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彼女の想いが重すぎる……  作者:


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第4話

恋歌視点


運命の人の名前は、山口壮真。


汚ならしい手から私を救ってくれた、王子様。


あの日、彼が差し出してくれたハンカチの匂いは今も忘れない。


これが私の初恋。


たとえどんな手段を使ってでも、彼を私のものにする。


絶対に彼を逃がさない。


◇◇◇


朝食を終えた私は、お気に入りのぬいぐるみが待っているベッドへと戻った。ポケットのスマホ取り出し、慣れた手つきで画面をタップする。


「……今日は学校がお休みなので、壮真さんは家にいるはず」


スマホの画面で彼の居場所を確認する。壮真さんの居場所を確認した。お守りに仕込んだGPSタグ、これこそが私と彼を繋ぐ赤い糸だ。


(……あっ、やっちゃった)


ほんの少し目を離した隙に、壮真さんのアイコンが動き出していた。


私は死にものぐるいで身だしなみを整え、爆発しそうな鼓動を抑えて家を飛び出した。


GPSが示してる駅前へと向かうと、お友達に囲まれて笑う壮真さんの姿があった。


どうやらお友達と待ち合わせしてたようだ。


お友達の中に女の子がいないことを確認して、私はようやくホッと胸を撫で下ろした。


その後、気付かれないように距離を取り、壮真さんの背中を追う。───行き先はカラオケボックス。


壮真さん達が入っていくのを確認し、ひと呼吸置いてから店の中に踏み入れる。


案内されたのは幸運にも壮真さん達の隣の部屋だった。


運ばれてきたオレンジジュースで喉を潤すと、私はおもむろにコンクリートマイクを壁に当てた。


防音壁なんて私の愛の前では無力だ。隣から漏れ聞こえる声に、全神経を集中させる。


防音設備はそれなりにしっかりしてるみたいだけど、漏れ聞こえる微かな声までは遮断できないみたい。


(あっ、壮真さんの声だ)


「次、俺の番ね」


壮真さんが有名なバンドのあの有名な曲を歌い始めた。


(壮真さんの歌声を初めて聞いちゃった。私にちゃんと届いてるよ。うふふ)


壮真さんの歌が終わると、会話が聞こえてきた。


「なぁ、壮真、俺達と遊んでいて大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃない理由なんかないだろ」


「例の彼女とデートとかしないでいいの?」


「あー、あの、めっちゃ可愛い女の子だろ」


「彼女じゃないし、デートする予定もない」


──えっ。


心臓がドクン、と凍りつくような感覚。彼女のようなものだと思ってた私は、その言葉に思考を停止させるしかなかった。

(……もっと積極的にならないとダメね)


「でも、壮真も可愛いと思ってるんだろ?」


「……まぁ、普通に可愛いとは思うけど」


(──っ、やっぱり私の事可愛いと思ってるんだ……。嬉しい……。)


カラオケボックスを出た壮真さん達は、散り散りなっていった。


どうやら解散らしい。


私は一人歩きだした壮真さんの背中を追いかけ、その肩に声をかける。


「壮真さん!」


「あれ?恋歌、何でここに?」


「こんなところで偶然ですね。うふふ」


(今日も壮真さんに会えた…嬉しい……)


◇◇◇



朝の洗面所、顔を洗っている最中、インターホンが鳴り響いた。


俺は濡れた手を拭いながらガラリと引き戸を開けると、そこには無機質なビニール袋を下げた恋歌が立っていた。


「き、今日は早いね。どうしたの?」


「今日から朝御飯も作ろうかと思いまして、材料は持ってきました。うふふ」


「朝食まで作ってもらうのは流石にちょっと……」


「私と壮真さんの仲じゃないですか、遠慮しないでください」


(だから、どんな仲なの俺達って……)


「とにかくお邪魔しますね」


「いや、朝食は自分で作るからいいよ」


俺は一歩も中へは入れまいと、玄関の壁となって恋歌の前に立ち塞がる。


「せっかく材料持ってきましたし、作らせてください」


「いや、間に合ってるから」


俺が恋歌の肩を掴んで押し返そうとする瞬間、恋歌は大きな胸を押しつけるようにして、俺に抱きついてきた。


「え、ちょっ、ええ………!?」

 

「入れてくれないなら、ずっとこのまま抱きついてますよ」


「えっ、ちょっ…待って……」


俺が怯んだ隙に、恋歌はするりと俺の脇をすり抜けて家の中に入っていった。


「お邪魔します。キッチンはどこですかね?」


「こっちだけど……」


俺は仕方なく、恋歌をキッチンまで連れていく。


『ふふん』と鼻歌を歌いながら、恋歌は軽快な手つきで料理を仕上げていく、ダイニングテーブルに次々と並べられていく美味しそうな料理たち。


白米、鮭の塩焼き、卵焼き、味噌汁、漬物、味海苔と朝食の定番みたいな料理だ。


(こういうの好き……)


「どうぞ、召し上がれ。お口に合うといいのですが」


恋歌は慈しむような、まるで母親のような優しい微笑みを浮かべている。


「いただきます」


俺は一口、味噌汁を啜る。


「……美味しい」


「ふふっ、お口に合ったみたいで良かったです。うふふ」


ほっと安堵した恋歌の表情に不覚にも少し胸が高鳴ってしまう。誤魔化すように、俺は次に卵焼きを口に運んだ。


「なにこれ?凄い美味しい」


「そんなに、ですか?」


「うん、この卵焼き、絶品だよ」


「なら、私の分もあげますよ。はい、あーん」


恋歌は自分の取り皿から卵焼きを箸で摘まむと、迷いのない動作で俺の口元へ運んできた。


「い、いや、自分で食べれるから」


「あーん」


「いや、いいって」


「……私が口着けた箸では食べたくないですか。汚いってことですか。どうせ私なんて汚染物質と同じですもんね……ブツブツ」


(いかん、恋歌が秒速で闇落ちルートに突入しかけている……!)


俺は目の前に差し出された卵焼きを、逃げ場のない視線に促されて頬張る。


「お、美味しいよ」


「良かったです。うふふ」


一瞬でぱあっと、恋歌にひだまりのような笑顔が戻った。


「たくさん食べてくださいね」


「……うん」


(どんどん、餌付けされてる気がする……)


賑やかで甘い朝食を終えた俺たちは、学校へ向かうべく駅へと足を向けた。


(……なんか今日も心臓が休まらない気がする)


◇◇◇


放課後、俺は高畑麗華さんと帰るタイミングがまた合ったので、一緒に駅の階段を上っている。


「山口くんって、この前校門に立っていたあの可愛い人と付き合ってるの?」


「えっ、付き合ってないよ」


「でも、毎日、別の学校なのに一緒に登下校してるんでしょ?」


「ま、そうなんだけどね……」


「彼女は絶対山口くんの事が好きでしょ」


「そ、そうかなぁ……」


(まぁ、手紙で告白はされてるんだけどね…)


「あっ、私はこっちだから、また明日ね」


「うん、また明日」


高畑さんと別れて駅のホームへと向かおうとすると、背筋を凍らせるような禍々しい気配に気付き俺は恐る恐る振り返った……。


瞳の光が完全に消えている恋歌が、そこに立っていた……。


「またあの人と……仲良くお話してましたね……」


「い、いや、たまたま一緒になっただけだから……」


「他の女の子と話すのは、もう止めてくれませんか……」


「く、クラスメイトを無視することはできないよ」


「壮真さんが私以外の女の子と話しているのを見るのは、辛いです……」


「た、ただのクラスメイトだから」


「私だけではダメですか…?私は壮真さんさえいてくれたらそれでいいです……壮真さん以外の人には興味ないです……ブツブツ」


恋歌がの闇が加速していく……。背筋が凍るような気配に、俺は言葉に詰まる。


「な、なるべく話さないようにはします……」


「約束ですよ……?」


「善処します……」


「……少し抱きつかせてください」


「えっ、ここで……?」


「ダメですか……?やはり私ではダメなのですね……ブツブツ」


恋歌の瞳から最後の光が消えかかる。


「い、いいよ。少しだけなら……」


「私、凄く幸せです……」


周囲の好奇な視線など気にもせず、彼女の視界には1ミリも入っていない。


恋歌は世界に二人きりと言わんばかりの力で、俺にぎゅっと抱きついてきた。


(正直、死ぬほど恥ずかしいんですけど……っ)


──帰宅した後。

筋トレをしながら、そろそろ部活に入ろうと考えていた。


(……よし、近いうちに野球部に見学に行こう)

読んでくださりありがとうございました

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