第60話
いよいよやってきた恋歌の誕生日という名の強制入籍日の朝。
俺と恋歌はデートへ向かうため、支度を終えてリビングに集まった。
「壮真さん。支度できました」
恋歌は地雷系メイクをバッチリ決めて、うさみみが付いたもこもこのファーコートを着ている。
左手の薬指には、以前の誕生日にプレゼントした指輪が、今も大切に光っている。
うさみみが付いたリュックを背にし、天使の頬笑みを浮かべている彼女を見て、俺は息を吐いた。
(今日も目立ちそうだな。ピンクのうさぎだらけだし……)
「じゃあ、行こうか」
俺たちは玄関に向かい、いつものルーティンである軽いキスを交わす。
それから玄関の引き戸をガラリ、と開けて家を出た。
嬉しそうに俺の腕にぎゅっと抱きついてくる恋歌を連れて、駅へと向かう。
電車に揺られること一時間。俺たちは目的地の最寄りの駅で下車し、数分ほど歩いた先に懐かしい正門が見えてくる。
──俺と恋歌が、初めてデートした思い出の遊園地だ。
クリスマスでごった返す園内、カップルが多いので紛れ込めるかと思ったが、相変わらず恋歌の存在感は際立っている。
『あの女の子めっちゃ可愛くない』という周囲からの囁きが波紋のように広がっていた。
「壮真さん。何から乗りましょうか?」
(とりあえず、コーヒーカップにだけは乗りたくないな)
「メリーゴーラウンドにしようか」
「前のデートでも最初に乗りましたね。うふふ」
俺たちは二人で並んで乗れるゴンドラを選び、優雅なメリーゴーラウンドを楽しんだ。
それからくるくる回転する絶叫系ジェットコースターで俺が悲鳴を上げ、続いて冬でも楽しめるお化け屋敷に行こうとしたのだが……。
「……やっぱり、やめませんか。壮真さん」
「行こうよ。一回、入ってみたかったんだよね」
「わ、私、怖いです……」
「俺がいるから大丈夫だよ」
(相変わらず恋歌は怖いものが苦手だ。自身が歩くホラー映画みたいなものなのに)
薄暗い廃病院内を歩く間、終始、俺の腕に抱きついて、恋歌は小鹿のように体を震わせていた。
その後、いくつかのアトラクションを巡っているうちにお昼時になった。
芝生が広がるピクニックエリアにブルーシートを敷き、恋歌が作ってくれたお弁当を広げることにした。
日当たりの良い場所を選んだおかげで、冬の寒さも少し和らいでいる。
「美味しそうだね」
俺は恋歌が作ってくれた玉子のサンドイッチを一つ手に取ると、口に運んだ。
「壮真さんが好きなハムチーズサンドもありますよ」
恋歌は、そう言って一切れのサンドイッチを俺の口に運んできた。
「壮真さん。あーん」
俺は目の前のサンドイッチを頬張った。
「恋歌の作ったサンドイッチが一番美味しいな」
「嬉しいです」
恋歌は嬉しそうに目を細めた。
美味しい弁当で腹も心も満たされ、楽しく昼食を終えた俺たちは、次なるアトラクションへと足を運んだ。
「壮真さん。コーヒーカップに乗りましょう!」
「今日はコーヒーの気分ではないんだ。やめておこう……」
「何言ってるんですか?乗りましょうよ。うふふ」
俺の抵抗も虚しく、ずるずるとコーヒーカップに向かった。
コーヒーカップに乗り込んだ途端、恋歌のテンションはMAXになり、中央のハンドルをおもいっきり回し始める。
(や、やめろ!トラウマが──ッ)
猛烈な勢いで回転する視界の中で、俺はただ己の三半規管を守るために必死に耐えるしかなかった。
その後も色々なアトラクションを巡っているうちに、辺りはすっかり日が暮れて暗くなっていた。
「最後に観覧車に乗ろうか」
「懐かしいですね。うふふ」
俺たちはカップルで溢れる、観覧車に乗り込んだ。
ベンチに腰掛けると、恋歌が俺の膝にちょこんと座ってくる。
彼女を後ろから包み込むように抱きしめると、ゴンドラは上昇していった。
観覧車の窓から見る風景は、聖なる夜のイルミネーションが輝いていた。
「わあ、綺麗ですね。壮真さん」
恋歌は窓の景色を見て、目をキラキラと輝かせている。
「恋歌の方が綺麗だよ」
「もう、またそういうことをさらっと言うんですから」
「まあ、恋歌は可愛い系だけどね」
「むう、どちらかと言えば綺麗って言われた方が嬉しいです」
「俺は可愛い恋歌が大好きだから」
「それならいいですが。うふふ」
恋歌はとても嬉しそうに微笑んでいた。
観覧車が、ゆっくりと一番高い場所へ到達する。
それを合図にするように、俺たちは深い口づけを交わした。
そして、俺は用意していたピンクの箱を手渡した。
「誕生日おめでとう。恋歌」
「ありがとうございます。開けていいですか?」
「いいよ。気に入ってくれるといいんだけど」
恋歌が箱を開けると、ピンクのハートがあしらわれているスワロフスキーのネックレスを手に取った。
「わあ……凄く……綺麗。ありがとうございます」
恋歌は、本当に嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。
「付けてあげるよ」
俺は恋歌が付けていた手錠のネックレスを外すと、スワロフスキーのネックレスを彼女の首に着けてあげた。
「似合いますか?」
恋歌は振り向き、天使の頬笑みを浮かべて俺の膝へと跨がった。
「凄く似合ってるよ」
今回は頑張った。
義兄ちゃんに頼み込んで、建設現場で一週間バイトしてお金を貯めた。
バイト代は全部プレゼント代に消えてしまった。
もちろん恋歌には内緒で。
「バイト頑張ってましたもんね。壮真さん」
「えっ、知ってたの?」
「はい、位置情報で調べたら学校に行ってらっしゃらないので、心配になって学校を早退して見に行ったんです」
「そ、そうなんだ」
(全然気づかなかった……学校を早退してまで俺を追跡してたのか……)
「私のためにありがとうございます。えへへ」
「まあ、愛する恋歌のためだったら何てことないよ」
「……壮真さん」
俺たちは見つめ合うと、もう一度深いキスを落とした。
観覧車も終わり、遊園地を後にした。
帰る途中、俺たちは駅前のファミレスで少し遅めの晩御飯を食べ、帰路へとついた。
このまま帰りに役所に婚姻届を出しに行かされる覚悟をしてたが、意外にもそのまま家に帰った。
さすがの恋歌も高校生だし、結婚はまだ早いと思ったのだろう。
二人で風呂に入った後、リビングに深く腰掛けると、恋歌が当たり前のように俺の膝に跨がり、俺の首に手を回し抱きついている。
「今日は楽しかったですね。壮真さん」
「うん、凄い楽しかった」
(コーヒーカップ以外は)
「また行きましょうね。うふふ」
「そうだね。誕生日じゃなくても行こうね」
「あっ、そうだ」
恋歌は立ち上がり、リビングを出ていくと、何やら小さな箱を持って戻ってきた。
「壮真さん。これどうぞ」
恋歌が箱を差し出してきたので、俺は受け取った。
「何これ?」
「私たちの結婚指輪です。これからは肌身離さず付けていてくださいね」
「え?結婚指輪?」
箱を開けると、シルバーリングが現れた。
「付けてみてください。うふふ」
付けてみると、サイズがピッタリだった。
「外しちゃダメですよ」
先ほどまでの、天使のような可愛さはどこにいったのかと思うくらいの物凄い圧をかけてくる。
「……うん、わかった」
「今日から私は山口恋歌ですね。えへへ」
「え?どういうこと?俺たちまだ婚姻届出してないよね?」
「婚姻届は母が提出してくれました。無事に受理されたとメッセージもきてますよ」
恋歌はこの世の春が来たように、今までで一番幸せそうな笑みを浮かべて微笑んでいた。
「ど、どういうことかな?」
「今日は大事なデートがあったんで婚姻届は郵送にしようかと思ったのですが、日にちの指定ができないみたいで、母に相談したら『私が代理で提出してきてあげる』と言われまして」
(まさかの、和歌さんとの見事なまでの連携プレー)
「もう、夫婦なの?俺たち?」
「そうですよ。今夜は新婚初夜ですね。えへへ」
恋歌は耳まで真っ赤にして照れている。
(今さら感半端ないが……ってか、結婚した実感が全然湧かないのだが)
「さあ、ベッドに行きましょう。壮真さん」
「……ちょ、ちょっと待って」
俺の言葉など聞き耳持たない恋歌に、手を引っ張られ寝室へと連れていかれた。
(大丈夫……これでいいんだ……俺は幸せなんだ……)
俺は何度も何度も、自分は世界一幸せなんだと言い聞かせた。
今回が最終話になります
最後まで読んでくださりありがとうございました




