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彼女の想いが重すぎる……  作者:


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第59話

夏休みが明けて、受験勉強に追われてるうちに、あっという間に秋は過ぎ去り、冷たい冬が訪れた。


俺は受験勉強の息抜きと、鈍った体を動かすために、秀樹と室内練習場で筋トレに励んでいた。


秀樹のアシストを受けながら、俺は120kgのバーベルベンチプレスを黙々と上げ下げする。


「次でラストだ」


「よいしょっ……うっ……了解……!」


限界ギリギリ、ミシミシと悲鳴を上げる筋肉に最後の力を振り絞り、俺はどうにかバーベルラックに戻した。


「おし、オッケー。休憩しようぜ」


「ふぅ……死ぬかと思った」


窓から冷たい風が吹き込む室内練習場。


パイプ椅子に腰掛けた俺たちは、荒い息を整えていた。


「なあ、壮真。お前、何でプロ志望届、出さなかったんだ?」


タオルで汗を拭きながら、秀樹がふと聞いてきた。


「単純に、まだプロでは通用しないと思ったんだよ」


「ふーん、俺は今でも十分通用すると思うけどな」


「プロに行くのは、大学できっちり体と技術を作ってからにしようと思ってさ」


「でも、大学からは推薦の話あっただろ?何でわざわざ一般入試なんだ?」


「……姉ちゃんに『大学に行くなら、一般入試で合格しろ』って言われたんだ」


「聖さんか。そういうところ、本当に厳しいよな」


俺は秀樹の言葉に苦笑いを浮かべながら、キリキリと冷えてきた空気の中、次のメニューに向けて筋肉をほぐした。


全てのメニューを終えた頃には外はすっかり暗くなっていて、俺は白い息を吐きながら帰路へとついた。


◇◇◇


家に帰ると、恋歌が毎日のルーティンである、出迎えのハグと軽い口づけを交してくれた。


そして、彼女が俺の学生服をハンガーラックに掛けると、いつものように手を繋ぎながら一緒に風呂へと向かう。


湯気が立ち込める風呂場で、俺は恋歌の髪を慣れた手付きで丁寧に洗い始めた。


髪を洗い終えると、今度は彼女の体を優しく洗っていく。


恋歌の手術の痕は赤みが引き、大分目立たなくなっている。


体を洗い終えると、今度は恋歌がここぞとばかりに、俺の髪と体をはりきって洗い始めてくれた。


彼女がシャワーで俺の体のボディーソープの泡をしっかり洗い流し、俺たちは抱き合うように湯船に浸かった。


「受験勉強の方は捗ってますか?壮真さん」


恋歌は俺の首に手を回しながら、豊かなふくらみを押し付けるように密着してくる。


俺も彼女のか細い腰に手を回し、ぎゅっと抱き寄せた。


「うーん、ぼちぼちかな」


「志望の大学に受かるといいですね」


「うん、でも、大学も別々になるね。俺はどんなに勉強を頑張っても恋歌の大学には入れないからな」


「女子大ですからね。うふふ」


「明日、推薦入試の合格発表だね。恋歌なら合格してるだろうけど」


「合格していると嬉しいのですが」


「絶対に大丈夫だよ」


「壮真さんにそう言われると、気が楽になります。えへへ」


恋歌は小首を傾げると、天使のような笑顔で微笑んだ。


「明日は合格のお祝いしようね」


「もう、気が早いですよ。うふふ」


「恋歌の誕生日ももうすぐだし、お祝いが続きそうだね」


「私たちの結婚記念日にもなりますしね」


恋歌は俺の目を、絶対に逃がさないわよと言わんばかりに見つめてくる。


──あ、これ、地雷を踏みかねない流れだ。


俺は慎重に言葉を選んだ。


「俺たち、結婚はまだ早いと思うんだ。今年じゃなくてもいいんじゃないか?」


「壮真さん……私と結婚するのが嫌なのですか……まさか大学で他の女に現を抜かすつもりでは……もしそうならいっそ今ここで殺すしか……ブツプツ」


恋歌の瞳から一瞬で光が消え失せ、いつものように呪文めいた独り言を呟き始める。


「け、結婚したくないわけじゃないよ。ただまだ俺たち高校生だし、早いんじゃないかと」


「壮真さん!法律上仕方なくここまで待ちましたが、むしろ遅いくらいですよ!」


憤怒する恋歌の目の奥に広がる漆黒の闇に、吸い込まれそうになる。


「そ、そうなの」


「ええ、出会った瞬間に籍を入れたかったくらいです」


(……それはさすがに早すぎだろ)


「なら、せめて二人とも大学生になってからとかはどうだ?」


「それでは遅すぎます!今度の私の誕生日に絶対に入籍しますから!」


鬼気迫る表情で、彼女は絶対に今度の誕生日じゃないとダメと俺を睨み付けてきた。


湯船に浸かっているのに、なぜか悪寒が走った。


「……わかったよ」


俺が降伏の意を示すと、恋歌の顔がぱあっと明るくなり、天使の笑顔が復活した。


「壮真さん。一生、愛してますよ。うふふ」


俺の首に回した手に再びぎゅっと力が入ると、恋歌の柔らかい感触が胸に広がる。


「……ありがとう」


(……もう俺に逃げ道はないのか)


◇◇◇


風呂から出た俺は恋歌が作ってくれた美味しい晩御飯を済ませると、受験勉強を始めた。


勉強に没頭していると、気づかないうちに時計の針は午前一時を指していた。


「壮真さん。そろそろおやすみになりませんか?」


心配そうな顔をして、恋歌が部屋に入ってきた。


「そうだね。今日はここまでにして寝ようか」


「なら、行きましょう」


ピンクのパジャマ姿の彼女は、俺の腕にえいっと抱きついてきた。


俺たちは寝室へ向かうと、ベッドの中に滑り込んだ。


恋歌は俺の胸を枕にして、可愛らしく抱きついている。


冬の寒さには、彼女の温もりが湯たんぽのように心地良かった。


「恋歌は温かくていいな」


「壮真さんの方が温かいですよ。うふふ」


恋歌はおでこをぐりぐりと、俺の胸元に押し付けてくる。


「くすぐったいよ。恋歌」


「私の匂いを付けているんです。えへへ」


俺はお返しとばかりに、彼女の頬に軽くキスをした。


「壮真さんだけズルいですよ」


恋歌は俺に腹の上に跨ると、軽くキスをおとした。


たまらなく愛おしくなった俺は、彼女を強く抱きしめた。


「……恋歌」


「……少し苦しいです。壮真さん」


俺は我に返って、腕の力を緩めた。


「あ、ごめん。大丈夫?」


「平気です。力が強かったので、少しびっくりしましたが」


俺は再び彼女を優しく抱きしめた。


「恋歌が愛おしくて、ちょっと力が入っちゃった」


「何ですかそれは?嬉しいですけど。うふふ」


俺たちはそのまま抱き合いながら、いつの間にか眠りについていた。


◇◇◇


朝、目が覚めると、胸の上で天使の寝顔をした恋歌がすうすうと小さな可愛い寝息を立てていた。


彼女の寝顔を見つめていると、やがてそっと瞼が開き、とろんとしたまだ寝ぼけ眼で俺を見つめてくる。


「……ん……ん……壮真さん……」


「おはよう。恋歌」


「おはようございます。ずっと寝顔を見てたのですか?」


「うん、めっちゃ可愛かったよ」


「うっ、恥ずかしいです」


恋歌は恥ずかしそうに、俺の胸に顔を埋めた。


「恋歌は寝顔も可愛いよ」


俺は彼女の頭を優しくそっと撫でた。


「うふふ。ありがとうございます」


恋歌は上目遣いで、天使のように微笑んでいる。


「でも、寝顔はあまりじろじろ見ないでくださいね。恥ずかしいです」


恋歌はぷくぅっと、フグみたいに頬を膨らました。


「俺は恋歌の寝顔を見ていると、落ち着くんだけどな」


「あまり長い時間見るのは禁止ですから。えへへ」


恋歌は上半身を起こすと、寝転んでいる俺の唇に、チュッと自分の唇を重ねた。


朝の二人の空間を少し楽しんだ後、恋歌は朝食の支度をしにリビングへと向かった。


──そして、運命の時間が訪れる。


朝食を終え、リビングでまったりと寛いでいた俺たちは、並んでノートパソコンの画面を見つめていた。


スクロールされるマウスを持つ俺の手が、少し小刻み震えている。


恋歌の受験番号に近づいてきたその瞬間。


「……あった」


光る画面には、彼女の受験番号がしっかりと刻まれていた。


俺の隣に座る恋歌の瞳から、うっすら光るものが浮かんでいた。


俺たちは抱き合いながら、喜びを分かち合うと最後に深い口づけを交わす。


もう一度、彼女を抱きしめると、次は俺が一般入試を頑張ろうと胸に誓った。


(まあ、それよりも、誕生日という名の『強制入籍日』のタイムリミットが秒読み段階で、近づいてきてるんだけど……)

読んでくださりありがとうございました

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