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彼女の想いが重すぎる……  作者:


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第47話

朝、いつもと違う小さな重みを胸に感じ目が覚めた。


「そーまおきて」


重い瞼を開けると、聖愛がちょこんと俺の胸の上に座っていた。


「おはようございます。うふふ」


恋歌が、天使の微笑みを浮かべて覗き込んでくる。


「そーまおはよう」


「おはよう。聖愛。それに恋歌も」


恋歌が屈んで顔を近づけてきたかと思うと、俺の唇に軽いキスを落とした。


「目が覚めましたか?ふふ」


「ああ、バッチリ覚めたよ」


すると、聖愛はひまわりの咲いたような元気な微笑みを浮かべて、俺の胸の上ではしゃぎ始める。 


「そーまあそぼ」


俺は聖愛を抱っこして起き上がると、リビングへと連れて行った。


リビングのソファでは、相変わらず我が物顔で姉ちゃんがふんぞり返っていた。


「おはよう。壮真……ふぁあ……」


姉ちゃんはグレーのスウェット姿で、大きなあくびをしている。


(色気のかけらもないな。フッ)


「壮真!今、心の中で姉ちゃんの悪口言ったでしょ!」


(……相変わらずカンがいいな)


「……おはよう。姉ちゃんはいつも綺麗だなって思っただけだよ」


「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。お小遣いあげちゃおうかしら。あはは」


(チョロいな)


恋歌が作ってくれた朝食を食べ終えると、俺は砂場遊びセットを手に持って聖愛を連れて公園へと向かった。


恋歌の方はというとスプーンやバターナイフやハケなど、およそ砂遊びには使わないであろう道具が入ったバケツを手にしている。


公園に着くと、ゆったりとした、ピンクのジャージ姿の恋歌は職人のような目つきで砂場にしゃがみ込み、持参した道具を並べ始めた。


その異様な光景に、周囲の母子連れからは完全に浮いている。


だが、そんな視線を全く気に留めない恋歌は、スコップで土台を作り始めると、そこに砂の入ったバケツをひっくり返す。


それを数回繰り返し、地道に砂を積み重ねていき形を整えていく。


──すると、みるみるうちに精巧な宮殿の形が出来上がっていった。


恋歌は、真剣な表情で黙々と作業をこなしていく。


一通り細かい作業を終えると、仕上げに、シュッ、シュッと砂に霧吹きをかけた。


「できました……ふう」


恋歌は額の汗をタオルで拭うと、満足げに俺に微笑みかけてきた。


目の前には、もはや芸術品と呼ぶべき見事な砂の宮殿が完成していた。


砂の宮殿の前で、聖愛が満面の笑みで大はしゃぎしている。


「れんかちゃんすごい!」


「喜んでもらえて良かったです。えへへ」


あまりにも精巧な宮殿に、公園中の子供たちから恋歌に羨望の眼差しが注がれていた。


(いや、もはや素人のレベル超えてるんだけど……)  


「聖愛ちゃんから褒めてもらいました。うふふ」


「確かに凄いよ。なんでこんなに上手なの?」


「小さい頃、お友達があんまりいなくて……ずっと一人で砂遊びをしていたら、いつの間にか上手になっちゃいました。えへへ」


恋歌は少しだけ寂しそうな、だけど純粋な笑顔を向けてくる。


(……ごめん、聞いた俺が悪かった……許してくれ)


◇◇◇


公園で楽しんだ後、昼食の材料を買うために三人でスーパーへと寄った。


俺は聖愛の小さな手を握りながら、店内を探索している。


「そーまおかし」


聖愛は俺の手を引っ張って、お菓子コーナーへと俺を誘導する。


俺は心を鬼にして拒む……ことなど出来ず、聖愛の赴くまま、菓子コーナーへと足を向ける。


「そーまこれ」


聖愛が持ってきたのは、腹ペコの人に自分の顔を食べさせる優しいヒーローのビスケットだ。


俺はなんのためらいもなくカゴに入れた。


「そーまこれ」


次は、幼児用のやめられないとまらないスナック菓子。


もちろんカゴへ。


「そーま」


聖愛は、高い棚に置いてあるウエハースを指差した。


無論、俺は聖愛の言いなりになり、カゴに入れようとしたのだが。


「お菓子買いすぎですよ。壮真さん!」


聖愛への甘やかしに、見るに見かねた恋歌がお菓子をカゴに入れようとした俺の腕を掴んで止めてきた。


「……そーま」


聖愛が、純粋なうるうるした瞳で俺の目を見つめてくる。


(くっ、この瞳を裏切ることなど俺にはできない)


「もう一個くらいいいんじゃないか。恋歌」


「壮真さん!甘やかしすぎるのは、聖愛ちゃんのためになりませんよ!?」


恋歌の顔が天使の微笑みから、般若に変わった瞬間。


俺は素直に従い、震える手でお菓子を棚に戻した。


(チキンな叔父さんでごめんね……聖愛)


「壮真さん。お昼は何がいいですか?」


天使の微笑みに戻った恋歌が、俺の顔を覗き込んできた。


「うーん、聖愛の好きなカレーでいいんじゃない」


「わかりました。お野菜いっぱい入れましょう」


「うん、聖愛の体に優しいのを頼む」


「本当に叔父バカですね。うふふ」


「恋歌バカでもあるけどな」


「もう、嬉しいですけど。ふふ」


そんな甘いやり取りをしていると、馴染みのありすぎる声が聞こえてきた。


「こんちは。壮真に恋歌ちゃん」


声のした方に振り向くと、相変わらずマヌケ面の秀樹が歩み寄ってきた。


「こんにちは」


恋歌が、秀樹にペコリと丁寧に頭を下げた。


「おう、こんにちは。買い物か?」


「母ちゃんに『醤油買ってこい』って頼まれて。それよりその子は聖愛ちゃん?」


俺の手をしっかりと握っている聖愛に、秀樹は目をやった。


「そうだ。ほら、聖愛、このバカっぽいお兄さんにこんにちはって」


「誰がバカっぽいんだよ!」


「ばかっぽいおにいさんこんにちわ」


聖愛は無邪気な笑顔を浮かべ、秀樹に挨拶をする。


「こんにちは。バカっぽいは余計だよ。ははは」


「おにいさん。だっこ」


「いけません。聖愛!このお兄さんに触ったら悪い病気がうつるから!」


俺は秀樹から聖愛をさっと引き離した。


「悪い病気ってなんだよ!でも、三人でいると親子みたいだな。はは」


「いやだ。親子だなんて。えへへ」


恋歌が嬉しそうな笑みを浮かべて、秀樹の肩をバシバシ叩いている。


「痛いよ……恋歌ちゃん」


その後、秀樹と別れ、昼飯のカレーの材料を買った俺たちは帰路へついた。


◇◇◇


昼飯を食べ終え少しすると、姉ちゃんと聖愛は帰っていった。


賑やかだった二人を見送った後、俺はリビングのソファに腰かける。


(……ダメだ。先ほどまでの膝の上の小さな重みがないだけで、どうしてこんなに寂しいのだろう。)


恋歌が何かを察したのか、俺の膝の上に跨がり、首に手を回してきた。


「さっきまでは聖愛ちゃんにお貸ししてましたが、ここは私の場所なので」


恋歌は天使のような微笑みを浮かべて、首に回してる腕にぎゅっと少し力を入れた。


「そうだったね」


俺は、愛おしくてどうしようもない恋歌を強く抱きしめていた。


恋歌の心地よい柔らかな感触と甘い香りが、俺の寂しさを埋めてくれる。


「聖愛ちゃんには負けませんよ。うふふ」


「ああ、俺の一番は恋歌だからな」


「嬉しいです。うふふ」


恋歌は俺の目をじっと見つめると、顔を近づけてそっと軽いキスをした。


「……壮真さん」


「……恋歌」


今度は、深い口づけを交わすとお互いの舌を絡め合わせた。


数分間、愛の銀糸の交換が続いた。


限界を迎えた俺たちは、どちらともなく互いの体を求め合い、ソファへと押し倒した。


外はまだ明るいというのに、俺たちは何度も激しく愛を確かめ合った。


気づいた時には、とっくに日が暮れていた。


汗と互いの体液が光る体を洗い流すため、俺たちはシャワーを浴びに風呂場へと向かった。


風呂場の湯気の中で、恋歌は俺の背中にぴったりと抱きついてくる。


「これで、身体も心も、全部、私のところへと戻ってきましたね。うふふ」


「初めから俺は恋歌のものだよ」


「はい、絶対にこの手を離しませんから」


恋歌は、さらにぎゅっと力を入れて抱きついてきた。


彼女の底知れない独占欲の強さに怖さを感じながらも、俺は彼女の愛に包み込まれていくのがわかった。


(怖いのに、愛おしくて堪らないのはなぜだろう)

読んでくださりありがとうございました

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