第42話
昼休み、俺は秀樹たちに気づかれないように恋歌の作った弁当を手にさっと教室を出て、昼飯を食べる場所を探して彷徨っていた。
せっかくの秀樹と高畑さんの二人きりの時間を邪魔するわけにはいかない。
この辺りでいいかなっと俺が中庭の木陰にあるベンチに腰掛けると、遠くから元気のいい声が聞こえてきた。
「壮真せんぱーい!」
颯希が手に弁当を持って小走りでやってきた。
「壮真先輩!今からお昼ですか?」
「そうだよ」
「ご一緒していいですか!」
「別にいいよ」
「隣、失礼します」
颯希は俺の隣に腰掛けると、大きな三段重の弁当箱を膝に乗せた。
「それ、全部食べるの?」
「そうですよ。変ですか?」
「いや、ちゃんと食べないと練習で体が持たないからな」
「はい!いっぱい食べて部活頑張ります!」
颯希は得意気に小さな胸を張ると、弁当を美味しそうに頬張る。
元気があってよろしい、と思いつつも俺は苦笑した。
「美味しそうに食べるな」
「にひひ、壮真先輩。頭を撫でてください」
(食べながら喋るのはやめようね。ご飯粒が飛んでくるから)
「すまん、それはできなくなったんだ」
「えっ、なんでですか?」
颯希はあからさまに不満そうな顔を浮かべた。
「……俺の命に関わることなんだ」
「命ですか?」
「……ああ」
俺が弁当箱の蓋を開けると、颯希が目を輝かせて覗き込んできた。
「それが噂の、彼女さんの手作り弁当ですか?すごく美味しそうですね」
「そうだよ。食べてみるか?」
「いいんですか?では、卵焼きください」
「いいよ。ほれ」
俺は弁当箱を颯希の目の前に差し出し、卵焼きを取るように促した。
彼女は箸で卵焼きを摘まむと、小さな口を開け一口で食べた。
「うわぁ……!めちゃくちゃ美味しいです」
「だろ!ふふふ」
「壮真先輩の彼女さんって、すごい可愛いのに、料理もこんなに上手なんて最強ですね!」
「そうなんだよ。ははは」
その時、突然カシャカシャと乾いた音が鳴った。
そちらに振り向くと、木陰の物陰で猪鹿川さんがこちらに向けてスマホ構えていた。
(隠れてるつもりなんだろうけど、丸見えだよ……その写真また恋歌に送信するのか……あ、今絶対送信ボタン押したよね……)
◇◇◇
野球部の練習で疲れた体を引きずりながら家に帰ると、案の定恋歌の機嫌は悪かった。
「壮真さん。おかえりなさい」
恋歌の目が完全に笑っていない。
「……ただいま」
「今日のお弁当はどうでしたか?うふふ」
「……今日も美味しかったよ」
「昼食はあのチビッ子と仲良くお食べになったらしいですね」
(猪鹿川さんか……)
「うん、でも、颯希に卵焼きを一切れ分けたら、めちゃくちゃ美味しいって感動してたよ」
「えっ?そうなんですか?」
「可愛いのに料理も上手いなんて最強だって、恋歌のこと大絶賛してた」
「そ、そうですか……なかなか見所あるチビッ子のようですね。ふふ」
恋歌の目に優しさが戻り、天使のような笑顔を浮かべると、俺に抱きついてきた。
──我ながら、恋歌は褒められると案外チョロい。
俺は愛おしくなって恋歌を抱きしめると、軽い口づけを交わした。
「お風呂にしましょうか。うふふ」
「うん、今日も部活で汗かいたからね」
学生服をハンガーラックに掛けると、俺は恋歌が待つ風呂場に直行した。
恋歌の髪を丁寧に洗い終え、続いて体を洗い始める。
泡立てたボディーソープで、彼女の柔らかい肌を隅々まで優しく撫でるように滑らせ、シャワーで綺麗に流していく。
それから、俺は恋歌を後ろから抱きしめる形で湯船に浸かった。
「少し痩せたんじゃないか」
「そうなんです!体重が1kg減りました!うふふ」
「大丈夫か?無理してるんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。胸の大きさは変わってませんし。うふふ」
「そっちの心配はしてないんだが……疲れてたりしないか?」
「絶好調なので大丈夫ですよ。それよりもっとぎゅってしてください、壮真さん」
俺は腕に力を込めて引き寄せ、恋歌のもちもちした頬っぺに軽くキスをした。
「嬉しいです。えへへ」
「今日の晩御飯は何にしたの?」
「壮真さんの好きな、ふわとろオムライスとハンバーグです!」
「それは楽しみだな」
愛おしさの限界を迎え、俺は恋歌のふわとろの二つのふくらみを手のひらで包み込んだ。
腫れ物を触るように、愛おしそうに、じっくりと揉み解していく。
「柔らかいな……」
「もう、壮真さんはエッチですね……っ」
可愛らしく主張し始めた先端を指先で摘み、丁寧に弄ぶ。
「……ん……あっ……ふあ……っ」
恋歌の甘い吐息が、湯気で煙る風呂場に木霊する。
「……壮真さんだけズルいです……」
恋歌がこちらへ振り返り、俺の首に手を回し、深い口づけをねだってきた。
滑り込んできた彼女の熱い舌が、俺の舌と激しく絡み合う。
熱い口づけの最中、今度は恋歌が俺のソレを手で握り動かし始めた。
完全に理性が崩壊した俺たちは、汗と湯気にまみれながら、何度も何度も愛を確かめ合った。
──結局、お互いの体をもう一度洗い合う羽目になったのは言うまでもない。
◇◇◇
恋歌特製のふわとろオムライスとハンバーグは絶品で、俺はあっという間に平らげてしまった。
晩御飯を終えた後、いつものようにリビングのソファで恋歌を抱きしめている。
恋歌は俺にもたれ掛かりながら、その小さな体温と心地よい重みを伝えてくる。
「恋歌。眠いんじゃないか?」
「……まだ、大丈夫ですぅ……」
とろんとした目はどう見ても限界を迎えている。
毎朝、早く起きて朝飯と弁当を作ってくれている彼女を、これ以上無理させるわけにはいかない。
「毎朝、俺のために早起きしてくれているんだし、無理しないで寝なよ」
「……もう少し、壮真さんとこうしていたいです。ふぁぁ」
小さな欠伸をこぼしながら、恋歌は俺の肩にこつんとおでこを預けた。
俺は恋歌の頭をそっと撫でると、恋歌のぷにぷにした頬っぺに軽くキスをした。
すると、彼女は小さく身を震わせて、上目遣いで俺を見つめてきた。
「……もう一回お願いします」
再び頭を撫で頬っぺにキスをすると、恋歌は満足そうに微笑んだ。
「うーん、風呂場で張り切りすぎて疲れちゃったのかな」
「……もう、そういうことは言わないでください……」
恋歌は頬っぺをぷくぅっと膨らませる。
「冗談だよ。はは」
俺が恋歌の頭を優しく撫でていると、ついに恋歌は小さな寝息を立て始める。
彼女を起こさないように、お姫様抱っこをすると、ゆっくりと寝室へと運ぶ。
恋歌をベッドにそっと降ろし、寝かせると、俺は彼女の寝顔をしばらく見つめていた。
可愛らしい恋歌の寝顔は、まるで天使のよう、これが怒ると、悪魔になるとは思えないほどの愛らしさだ。
俺は恋歌の唇にそっと口づけを落とすと、リビングへと戻った。
リビングで、部活の疲れをほぐすために軽くストレッチを始めた。
体が温まってきた頃に、ピコンッと通知音が鳴った。
スマホの画面を確認すると、颯希からのメッセージ。
『先輩、今暇ですか?』
俺は暇だよっと送信すると、すぐさま颯希から電話がかかってきた。
彼女と野球部や練習の事など他愛もない話をしていると──背筋に冷たいものが走った。
恐る恐る振り返ると、そこには瞳から完全にハイライトが消えた恋歌が立っていた。
恋歌は有無も言わせず俺のスマホを奪うと、そのまま通話に出る。
『もしもし。壮真さんはもう寝ますので。おやすみなさい』
一言だけ伝えて、恋歌は電話を切った。
「まさか、私が寝てる隙に他の女と楽しく電話をしてるとは思いませんでした……ブツブツ」
「ち、違うんだ。恋歌」
「さあ、ベッドに行きましょう。うふふ」
「……き、今日はもう勘弁してくれ」
「ダメですよ、壮真さん」
「や、やめてくれー」
恋歌にしっかりと腕を掴まれ、俺は寝室へと引き摺られていった。
寝室に入るなり、恋歌は俺に抱きついてきた。
そして、そのままベッドに押し倒された。
恋歌がいつまでも終わらないと思えるほどの深い口づけを交わすと、妖艶な笑みを浮かべて俺を見つめる。
「悪い子にはお仕置きしないといけませんね。うふふ」
結局のところ、俺は朝方まで、恋歌にたっぷりと干上がるまでお仕置きをされるハメになった。
(恋歌はタフだな……)
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