そして、エイナは潜りたい!その5
エイナが持って来た依頼書。
もちろんアサヒは読めないのだが…
禍々しい何かを感じずにはいられなかった。
「さっき新しい依頼を見つけたんだけどさぁ、
受付のお姉さんは子供は『魔王』はダメって言うんだよ~。
オトナなアサヒが受けてよ~。」
長くはないがアサヒが並んでいた列に入り込んで来る形になるので、
後列の方に目配せすると…
もちろんこんなに可愛らしい小動物に目鯨を立てる者はいない。
残り数人の待ちの間に散々愛でられて更にエイナは輝いた。
(…ちんちん姫じゃなかったらなぁ…。)
待つ間に可愛がられたエイナの付き人であるアサヒに順番が来ると、
アサヒの注文は普通に。
エイナには皆んなが色々と買い与えた。
申し訳なさそうに笑顔を取り繕いながらアサヒは思う。
(…可愛らしい子供は節約にもなるなぁ…
今後も最大限に利用しよう。)
両手いっぱいの貢物を手に、
リアが他を巻き込んで盛り上がっているテーブルにつく。
「ほらリア、
献上品だぞ。」
気持ちよく騒いでるリアの膝の上では、
いつの間にか見当たらないと思っていたシュミカが髪をムシャムシャされていた。
「あらぁ~、
お姫ちゃんも来たのねぇ?
いらっしゃい、一緒にムシャムシャしてあげるわぁ~♪」
死んだ目のシュミカを抱きしめながらリアは手を伸ばす。
「え~…生臭いから嫌だよ~!」
エイナはズバッと切り捨てた。
それすらも愉快な様で、
リアは他の冒険者達と盛り上がる。
「アンタも飲むんでしょぉ?
来なさいなぁ!
…道が閉ざされてるなら…
開いた時にまで沈んでちゃ、
先に進めなくなっちゃうでしょぉ?」
リアはリアなりに現状を鑑み、
更に身に合った方法で先への進み方を思案している…のか?
「立派な言い分だが…
昼間の公共機関での嗜みの席の範疇を超えてるぞ…。
まぁ、
とりあえず乾杯。」
アサヒはこの乾杯をする時のリアの笑顔が大好きだった。
何故なら、
この竜人といるだけでこの世界からの恐怖が薄れるから…。
「あ、そうそう。
エイナが持って来たコレ…
受付で断られたって言うんだけど、
どんなのだ?」
受け取ったリアはサッと読んで吹き出す。
「ぷふ!
あ~はは…
まぁ…地竜一撃のお姫ちゃんならまぁ…
どぉかしらねぇ…?
とりあえず読んであげるわぁ、
いいかしらぁ?」
何かがツボに入ったのか…
時々笑いを堪えながらリアはその依頼書というか、
宣戦布告を読み上げた。
「『ハウルレリル城に新規魔王就任!
君に討伐できるかな?!
先日、当城の前任魔王が討伐されましたので、
新たに配属されました
”フォルナーイ”と申します。
属性等は今後皆様から暴いていただくとして、
主に呪いをバラ撒く活動をしております。
前任地での蓄えもありますので
周囲の街から金品等の強奪などは行いませんが、
ハウルレリル周辺を実験場とさせていただきます。
土地を少しずつ腐食させていきますので、
お早めの討伐をお薦めします。
腕に自信の有る勇者共!かかって来ると良い!
ははははは!
なお、討伐報酬は城内の金品全てです。
小さな島程度なら買えると思いますので、
奮ってご来城くださいませ。
お待ちしております。
”魔王フォルナーイ” 』
…だってぇ。
完全に高位勇者パーティ宛ての罠だけどぉ…
面白そうじゃないぃ?」
「面白そうじゃねぇよ!
完全にさっき見た依頼書と対じゃねぇか!」
物静かに頭をムシャムシャされているシュミカが、
一瞬チラッとアサヒに目を向けてすぐに目を伏せる。
何かを言いたそうなのは明らかだが…
アサヒは気づかないフリをして背を伸ばす。
「はあぁ~…どうしてようか…。
こんなに近くにいるのになぁ…。」
騒ぎながらシュミカの頭をツマミに酒を煽るリアは、
ふと聞こえたほろ酔いのアサヒの呟きを飲み込んで思う。
(はあぁ~…憐れよねえぇ~…。
ちょっと可哀想だけど、
笑えるわぁ~♪)
そう、恋愛感情とまでではないが、
アサヒはルキリ=スターニーに憧れの感情を抱いていた。
昨夜のゴムールでの出来事でリアはそれを改めて確信し、
どう揶揄ってやろうかと思案していた。
「このジュース美味しい~♪
シュミカお姉ちゃんもいる?」
「ん、
感謝する…。」
エイナはリアに囚われたままのシュミカの手に、
テーブルに並べられた飲み物の一つを渡す。
「でもぉ…
遊びに行きたいよ~…。
外のサンドワームでも狩って来ようかな~?」
『面白い事を言う子だ』と、
他の冒険者達は笑いながらエイナをもてはやす。
それが容易い事だと知っているシュミカは、
アサヒにはまだ話していない新しい旅の目的を考えると…
このままでは良くないと思う。
こんな居心地の良い街で簡単に大金を手に出来るとリアが気付けば…
リアはここに根を張るだろう。
シュミカはアサヒを捨てる事はできてもリアを捨てる事はできない。
「ん…エイナ、
そんな暇なら『エレダン』でも潜ってみたら…?
こんな大きな街のギルドなら入り口はあるでしょ?」
『ああ…』と、
どちらが面白いかとエイナは考え始める。
「『エレダン』?
なんだよそれ。」
この世界の生まれでは無いアサヒはその存在を知らない。
「ん…『エレメンタルダンジョン』、
精霊の遊び場…ね。
入り口だけはギルドが完全管理してるけど、
中身は大地の精霊の総決算。
最上層は教育された魔物が冒険のレクチャーをしてくれる優しい世界。
少し下は命の保障はある訓練階層。
それから下は…
命の保障のない地獄への入り口…
世界中に張り巡らされていて、
素人から廃人まで虜にしている…。
全部繋がってはいるみたいだけど…」
傍の酔っ払い達はその話題に入りたいようで口を挟んでくる。
「そうそう!
オレは暫く迷って上階に上がったら全然違う地方のギルドに出た事があったよ。
各地方で系統や手に入る素材も偏ってるからさ、
情報を買ってから入り口を選んだ方が良い。」
「オレ達は…」
などと何処そこから入って何処まで到達したかとか、
何処そこの何階層辺りで何を手に入れた…等のローカルな話題で盛り上がる。
「ん…そこのロクデナシを鍛えるには丁度いい…。
任せた、エイナ。」
『任せた』という言葉に舞い上がるエイナ。
どうせ行く羽目になるんだろうと諦めているアサヒは、
確かにエイナが居れば安心だとも納得する。
しかし…一つ納得出来ないことが合った。
「そんな便利な施設があるなら、
ギリアさんはなんであんな危険な野生のダンジョンに連れてったんだよ⁉︎」
それを聞いてキョトンとしたリアは言う。
「そりゃあ…
まさかそんな常識も知らないとは思わなかったんでしょぉ?
アタシの国じゃ幼年組の遠足で上層ボス討伐が必須って位に当たり前だしぃ…。
もちろん大勢で…だけどぉ。」
流石にそれを聞いた他の方々は引き気味であったが…。
「行ってみようよアサヒ~?
クルセイトにも入り口はあったけど…
すごく潜らないと弱っちいのばかりだったからさぁ、
ここはきっと違うよね?」
安全な上層階の話だと思って微笑ましく聞いている冒険者達。
「お嬢ちゃんはどれくらい降りたんだい?」
その質問に指折りながらエイナは答える。
「ん~…と、
へへ…数えてないからわかんない!」
そして、愛らしい笑顔に彼らは癒されて勘違いをしている事に気づかない。
その指折り数える数字の桁が違うという事に。




