そして、本当に雷鳴は轟く。その3
「では、この階は私の力をお見せしておきますね~♪」
スイスイと前に出たユリィは、
腰の道具袋の隣にぶら下げていた剣の柄だけのような物を手にとり前に立つ。
「我は『雷帝』ユリーネル=ソーシャイハ!
精霊さ~ん!お願いします~♪」
そう言いながら柄をかざすと、
その先から雷の鞭が伸びて踊り狂う。
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数刻前にお互いの非を認めて和解し、
ユリィの目的も果たされてそのまま帰還しても問題は無かったのだが…
エイナはそれでは物足りなかった。
「ね~、
何処まで行けるか行って見ない?
どうせ帰りはお姉さんもアイテムでしょ?」
そもそもエイナの目的は遊ぶ事。
ユリィの目的など関係は無い。
しかし上手く話を混同して帰還しようと目論んだアサヒの計画は頓挫した。
「楽しそうですね~、
いっちょやっちゃいましょうか~?」
(乗りやがった!
この…この、
魅力的な肉体のお姉さんめっ!!)
とはいえこの階層まで単独で来ているという事は強い事には違いない。
…ただでさえ最強の矛と盾がいるのだし…、
それを踏まえてアサヒはその提案を飲んだ。
「守ってくださいよ、
二人とも…。」
「もちろんです♪」
「いい感じのハンデになってよね♪」
重りで良いなら得意であるので、
この際は強者の戦いというものを間近で見ようとアサヒは覚悟を決めたのだが…
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やがて訪れた階層のボス部屋。
ここではキチンと扉があり、
他の階層とは違う雰囲気が漂う。
『大ボス』
今までのボス的な敵は全て扉で区切る事も無い程度の、
中ボス扱いだったのだと知らしめる演出が始まる。
広い空間の奥からゆっくりと全ての明かりが灯り、
現れたのは大きな狼であったが…。
ユリィさんはその雷の鞭を自在に操り、
少しずつ敵の行動を封じていく…。
周囲でバチバチと炸裂する光に怯えてその狼は伏せて、
目をキョロキョロさせるだけしか出来ない…。
鞭をバチンバチンと地面に叩きつけながらユックリと近づき…
完全に降参している犬の鼻を優しく撫でながら言葉を掛ける。
「あらあら~…そんなに怖かった?
ごめんなさいね~♪」
そう言い終えた後に鞭を一振り…。
恐ろしいほどの雷鳴が轟いて、
敵は真っ二つになって燃え尽きた…。
この人もとんでもないバケモノであった。
「お姉さんすご~い!
カッコいいねそれ~!」
興奮してクルクルぴょんぴょんするエイナに対して、
ユリィは恥ずかしそうに答える。
「派手なのは良いんですけど…
あの恥ずかしい名乗りをしないと発動してくれないんですよ~コレ。
この魔道具の開発者がアレでして…
本当は人前では使いたく無いんですけど、
特別です♪
『モニター』?ってヤツのギャラも増えますし♪」
この時点で既に今まで踏破された、
ティルスガルルートでの階層踏破記録は塗り替えられているのだが…
二人とオマケは暫く余裕で突き進む。
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場所はギルドの上階。
「とうとう子孫までであるか…
とは言ってもかなりの数、
というか血脈ともなれば混じっていない者の方が少なかろう?
我らとてこの世界の純血種なのかも証明の手立ても無い。
貴方の考えでは『天魔会』はどの様な存在と考える?」
目の前に居る存在に畏れを抱きながらだが、
遜ったりはせずにカディスは凛と構えて問う。
「…そうですね、
余りにも瑣末と気にも留めていませんでしたが…。
少し厄介にはなってきましたね。
そもそもは熱心過ぎる天使教徒を誑かした魔王側が作った組織。
その元の魔王もはるか昔に討伐されて…
彼ら自身何を成し遂げたいのかもわからない状況。
…なのでしょうね?」
よくある宗教の対立。
単純に考えれば今生きている自分達の為に曲解してしまえば良いのに、
無駄に根付いてしまっているから抗えない。
「両極に極端な英雄でも立てましょうか?」
悪戯に笑みを浮かべるその存在はカディスの膝に脚を乗せて煽る。
「…やめてくれ。
あの雷の悪魔のお陰で我が国は疲弊している。
帝位したばかりの兄者が可哀想だ。
それより先ほども聞いたが、
奴らのいう客人の子孫とは何だと思うのだ?
それが分からんとコチラも協力するにも手が遅れるぞ?」
当然理解しているその存在…受肉した精霊なのであるが、
彼女も悩んでいる。
「…名前じゃないでしょうか?
血は混ざって薄まりますけど…
英雄や客人の名は家名として商売にも使えますし、
そんな膨大な記録なんて彼らが接触出来るような所には有りません。
彼らが知り得るような有名な客人由来の家名を探せば!」
二人は『それだ!』と、
意気投合する。
…その直後に頭を抱えるのだが。
『それがどれだけあって、
それをどうやって探すのか?』と。
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その答えを運ぶギルは後方の主人の安否に気を取られて…
進むべき方角を見失っていた。
主人の事は好きだった。
その主人が慕っている男の記憶もある。
その男の元に行かなくては!
追ってくる者は諦めたのか、
気配はない。
人種の言葉はわからないが、
気持ちは少しだけ理解できる。
今自分は大切な事の為に目的の場所へ辿り着きたい。
ただ…その後ろ左脚には限界が訪れようとしていた。
大好きな主人が命を賭して防いでくれた矢が自らに刺さっているなどと…
彼は決して認めたくは無かった。
「おい!
お前ケガしてるじゃないか⁈」
その声の主は見知らぬ者だったが…
ギルにはもはや警戒する程の余力も無かった。




