第56話
肝試しで気絶してしまった恋歌をベッドに寝かせて、しばらく経った頃。
ようやく上半身を起こした彼女は、まだ虚ろな目で俺をぼーっと見つめていた。
やがて、その顔がみるみる青ざめていき、限界まで目を見開く。
「……壮真さん!幽霊が!幽霊が出たんです!壮真さんも見ましたよね!」
恋歌は半泣きになりながら俺に駆け寄り、ぎゅっと抱きついてきた。
その華奢な肩がカタカタと小刻みに震えている。
「大丈夫だよ。あれは和歌さんのイタズラだったから」
「……お母さんの、イタズラ……?」
俺が事の真相を説明した瞬間、恋歌は顔を一瞬で真っ赤に染め上げ──そのまま和歌さんの部屋へと猛ダッシュで向かっていった。
廊下の奥から『お母さんのバカー!』という恋歌の叫び声が聞こえてきた。
しばらくして部屋に戻ってきた恋歌は、まだ頬を膨らませてぷんぷんと怒っていた。
そんな恋歌を落ち着かせるため、『温泉でも行かない』と誘ってみると、彼女は顔をぱあっと輝かせ微笑むと、俺の腕に抱きついてきた。
「早く行きましょう!壮真さん!」
そのまま二人で別荘の温泉に向かい、扉を開けると前回の別荘にも負けないくらい広々とした大浴場の光景が目に飛び込んできた。
白く立ち込める湯気に包まれる中、俺は恋歌のサラサラとした髪を洗い始めた。
「痒いところはないか?」
「大丈夫です。うふふ」
シャワーでシャンプーを丁寧に洗い流すと、続いてコンディショナーを毛先に染み込ませてから軽く洗い流した。
そして、恋歌の透き通るような白い体を包むため、ボディーソープのきめ細かい泡を彼女の柔らかな肌に優しく滑り込ませる。
「この辺は念入りに洗っとかないとな」
俺は恋歌の豊かな二つのふくらみの下側に手を添え、丁寧に揉むように洗っていく。
「もう、壮真さん。くすぐったいですよ。うふふ」
俺は恋歌の体の隅々まで洗うと、シャワーでボディーソープの泡を洗い流した。
ここからは恋歌が体を洗ってくれる番だ、と思ったその矢先、突然背後から声をかけられた。
「──ここからは私にお任せください」
振り返ると、そこには──湯気の中から現れた、生まれたままの姿の花子さんが、恥じらう様子など微塵もなく、堂々と仁王立ちしていた。
豊かな胸とお尻はそのままに、他の一切の贅肉を削ぎ落とした、鋼の肉体美。
バキバキに割れたシックスパックが、湯気の中で美しく自己主張をしている。
(さすが愛瑠歩烈度の兄貴の娘さん。なんて美しい肉体美なんだ……って、まて!そうじゃなくて!?)
「花子さんっ!?いつからいたのですか!?」
恋歌が驚愕の表情を浮かべている。
「さっきからずっとおりましたが」
「……全然気づきませんでした」
(俺もだ……人の気配なんて微塵も感じなかった……)
「お二人が仲睦まじくされていたので、声をかけるのを憚られて気配を消しておりました」
(忍者かよ……)
「奥様のご命令がありましたので、壮真様のお体は私がお洗いいたします」
あっけにとられている俺と恋歌をよそに、花子さんはボディーソープの泡を俺の体に滑り込ませてきた。
そして、素晴らしい手際のマッサージさながらに、優しく、かつ的確に俺の体を洗っていく。
(……なんか、めちゃくちゃ気持ちいいな)
「花子さん!壮真さんの体は私が洗いますから!」
我に返った恋歌が、ようやく抗議の声を上げた。
「ふっ、恋歌様。奥様のご命令なので、私にお任せください」
「ダメです!壮真さんから離れてください」
恋歌が花子さんの腕を掴んで、引き離そうとするが花子さんはぴくりとも動かない。
「恋歌様……私の仕事をこれ以上邪魔するのではあれば、恋歌様のお恥ずかしい過去をうっかり壮真様にお話してしまうかもしれません」
「私の恥ずかしい話?」
「はい、例えば恋歌様が睡眠中にベッドのシーツを濡らしてしまったお話とか」
「うっ」
恋歌の動きが止まった。
(まさかのおねしょ……!)
「他にもたくさんありますが、どうしますか?恋歌様」
「……は、花子さんに任せます」
恋歌は唇を噛み締め、悔しさで肩を震わせている。
(あの恋歌が言いくるめられるとは……よっぽどの弱みを握られているんだな……)
「ふっ、続けますね。壮真様」
花子さんが洗練された職人のような手付きで、洗体作業を再開した。
そして、その手が、俺の股間に伸びようとしたその時──。
「そこはダメです!花子さん!」
「奥様のご命令なので。特に壮真様の『息子様』を念入りに洗うようにと」
淡々とした口調でそう言うと、再び股間に手を伸ばしてくる。
「花子さん!やめてください!」
「花子さん!ここはダメだから!」
「ふっ、壮真様の『息子様』はしっかり調査済みなので大丈夫ですよ」
(一体、なにが大丈夫なんだ……?)
俺と恋歌の制止の声は花子さんには届かず、俺のアレは彼女の手によって優しく、そして極めて丁寧に洗浄されたのだった。
その後、花子さんは作業をこなすように俺の体の隅々まで洗い、ボディーソープの泡をシャワーで綺麗に洗い流した。
ふうっとひとつ息を吐くと、彼女は満足そうに一礼した。
「どうぞ温泉へとお入りください」
「あ、ありがとうございました」
俺が温泉へと浸かると、すぐに恋歌がやって来て隣にぴたりと座った。
「壮真さん!何で拒まないのですか!花子さんに完全に身を委ねていたではないですか!」
「……なんかマッサージが気持ち良くて」
「浮気ですか!!」
「ち、違うよ」
「恋歌お嬢様、落ち着いてください」
いつの間にか湯船に浸かっていた花子さんが、至極真面目な顔で言った。
「花子さんも酷いです!」
「ふっ、心配なされる必要はありません。壮真様の『息子様』は恋歌様だけのものですから」
(真面目な顔でなに言ってんだこの人は)
◇◇◇
温泉を堪能した俺たちは、アンティークのダブルベッドの上に寝そべり、寛いでいた。
恋歌は俺の胸に覆い被さるようにして、まるで掛け布団のように抱きついている。
恋歌の温もりと、柔らかい感触が俺に安心感を与え、温泉よりも癒される。
「明日からは大浴場ではなく部屋のお風呂にしましょう」
「なんで?せっかく温泉があるのに」
「大浴場だと誰が入ってくるかわかりません。特にあの歩く非常識な母が何するかわかったもんじゃありません」
「えー、俺は温泉がいいなぁ」
「また、花子さんに体を洗ってもらおうと思ってるんですか?」
恋歌の声のトーンがすうっと低くなり、その瞳から綺麗にハイライトが消え去っていく。
「ぜ、絶対に思ってないから!」
「……壮真さんは花子さんみたいな引き締まったお腹とかがお好きなんですか?」
「あれはあれで凄いけど、俺は恋歌のぷにぷにした柔らかいお腹の方が好きだよ」
「私のお腹はそんなにぷにぷにじゃありません!」
「いや、絶対にぷにぷにだと思うけど」
俺は恋歌のお腹を軽くぷにっとひとつまみした。
「くすぐったいです。うふふ」
「こっちもぷにぷにだし」
今度はほっぺをひとつまみする。
「もう、私がぷにぷにの塊みたいじゃないですか」
恋歌は頬をぷくぅっと膨らませて睨んでくる。
「俺はそれが堪らなく可愛いと思うけどな」
「それ……褒められてるんですか?えへへ」
彼女は頬を桜色に染めると、天使のような微笑みを俺に向けてきた。
「世界で一番愛してるよ。恋歌」
「私の方が愛してますから。うふふ」
視線が熱く絡み合った瞬間、どちらからともなく唇が重なった。
最初は優しく、触れるだけのキス。
だが、俺が体勢を変えてのしかかると、恋歌は待ってましたとばかりに俺の首に細い腕を絡めて、さらに長い深いキスをねだってきた。
やがて、お互いに舌を滑り込ませ、まるで生き物のように熱く絡み合う。
数分後、名残惜しそうに舌を離すと、二人の口元の間に切ない銀の糸が細く伸びた。
「……壮真さん」
「……恋歌」
恋歌のパジャマのボタンを外すと、彼女の豊かな双丘が露になった。
愛おしい二つのふくらみを両手で包み込むと、優しく、丁寧に愛撫していく。
やがて、小さな主張を始めた先端を口に含むと、繊細な舌の動きでそっと転がした。
「……あ……うっ……壮真さん……っ」
恋歌の可愛くて、甘い吐息が漏れる。
「……私も負けませんよ。うふふ」
恋歌は俺のパンツの中に手をそっと滑らせ、俺のすっかり熱く膨張してしまっているアレを、小さな柔らかい手で優しく握ってきた。
そして、慣れた手付きで、手をゆっくりと、愛おしそうに上下させ始めた。
その後、俺たちはお互いの愛を確かめるように、何度も体を求め続けた。
──やがて、熱い余韻を宿したシーツの上。
すりガラスのトップライトから、柔らかな月の明かりが差し込んでいた。
俺は胸の中ですやすやと眠る、恋歌の天使のような寝顔をいつまでも優しく見つめていた。
(恋歌の寝顔は本当に可愛いな)
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