そして、本当に雷鳴は轟く。その2
ティルスガルより遥か東方のゲート近くの名も知らぬ集落の酒場で、
一仕事終えたヒュウミナロゥは今後の予定を考えながら迷っていた。
(ギリアさん…強くて凄かったなぁ!
デカい魔物も瞬殺で…憧れるなぁ…。
でもカディス様も十分に強いし…。
やっぱり付いて行きたいのはこっちかなぁ…?)
彼は無事にギリアをゲートまで送り届けて見送り、
カディスから許可も得てるのもあり…
与えられた権限を満喫すべく高額も気にせずに、
限りなく安全な旅行者ルートのプランをウキウキしながら立てる筈だった。
張り出されている地図を頼りに安全なルートの先のゲートからのリゾート地。
それらの情報をメモしながら別のメモも悟られない様に残していた。
そもそも店なども少ないので仕方なく入ったのだがハズレを引いた様だった。
自らが竜人であり、
軍人である事は誇りに思っているが…この場にはふさわしくない模様。
幸い兵装などしていないので…ただただ目立たぬ様に道化を演じ、
害のないただの逸れ竜人であると周囲に示してこの場を立ち去ろうとする。
何故なら、
周囲から聞こえるのは意味の無い差別意識から来る汚い言葉であり、
『客人』と『竜人』に対する敵意の言葉であったのだから。
そこは先の掃討作戦から落ち延びた『天魔会』の溜まり場となっていた。
(…今狙われているのはアサヒ様では無いのか。
まぁそれは幸いだ。
でもアサヒ様は嫌だろうな…。)
『ギリア様は誓いを守り旅立ちました。
天魔会の標的は
客人の子孫
ナイトソードの”ノーイラ=タスツ”
気をつけてください。
ヒュウミナロゥは戦線離脱の後、
許可頂いたバカンスを満喫してから帰還いたします。
よしなに。』
(これくらいふざけておけば、
彼の方にも伝わるだろうな…。
我主君カディス様。
勇者ギリア様。
ついでに…アサヒ様御一行も…
どうぞご無事で。)
さっとメモに書き殴って袋にしまい、
さりげなく外に出たヒュウミナロゥは…
今まで旅を共にして来た愛馬にその袋を託して馬車から解放する。
「お前一人なら駆け抜けられる。
頼んだぞ…今まで名前もつけてやらずにすまなかった。
ありがとうな。
そうだ…最後にお供させて頂いたギリア様の名を頂こう!
お前の名は『ギル』だ!
この世界最強の勇者の名を冠する名馬『ギル』だ!
行け!走れ!
いつかカディス様を乗せて…天を…翔け…」
馬の尻を叩いて走らせた所でヒュウミナロゥは絶命していた。
竜人に気づいた敵の矢を背に受けながら、
戦闘力に負い目が有った彼の唯一の自慢の大きな翼を広げて…
全ての魔力を解放してギルが見えなくなるまで立ち続けて。
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「何するのさぁ!
ピー子かわいそうじゃん!」
「ピィぃぃ…」
ユリィからピー子を奪い取ったエイナはしゃがみ込んで抗議する。
「あらあら~…
つい、ゴメンなさい~、
ワタシのクエストだったのよ~… 急にしたのは謝るわぁ~!
痛かったわよね~?」
改めて手を伸ばすユリィにピー子は敵意を剥き出しにしている。
「そんなあなたに泉の水をソレっ♪」
パシャんとピー子に手元の泉から水を掛けるユリィ。
意外と気持ちよかったらしく、
警戒しながらも…もっとと求めるピー子。
からのからのからの…で、
気がつけばむしられた羽根は元通り…
とまでは行かないが、
回復していた。
「そんな感じでもうひとむしり~!」
抱きついて羽根をむしろうとするワガママボディをエイナは拒否する。
「ダメだよ!
すぐに治ったって、
痛いのは痛いんだから!」
「ん~、
まあそうよねぇ…
ここはゴメンなさい…よね。
どちらかというとアナタの反応が可愛くてふざけちゃっただけよ~。
ゴメンなさいね、
でも…これは貰っていって良いわよねぇ~?」
本人の前で悪気も無くむしり取った羽根を、
パタパタと振りながら謝罪するユリィに呆れ果てたピー子は抗議を諦め…
プイッとエイナの首元に抱きついて彼女への拒絶の意を示す。
「あら~…
嫌われちゃったかしら~?」
「当たり前だよー!
急に酷い事をするなんて!
ピー子が何したっていうの⁉︎」
少し冗談まじりに話していたユリィネル=ソーシャイハは…
少し声のトーンを下げて語り出す。
「…じゃあ聞くわね、
お坊ちゃん。
急に酷い事って何かしら~?
急に羽根をむしられる事?
それは謝ったし何度でも謝るわ~♪
でもね…
急に淑女のおしりにズドンは無いと思うのよ~…。
どうかしら~?
ワタシが間違ってるかしら~?
アナタはどの口で言ってるのかしら~?」
(全てバレておりました!)
それにしても子供相手には酷い言い方である。
「いや、こちらも悪かったのは認めますけど…」
言いかけたアサヒに目配せした後にユリィはエイナの目を見続ける。
「…ダメよ。
アナタは強いわ。
だから寂しかったんでしょう?
心でも知識でも…出来ない事を探すの。
許せない事にも違う意味があるの。
…だから…、
今回は許して欲しいの~。」
割と良い話の方向では有ったが結局は台無しのオチ。
それでも憎めないとエイナは感じたらしい。
「…おしり…壊れてない?」
無駄に爽やかな空気の中、
歯に噛みながらお姉さんは答える。
「ちょっと昔に訓練されたから壊れてないわ…。
急だったから驚いただけ。」
子供と淑女が酷い話を繰り広げる中、
何だかんだで無害だと感じたピー子はアサヒの元に擦り寄る。
「抱っこしても良いかい?」
そっと手を差し伸べるアサヒにピー子は喜んで身を預けた。




