そして、エイナは潜りたい!その3
ギリアに言われていたギルドでのパーティ登録。
まだ字の読み書きに慣れていないアサヒは、
思っていたよりも遅れて来たリアとシュミカに提出書類への記載を任せる。
決まっていればパーティ名の登録も可能との事だが、
必須では無いと言うので…シュミカとエイナは言い合っていたが保留とした。
時間は朝と昼の間。
これからクエストに出かける冒険者達を送り出し、
落ち着きを取り戻しているであろう時間…
それでも賑わっている街だけあって、
そこそこの人数が集まっている。
張り出されているクエストの張り紙の量も他の街で見て来た中でも多い方だ。
シュミカとエイナはおやつを買いに、
リアは暇つぶしに小遣い稼ぎのクエストでも無いかと貼り紙を見ている。
そんな中、そのアナウンスは聞こえて来た。
「パーティ名『ちんちん団』様~!
どうぞ~!」
少しキレ気味なテンションで呼んでいる。
(…とんだバカな連中も居たもんだ。
セクハラという概念が無い世界…愚の骨頂も甚だしい!
今後自分達が名乗る時の事は考えなかったのか…?)
アサヒが拳を握り締めてその不愉快な時間をやり過ごそうと震えていると、
さらに怒鳴り声に近いヒステリックな声が響く。
(…関係ない!
俺には決して関係ない!
早く名乗り出るよ、愚か者の『ちんちん団』とやら!)
「『ちんちん団』の『アサヒ=ハザマ』様ーーー!!
ぶっ飛ばしますのでコチラの窓口までいらしゃいませや!
ゴラァ!!」
…正直、『団』と聞こえた時点で嫌な予感はしていた。
ふと見ると先程まで居たリアの姿も無い。
隠れて見ているか…三人で落ち合ってお茶でもしに行ったか…。
(本当に『ちんちん団』で登録してやろうか⁉︎
アイツらも『団』の一員にしてやろうか⁉︎)
仕方なく立ち上がり、
声のした受付窓口の方を見ると、
恐ろしい顔で受付のお姉さんが犯人を探している。
「うわ…嫌だなぁ…。」
と、アサヒが目を伏せた瞬間…
周囲の音が消え去り、
白い空間の中に居た。
「みぃ~つけたぁ~…。」
アサヒが目線を上げると…
いつの間にか、
小さなテーブルを挟んで座らされていた。
その対面には…
それはそれは恐ろしい目をしながら、
美しい深緑の長髪を逆立てた女性が前のめりに肘をついて笑っている。
「貴方がアサヒ=ハザマ…記載通りだと『客人』との事ですが…?」
恐ろしくて目を見ることもできず…
冷や汗をかきながら震える握り拳を膝に置いてアサヒは答える。
「は…はい、
恥ずかしながら…そう呼ばれております…。」
値踏みをする様に受付嬢は上から下から目を合わせようとして来るが、
アサヒは必死にその目を逸らし続けた。
「『天魔会』というのはご存知で?」
ため息が聞こえ、話題が変わった!と思ったアサヒが視線を正面に向けると…
息の掛かる程の近距離で目が合い…全身の血の気が引いた。
「只今…あのチンピラどものせいで、
『客人』保護のキャンペーンを行なっておりますぅ~。
他の冒険者に情報が漏れないように結界を貼らせていただきましたぁ~。
さて、
これで悲鳴も外に聴こえません…
あんなのを何度も叫ばせていただきまして…
どうしてくれようか?」
「いや!
身内の悪戯なんです!知らなかったんです!
ほら!俺はまだ文字の読み書きもできないんですよ!
しらばっくれようとしたのは御免なさい!」
恐怖の余りその小さなテーブルに両手をついて額も押し付ける。
「…自分で言ってて情けなくなりませんかぁ…?」
(情けなくて悲しいです!)
その姿を見て溜飲が下がったのか、
受付嬢はハッと鼻を鳴らして席に着く。
「まぁ…良いでしょう。
でも、相談窓口では無く申請窓口に提出されたので、
パーティ名は仮登録されてます。
抹消してからの再登録よりも…
改名の方がワタクシの手間が省けて良いと思うのですが?」
「…御意!」
そんなこんなでアサヒは提出された書類についての記載内容の確認、
パーティ名は短絡的だがそれぞれの名前から取って『アリシエファミリー』とした。
「『団』は?」
「とりあえずはいりません!」
付ければ面白いのに…
とでも言いたげな受付嬢が出来上がった書類を魔法陣に乗せると、
一瞬で燃え尽きて灰は魔法陣の中へと消えた。
「はい、登録完了です。
結界も解きますが、
貴方は『客人』で精霊にとっては特別な存在ですが…
普通の人々にとっては『異物』です。
自重して謙虚に振るわれるのが最善と思いますよ、
強さよりも平穏を求めるのであれば。
…それでは良い旅を。」
一瞬眩暈がして我に帰ると、
アサヒはまた騒めくギルドのロビーにいた。
先程の受付嬢に一言礼を言いたかったが、
突然結界に隔離された為に何処の窓口だったのか思い出せない。
昼が近くなって人も増えて来た為、
またの機会にすると決めた。
「アッサヒ~!
どーこ行ってたのさぁ~?」
クルクル回りながら駆け寄って来るエイナは楽しかったのだろう、
自分がしでかした事を忘れている様だ。
ニヤニヤしながら同行するリアとシュミカは事の結果を楽しみにしている。
(…いや本当に俺が『ちんちん団』を受け入れていたらどうするつもりだよ…。)
アサヒは腹立たしく感じながらも、
決してそうはならないと確信していたであろう二人に問いただす。
「…パーティ名は『アリシエファミリー』にしておきました。
で?
どっちが勝った?」
ムフフ!っと口元で拳を握り締めたのはシュミカである。
「んんん~…!
なんて短絡的…
単純すぎるアナタはすぐに世間の海の藻屑になるだろう…♪」
(必ず道連れにしてやる!)
ガクッと肩を落としたリアは、
すぐに気分を取り戻してシュミカを称えて両手で持ち上げる。
「で?
お前はなんて名前を推したんだ?」
リアはバンザイするシュミカを浮かせたまま手を離し、
人差し指を口元に当てながら不思議そうにアサヒに問いかける。
「…アナタ下品なのはあまり好まないわよねぇ…?
絶対に『おちんちん団』なら行けると思ったのに…
惜しかったわぁ~。」
その『お』に、
どれだけの高貴さを期待していたのか…?
「お前の中でどんな接戦が繰り広げられたかは知らんが、
圧倒的大差だよ!」
傍で聞いていたエイナはアサヒに縋り付く。
「えぇぇ~~!
『団』は?
『団』はぁ~~⁉︎」
精霊を駆使して戦場では最強なはずだが…
普段のエイナは可愛らしい子供…
「…あ、
あぁ…忘れてたぁ~!
今は忙しそうだから…今度付けよう、『団』!」
「本当?
やったぁ♪」
微笑ましくその笑顔を愛でるアサヒの心に、
王子でも姫様でも無い…
ただ一人の天真爛漫な子供としてのエイナへの保護欲が沸く。




