そして、雷鳴は轟く。その3
「なぁなぁシュミカ、
この子の事…覚えてないかい?」
再会の宴は食堂の隅の比較的落ち着いたテーブルで再開されている。
リアとシュミカ、
対処役としてクーロウア=バエレ。
向かいに座るのはルキリ=スターニーとノーイラ=タスツである。
ルキリに密着してベタベタしたいリアとシュミカを離したのはクーロ。
改変した記憶の定着は問題ない筈だが、
ルキリの中に在る過去の本当の記憶とを擦り合わせて…
万が一に記憶が戻ったとしても『生』への執着を少しでも多く持たせる。
長く生き残らされ続ける賢者にできることは、
可能な限り多く…
目の前の子等の短く幸せな時間をより濃密なモノにする事。
余命がどれ程長いのかは知り得ないが、
賢者はそれに全てを捧げる事を生き甲斐として師の元から巣立った。
(にしても…
精霊達も丸くなったもんじゃな。
この子らに集まって来て楽しそうじゃ…。)
「ん~?
アナタ…僕の事はわかるの?」
ノイはシュミカをジッと見るが…
「いやぁ…
キャラバンの方々は大勢居たっすけど、
子供なんて居たかなぁ?
自分も小さかった筈っすけど…
一緒に遊んだ記憶はないっすねぇ…。
自分は大人達の前で歌ってばかりいたっすから、
直接はあってないんかもっすね…。」
長年ぶりの再会を演出したかったルキリは溜息をつく。
「ハァ~…
まぁそうか~…
二人ともちっちゃかったし…、
シュミカはイタズラばかりしてて、
大概バツで吊るされてたしね~。」
『ハッ!?』と二人は思い出す。
「あぁ!
いつも宿の軒下に吊るされてた変な子⁉︎」
「ん~!
みんなにチヤホヤされてたのはアナタ⁉︎」
直接の面識はなかった様だが、
お互いに記憶の片隅にはあったらしい。
「えぇ~?
なによう~…
ちっちゃい頃のシュミカの話なんて知らないわよぉ~!
姉さん、もっとぉ~!
あとお酒ももっとぉ~!」
「そうか、
あの頃はリアは居なかったからなぁ!
今思えば…
持ってかれた皆んなの視線を取り戻したくて、
必至にイタズラしてのかぁ…シュミカ~…かわいい奴め!
あとルキリにも同じ物を~!」
恥ずかしがるシュミカは、
テーブルを挟んで乗り出して自分の頭をくしゃくしゃに掻き乱して笑う…
そんなルキリ=スターニーの顔を絶対に忘れない。
永遠に。
そんなキャッキャウフフな宴の足下では…
『ギャアああ!イヤあああ!』という阿鼻叫喚の叫びが響いていた。
「無理だよエイナ!
蜘蛛はダメ!蜘蛛はダメなんだよー!」
『このエリアのボスは俺に任せてみてくれないか?』
などと少しだけ漢気を見せてみたアサヒ=ハザマは…
大小多くの蜘蛛に囲われて、
泣きながら幼女にしか見えない王子に縋り付く。
「もぉ~だらしないなぁ…
でもボクも脚がワシャワシャしてるのは嫌いなんだよね…
ん?」
エイナは何かに気付いた様に耳を傾ける。
「…あぁ!
お願いするよ♪
アサヒ~
前の人から逸れた『雷の精霊』さんが助けてくれるって!」
そう言って雲を振り払う様に手を振ると、
それに沿って雷撃が蜘蛛達を焼き尽くす。
「すっご~い!
おこぼれでこの威力⁈
前の人…かっこい~!」
楽しそうにクルクル回るエイナは、
雷の雨を降らせてその部屋の敵を殲滅した。
「へぶしゅっ!!」
つい変なクシャミが出てしまったユリィネル=ソーシャイハは、
加減を忘れてその階層のボスを瞬殺してしまった。
「あらあら~…
同じ階層でもシーティスカヤ側からしたら敵はあっけないのね~。
簡単に倒しちゃダメな謎解きもあるみたいだし…
『知略ダンジョン』…苦手だわぁ…何をすれば良いのかしら?」
燃え崩れるボスモンスターを尻目に次階層への扉を開きかけたその時、
ユリィの視界の片隅をかすめた美しい琥珀色の羽根を靡かせる小鳥の様な生き物。
それは僅かに開いた扉の隙間に吸い込まれていった。
「…居たぁ~~!
待って、待ってくださぁ~い!」
そばかすメガネの魔道士は、
そのわがままボディで遮られた視界に苦戦しながら階段を駆け降りる。
『待機していて下さい。』と言われたままのコロノラ=バージレモは退屈していた。
「最初は珍しくて楽しかったですけど…
見慣れてしまえばなんて事のないただの風景。
どんなに大きなゴーレムも…
動かせなければタダのガラクタですわね。
男って…本当につまらない物を作ってばかり。」
地下の広大な空間で組み上げられているその巨体は、
まさに男の子が喜びそうな造形のゴーレム。
「…浪漫、というヤツですよ。
貴女がユリィネル=ソーシャイハに憧れるのと同じ様な物です。」
軽々と曲線を描いて煌めいた大鎌は、
黙々と作業を続けるテッド=ケヴィンスの首に皮一枚程の切り筋をひく。
「…違約金は誰に払っておけば良いのかしら?」
自分の命の危機にも動じないままテッドは答える。
「それに関しては我が王に。
…ただ、
軽口を叩いた事は陳謝する…。
これが立ち上がる日が来たなら…
こんな首は褒章として差し出しても構わんよ。」
薄暗い印象を具現化した様な男は、
瞳の奥深くにのみ灯した強い光を…
頭上高くに在るそのゴーレムの顔に向けてニヤリと笑う。
「男って…本当につまらない大きくてカッコいいものが大好きなんだよ。」
その男の独特の雰囲気が嫌いなコロノラは、
呆れた溜息を吐いてその場を後にした。
「本っ当にくだらないですわ!
お姉様が喜んでくださるお茶の配合の方が…
あんな物より余程突き詰める価値があると言うもの。
…ほんと、
二人分の違約金払ってでも辞めてやろうかしら…?
貧しい中でもお姉様と二人手を取り合って生きて行く…
それも有りですわねぇ…ぃひひひ…♪」
それぞれがそれぞれに時間を紡いで行く。
だが…この時に彼女が数多とある運命の扉の一つを無造作に開いた事実、
それは後戻りの出来ない些細な…本当に些細な気まぐれに過ぎなかった。




