1.新たな始まり
初投稿です。
お手柔らかにお願いしますm(_ _"m)
「――以上をもちまして、〇年度、卒業生退場」
体育館に響き渡る厳かな拍手。
義務教育の終わり、ちょっと窮屈だった詰め襟の制服、退屈だった校長先生の長い話、それらすべてから解放される歓喜の瞬間。……のはずだった。
なのに、僕の頭はそれどころじゃなかった。
校門をくぐり、クラスメイトたちが「これからカラオケ行こーぜ!」「高校離れても絶対遊ぼうな!」と盛り上がっている声をBGMに、僕はスマホの画面ではなく、自分の視界の端に浮かぶ「それ」を凝視していた。
【おめでとうございます。条件が達成されました】
【ユニークスキル『倫理マスター』を取得しました】
(……りんり、マスター?)
一瞬、耳を疑った。いや、目を疑った。
世界にダンジョンが出現してから数十年。人間が特定の節目に「スキル」を発現させることは、今や珍しいことじゃない。去年の統計では世界総人口の約15%が何らかのスキルを持っていて、その中でもおよそ8%しか戦闘系のスキルを持っていないらしい。わお。
選ばれた一握りだけがなれる、高収入でヒーローのような存在――探索者。
まさか15歳の自分がその仲間入りを果たすなんて、夢にも思わなかった。思わなかった、のだけど……。
「なんだよ、この説明文……」
期待に胸を膨ませてスキルの詳細を開いた僕の前に、不親切極まりない文字列が表示される。
【スキル:倫理マスター(Lv.1)】
概要:数多の知恵を用い、真の敵を殲滅せよ。
「真の敵ってなんだ……?」
ダンジョンにいるゴブリンやスケルトンやサラマンダーとかじゃないのか?
普通の戦闘系スキルなら『攻撃力上昇』とか『火炎魔法』とか、もっと分かりやすいことが書いてあるはずだ。数多の知恵? まず、倫理とはなんというものなんだ? 殲滅?
意味が分からなすぎて、僕の頭は完全にこんがらがってしまった。
結局、クラスの打ち上げには顔を出さず、そのまま家に直行した。
それからというもの、中学校を卒業してからのあり余る春休みの時間を、僕はただただ「ぼけーっ」と部屋で過ごした。ネットで『スキル 倫理』『探索者 哲学』とかで検索しても、それらしい情報は1ミリも出てこない。
そうこうしているうちに、桜の季節はあっという間に過ぎ去り、高校の入学式というイベントがもうすぐそこにやってきた。
新しい制服、新しい人間関係、新しい生活。
普通ならこれからの高校生活に意識が向くはずなのに、僕の視界端には、相変わらずあの不穏なシステムメッセージが居座り続けている。
「……はぁ。一回くらい、行ってみるか」
ベッドに寝転んだまま、僕は天井を見上げて呟いた。
せっかく授かったスキルを、一度も試さずに腐らせるのはあまりにももったいない。みんながみんな得られるものじゃあないのだ。
「僕のスキルは説明文的に戦闘系だし、世界的にもかなりレアなんじゃないのかなあ」
なんて軽く思いながら、自分の家の近くにある妙見山ダンジョンに行ってみることにした。
新しく通う高校にはスキル持ちが8人くらいはいたはず、でもみんな補助系(『バフ付与』とか『荷物持ち適性』とか)だって噂で聞いたくらいだ……。もし本当にこれが戦闘系なら、僕の高校生活はバラ色の無双ライフになるかもしれない。
「よし、ちょっと試してみるか」
妙実山ダンジョンの入り口は、地元の見慣れたハイキングコースの脇にぽっかりと口を開けていた――。




