第32話
カーテンの隙間から、冬の朝の柔らかな光が差し込むなか、小さな重みとともに聞き慣れた恋歌の甘い声が聞こえてくる。
「壮真さん、起きてください。初詣ですよ」
「……後、五分だけ寝かせてくれ……」
「おきてー」
小さな物体が俺の胸に乗っている。
「壮真。初詣行くわよ。早く起きなさい」
布団を乱暴に剥がされると、俺の腹を懐かしいボディーブローが襲う。
「ぐえっ」
「ほら、起きたわよ。壮真を起こすにはこれが一番ね。明けましておめでとう」
「痛いわっ!」
腹をさする俺を見下ろし、姉ちゃんがけらけらと笑い、俺の胸の上では聖愛がきゃははとはしゃいでいた。
(やっぱり似た者親子だな……ってか、起こすのにボディーブローは止めてほしい……)
「壮真さん。明けましておめでとうございます」
悪魔の顔した姉ちゃんの隣で、恋歌が天使のような笑みを浮かべている。
そして、俺に柔らかな唇を近づけてそっと口づけを落とした。
「新年初キッスですね。今年もよろしくお願いしますうふふ」
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「あらあら、朝からラブラブね。あはは」
姉ちゃんが、微笑ましそうに俺たちを見ていた。
三人が部屋を出ていった後。俺は出かける支度をしてリビングへと向かった。
「あれ?義兄ちゃんは?」
「あいつなら昨夜飲み過ぎて、完全にダウンしてるわよ」
と、姉ちゃんが呆れたように笑う。
まだ早朝の弱い光が差す中、四人で近くの神社へと初詣に向かって歩いている。
「そーま。だっこぉ」
姉ちゃんの手を握って歩いていた聖愛が俺に向けて手を広げてきた。
「はいはい、お姫様」
俺は聖愛を抱き抱えると、そのまま歩き出した。
「聖愛は壮真にすっかり懐いたわね」
姉ちゃんは嬉しそうにニコニコして笑っている。
「懐かれてるのかな?舐められてる気もするけど」
「そーま。すき」
聖愛の無邪気な一言に恋歌が反応した。
「聖愛ちゃん。壮真さんは私のものですからダメですよ」
恋歌は笑顔だが、完全に目が笑っていない。
(……一歳の子供を威嚇するのは止めてほしい)
「あら、将来、聖愛が恋歌ちゃんのライバルになるかしら」
(叔父と姪でそれはないだろ)
「聖愛ちゃんは、お義姉様に似て美人さんになりそうですからね」
「やだ、恋歌ちゃん。お世辞が上手いわね」
「私は本当のことを言ってるだけです」
「もう、恋歌ちゃん。相変わらず正直ね。あはは」
(なんだ、この不毛なやり取りは)
神社に着くとまだ朝早いこともあり、そこまで混雑してはいなかった。
俺たちは賽銭を投げてそれぞれ願い事をした。
隣でいつも通りの地雷系メイクに、意外なほどに似合っているピンクの振袖。そのアンバランスさが、今の恋歌にしか出せない独特の可愛さを醸し出している。
「ソウマサンノコドモガライネンサズカリマスヨウニ……ブツブツ」
恋歌は、手を合わせ必死に呪いのような願いごとをしていた。
(心の声が駄々漏れだぞ、恋歌……後、ちょっと怖いから……)
俺も恋歌と姉ちゃんたちの幸せを願うと、四人で帰路へとついた。
帰りの道中、恋歌がずっと俺の腕を離さなかったのは聖愛への嫉妬だろうか。
◇◇◇
朝食を食べ終えると、リビングのソファで聖愛を抱っこしながら寛いでいた。
早起きしたせいで眠かったのか、俺の腕の中で聖愛は小さな寝息を立てている。
こうやって静かに寝ている聖愛は、天使のようで本当に可愛い。
その一方で、目の前では完全に二日酔いの義兄ちゃんがソファに座り項垂れていた。
「義兄ちゃん大丈夫?」
「……ちょっと飲み過ぎただけだから」
「どのくらい飲んだの?」
「……ビールの大瓶三本とワインを一本空けた」
(それちょっとじゃないだろ)
「……もう少し寝てるわ」
「お酒弱いのに飲みすぎよ、泰隆は」
義兄ちゃんは姉ちゃんに支えられながら、ふらふらと千鳥足でリビングを出ていった。
(お酒弱い人が飲む量ではないと思うが……)
「聖愛ちゃんはぐっすり寝てますね。うふふ」
隣に座る恋歌が、聖愛を覗き込んで優しい目で見つめている。
「朝、早かったからね」
「……何だか私も少し眠いです」
恋歌が俺の肩に頭を置くと、そのまま体を預けてきた。
シャンプーと恋歌自身の甘い香りが、俺の鼻をくすぐってくる。
「恋歌?」
「このまま少し寝てもいいですか?」
「うん、いいよ」
少しすると恋歌が、すうすうと可愛い寝息を立て始めた。
右肩に恋歌、腕の中には聖愛と二人の可愛い天使が眠りについている。
(身動きがとれない……またこれか……)
◇◇◇
午後になり、昼食を食べ終わると、姉ちゃんたちは帰っていった。
静まり返ったリビング。二人きりになると、恋歌がおもいっきり甘えてくる。
ソファに座る俺の膝に恋歌が跨がると、首に手を回し抱きついてきた。
「聖愛ちゃんに貸してましたけど、今日からここはまた、私の特等席ですね」
(意外と聖愛に気を遣ってたのね)
「聖愛に比べると、やっぱり重いね」
(物理的なことだけじゃなくて、心の方もだけど……)
「そりゃそうですよ、私は子供じゃないですから」
そう言って、恋歌は深い口づけを求めてくる。息もできないくらいに舌が絡み合い、熱を帯びた吐息が漏れる。
唾液が糸を引くほどの深い接吻を数分続けると、恋歌は粘り気がある唇をゆっくりと離し、再び俺に抱きついてきた。
「……はあ……はあ……はあ……」
恋歌の芳しい香りに加え、激しい息遣いが耳元で聞こえてくる。
恋歌は息を整えると、俺の目を見つめもう一度唇を重ねると、舌を滑り込ませてくる。
俺たちは激しく舌を絡めることに夢中になり、ただただお互いを求めあった。
その時──リビングのドアがガチャリと開くと帰ったと思った姉ちゃんが戻ってきた。
「壮真。聖愛がおもちゃ忘れたみたいなんだけど見なかっ……あー、邪魔しちゃったみたいだね、ごめん、ごめん。あはは」
姉ちゃんは、苦笑しながらそのままリビングのドア閉めた。
その後、三人で探し、聖愛のおもちゃを見つけると、姉ちゃんは今度こそ本当に帰っていった。
◇◇◇
夜になり、いつものように俺は恋歌と一緒に風呂に入っていた。
シャワーで、恋歌のショートボブを丁寧に洗い流す。
「恋歌。少し熱くない?大丈夫か?」
「大丈夫です。シャンプーを新しいのに変えたのですが、香り、どうですかね?」
「凄いいい匂いだよ。恋歌にあってるかも」
「本当ですか?よかったです。えへへ」
男の髪とは違う、柔らかくて色っぽい香りが、湯気とともに鼻腔を甘く支配する。
やはり女の子特有の繊細さがあるな、と、指の腹で泡を落としながら、愛らしい恋歌の髪が少し愛おしくなる。
コンディショナーを軽く流し終え、二人で湯船へと浸かる。
バスタオルで髪をまとめた恋歌が背中を俺に預け、小さくもたれかかってくる。
「壮真さん、野球部は少しお休みですよね?」
恋歌は、振り向くと上目遣いで尋ねてきた。
「うん、昨日から一週間休みになってる」
「母が、別荘へ一緒に行かないかって言ってるんですが」
「別荘?」
「はい、うちの別荘は温泉付きなんです。どうですかね?」
「温泉かぁ、お言葉に甘えて行ってみようかな」
「母に伝えておきますね。うふふ」
「わかった」
俺は後ろから恋歌を抱きしめた。
「ねえ、壮真さん。お風呂から出たら昼間の続きをしましょうね」
「昼間の続き?」
「はい!うふふ」
恋歌はお尻を俺の股間のソレに擦り付けてくる。
(……このまま寝れるわけではなさそうだ)
ゆっくり浸かった後、風呂から出て、体を拭き合うと、一糸纏わぬ姿のまま恋歌が俺の手を握り、寝室へと連れていかれた。
ベッドへ寝転ぶと、恋歌が風呂上がりでまだ火照っている二つのふくらみを俺の胸に押し付けるように抱きついてきた。
そして、深い深い口づけと銀糸の交換をすると、小さな吐息を漏らした。
まるで、昼間の続きをするように貪るように舌を絡め合わせる。
俺は二つの大きな果実を、優しく揉みしだいた。
。
「……ん……壮真さん……っ」
愛おしい恋歌を執拗に優しく愛撫し続け、お互いを激しく求め合い理性が溶け合うと、夜中まで激しく愛を確かめ合った。
気づけば朝を迎えていた……。
(……もう朝か)
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