1.2 こんにちは
妙実山ダンジョンの入り口は、地元の見慣れたハイキングコースの脇にある。
そのすぐ手前には、プレハブ小屋の『妙見山ダンジョン管理案内所』が建っている。
ダンジョンに入るには、まずここで手続きをしなければならない。
自動ドアをくぐると、パイプ椅子に座って退屈そうにスマホを眺めていた、作業着姿のベテラン職員のおじさんと目が合った。
「はい、いらっしゃい。……ん? 坊主、見ない顔だな。ダンジョンは初めてか?」
「あ、はい。この春から高校生になるんですけど、卒業式にスキルが発現したので、登録と、お試しでちょっと入ってみたくて……」
「お、スキル持ちか! それは将来有望だねぇ」
おじさんはスマホを置くと、嬉しそうに引き出しから一枚の綺麗なプラスチック製のカードと、タブレット端末を取り出した。
「中学生以下は原則立ち入り禁止だけど、15歳以上の高校生なら『アマチュア探索者』として登録すれば、第1階層の浅いところだけは立ち入りが許可されるんだ。じゃあ、まずはこの水晶(魔力スキャナー)に手をかざして、登録手続きをしちゃおうか」
言われるがまま、カウンターに置かれた手のひらサイズの透明な球体に手を載せる。
ほんのりと温かい光が走り、おじさんの手元のタブレットに僕の情報が転送された。
「ええと、名前は……うん、確認できた。じゃあ次に、カードに記載する『スキルの系統』を選んでね。基本的には『戦闘系』『補助系』『生産系』『その他』の4つだけど、自分の自認でいいよ。あとで変更もできるしね」
「系統、ですか……」
おじさんに促され、タブレットの画面を見る。
僕の視界の端には、相変わらず【倫理マスター:数多の知恵を用い、真の敵を殲滅せよ】という物騒な文字が浮かんでいる。
(「殲滅せよ」って書いてあるんだから、間違いなく戦闘系……だよな?)
「えっと……『戦闘系』でお願いします」
「お、戦闘系か! 頼もしいね。ちなみにどんなスキルなんだい? 『剣技』とか『火魔法』とか?」
おじさんが興味津々といった様子で身を乗り出してくる。
自分の希少な手の内をバカ正直に明かす必要はない、とネットの掲示板で読んだことがあったので、僕は少し言葉を濁すことにした。
「あ、いや……なんか、ちょっと特殊な、精神攻撃系(?)っぽくて。名前もよく分からないんです」
「あはは、なるほどね。発現したてのアマチュアにはよくあることだ。自分の意思で名前を隠せるのはユニークスキルの証拠だから、それはそれでいいことだよ。じゃあ、系統は『戦闘系』、詳細欄は『未開花・その他』にしておくね」
カタカタと小気味よいキーボードの音が響き、すぐに顔写真(その場でスキャンされたやつだ)入りのカードがラミネートされて手渡された。
【アマチュア探索者証】
プラスチックの冷たい感触が、自分が本当に探索者の端くれになったのだと実感させてくれる。
「はい、お疲れ様。これが探索者証ね。妙見山の1階層はゴブリンとスケルトンくらいしか出ないし、入り口付近ならめったに襲われないけど、絶対に無理はしないこと。危なくなったらすぐこのカードの裏にある『帰還ボタン』を押しなさい。魔力が感知されて、こっちのアラートが鳴るからね」
「分かりました。ありがとうございます!」
「おう、気をつけてな。バラ色の高校生活、楽しめよ!」
おじさんに笑顔で見送られ、僕は案内所を後にした。
手に入れたばかりの探索者証をポケットに押し込み、いよいよダンジョンの入り口へと向かう。
ひんやりとした薄暗い洞窟を進むと、すぐに最初の獲物が現れた――。




