悪い!
謝ろう!このとおりだ!
『人を憎んで罪を憎まず』だったかな?
何かで読んだ!
誰でも罪は犯すものだ。
それを成した者はやがて世界に憎まれて身を滅ぼすだろう!
手は縛ったままだし、
その内に地に帰るさ!はははは!」
高笑いする自称勇者…
一応ギルドから『勇者見習い』としてに認証は受けているこの男。
リリリー=コンキリシャを見上げてピッピは思う。
『これくらい頭がイカれてないと世界など救えないよな…?』と。
言っても無駄なのだろうとは分かってはいるが、
ピッピは最後の抵抗を試みる。
「ピッピと呼ぶな!
そう呼んで良いのはギリア団長だけだ!」
「ははは!
ならばオレもそれくらいになって見せよう!
前借りとして許したまえ。
言いやすいしな、ははは!
戦闘時の連携も手短になるだろう?
…それにオレ達も、
そろそろ心の距離も縮めて良い頃合いでは無いかな?」
(…勇者と呼ばれる資格のある者。
面倒臭い奴だが、
こういう男だから自分は今ここに居るのだったな。)
そう改めてピッピはリリを支えて行かなくてはと溜息をついて立ち上がる。
その流れを遠目に眺めて周囲の警戒をしていたササ=ギュルコーナは、
街道の外れを力強くもヨタヨタと進む馬を見つける。
「ねえねえ!
あの子…こんな所に馬だけが居るなんておかしいわよ、
何か身に付けてるし…」
それを確認したリリは『助けなくては!』とその馬に突進した。
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轟く雷鳴と無邪気な暴力の快進撃は続いていた。
ノリに乗ってきた二人の後について行くアサヒに出来ることは、
拾ったアイテムを地上へ転送する事とピー子のお世話だけ。
今もたどり着いたボス部屋の片隅に座り込んで、
これから登場して瞬殺されるであろう哀れな敵の登場演出を眺めている。
これまでに無いやたらと高い天井と多くの柱。
大袈裟にゆっくりと灯りが灯り始める。
何度か経験したが今回は時間がかかりそうなパターンであった。
(暇だな~…最初は感動したけど。
手伝うにも流石に雑魚ですら俺の手には負えない強さだし…
二人は『俺を守りながらどこまで行けるか』に夢中みたいだし…。)
「なんかお腹も減ったよな~、
ピー子~。」
腕の中のピー子の頭を撫でてやると、
大きさを変えられるらしい背中の翼で包み込んでくれる。
この子なりの抱擁の様なものなのか、
とても懐いてくれているのが分かって嬉しい。
「ぴぃぃ♪」
指を出すと必死に甘噛みしてくる。
「お前は何が食べられるんだ~?
流石に外に連れてって飼ったりは出来んだろうけど…
親もどこかに居るのかな?
置き去りにして帰るのは嫌だなぁ…
ん~…
可愛いでしゅね~!」
情を移してはいけないとわかりながらも、
ここまで懐かれては何とか折り合いのつけられる別れにしたいと思ってしまう。
(…また出てきてくれたら精霊人形さんにでも相談してみるか…?
時間切れで転送されても付いてきてくれたなら…
ギルドの人にでも相談すれば良いかな?)
そんな無責任なことを考えていると、
座り込んでいた床に嫌な感触が走る。
「……さひ~!
アサヒ~!」
安全面は他人任せにし、
ピー子に夢中で自分の世界に入り込んでいたアサヒの耳にようやく二人の叫び声が届いた。
「アサヒさん!
早く近場の高い所に上がって!」
知らぬ間に流れ込んできた水は勢いを増し、
あっという間に立ち上がったアサヒの膝下まで飲み込む。
「お姉さん、お願い!
行くよ?」
「はぁい~♪」
『ふっ!』っと息を吐き出したエイナは拳に魔力を込めて撃ち込む。
アサヒの足元に放たれた衝撃波は、
一瞬だが水を弾き飛ばして足場を作った。
そこに飛び降りたユリィは水と共に弾き飛ばされたアサヒを受け止めて、
目のついた足場に飛び乗った。
「んもぉ~…
多分ここは『前人未踏の階層』なんですから~、
気を抜いちゃダメですよう…。」
突然の衝撃に驚いたピー子と、
それに加えてその驚愕の情報を知ったアサヒは抱き合って身震いする。
「アーサーヒー!
大丈夫~?
お姉さんありがと~♪」
大部屋の対角の足場で手をふるエイナ。
一応戦場として設定されているのであろう足場は動き回れる程度の広さはある。
あっという間に水で満たされた部屋に聳え立っていた柱は、
浮島の様な足場として存在していたと気付かされた。
天井からの一筋のスポットライトが水底を照らし、
おそらく今生えてきているのであろうボスが部屋全体を揺らす。
「これは多分…竜かイカですね~。
ワタシ…やっちゃいましょうか?
一瞬ですよ?」
水属性に雷、
必勝の相性である。
「イカって何~?」
森の奥の国で育ったエイナは海の生物を知らなかった。
「知りませんか~?
なんかニチャニチャしてて美味しいですよ~?」
(この世界でもイカの刺身が食えるのか⁉︎
…リスクは大きそうだが…。)
「見てみた~い♪
出てくるまで待と~?」
この強者の余裕。
それは自然界ならば通用したであろう。
しかしここは作られた迷宮。
管理者が存在して見ているのだ。
…この挑戦者達の弱点も考慮しながら。
いつもの様にこれ以上邪魔にならないように、
助けられた足場でガタガタ震えるアサヒとピー子。
静かに忍び寄り、
その足を捕らえた触手は…
『お前ら良い加減にしろよ!』
と、言わんばかりに彼らを水中に引き摺り込んだ。




