第30話
現在の十二月二十五日。
朝、ふと目が覚めると、腕の中で恋歌がすうすうと小さな寝息を立てていた。
カーテンの隙間から差し込む冬の柔らかな光が、恋歌の白い肌を淡く照らしている。
俺は起きるまで、その愛おしい寝顔をただ静かに見つめていた。
少しすると、恋歌の長い睫毛が震え、くりくりとした大きな瞳がゆっくりと開く。
「……ん……あ……おはようございます……壮真さん……」
「おはよう。恋歌。誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。えへへ。あ、もしかして、起きてからずっと見てました?」
「うん、恋歌の可愛い寝顔だったからね」
「もうっ、恥ずかしいから寝顔を見るのは禁止です!」
恋歌はふんわりと頬を膨らませると、俺の胸に顔を埋めそのまま抱きしめてきた。
「本当に可愛かったよ」
俺は恥ずかしがる恋歌の頭を優しく撫でた。
「……そう言われると嬉しいですが、やっぱり寝顔を見られるのは恥ずかしいです」
胸元で感じる恋歌の柔らかく温かいぬくもりに、朝から幸せな気分にさせられた。
「今日は晴れて良かったね」
「水族館、楽しみです。えへへ」
恋歌が無邪気に楽しそうな笑顔を浮かべる。
今日は、前から約束してた水族館での誕生日デートだ。
「今日は俺が朝食を作るよ」
「え、いいですよ。私が作りますから」
「今日は誕生日なんだから遠慮しなくていいよ」
俺は恋歌の柔らかな唇にキスを落とした。
「……っ。う、ずるいです、その顔……お願いします」
その後、恋歌は俺が作った──お世辞にも形が良いとは言えないオムレツを『世界で一番の宝物』でも見るような愛で見つめ、小さな口で美味しそうに頬張ってくれた。
◇◇◇
朝食を終え、二人で水族館へ行く支度を整える。
玄関に現れた恋歌は、去年の誕生日と同じ、俺がプレゼントしたうさみみ付きミニリュックを背負っていた。
今日も地雷系メイクはバッチリ。頭に揺れるピンクのビッグリボン、ピンクのフレアコートを身に纏っている。
(今日も目がチカチカしそうなピンクでぶれないね。目立ちそうだな……)
「壮真さん、どうですか?」
恋歌は俺の前でくるっと一回転した。
「可愛いし、凄く似合ってるよ。」
「ありがとうございます。えへへ」
恋歌は頬を桜色に染めて、嬉しそうに少し照れ笑いをしていた。
「行こうか」
「はい!」
恋歌が勢いよく俺の腕に抱きついてくると、俺は軽く頭を撫で、歩を進める。
俺たちは、そのまま軽い足取りで水族館へと向かった。
◇◇◇
クリスマスシーズンで賑わう水族館は、無数のイルミネーションで彩られ、幻想的な世界を演出していた。
クラゲエリアに入ると、恋歌は目を輝かせた。
青い光が恋歌の黒髪を紫色に染めている。
「わあ、壮真さん、綺麗ですね」
「ミズクラゲだね」
上から覗き込むとまるで、青い光と星空が水面に映り込み、さながら異世界に迷い込んだかのような輝きだった。
恋歌は俺の腕に抱きつきながら、とてもはしゃいでいた。
次にドラム型水槽へと足を運ぶと、たくさんの種類のクラゲが漂っていた。
「ねえ壮真さん、あっちの触手が長いクラゲは?」
「アカクラゲだね。毒があるらしい」
「毒ですか……?ちょっと怖いですね」
(……怖さじゃ君も負けてないよ)
心の中でそうツッコミを入れつつ、俺たちはペンギンエリアへと移動した。
「わあー、壮真さん、見てください!可愛いですよ!」
興奮した恋歌が、抱きついている俺の腕に力を込める。
「そうだね」
(……よく見ると、意外と鋭い目つきしてるんだけどね)
水族館を一通り堪能した俺たちは、隣接する電波塔の展望台へと向かった。
予めオンラインで入場券を予約しておいたので、高速エレベーターにすんなり乗ることができた。
高速エレベーターを降りると、夕日が差し込んでいる。
展望台のガラス越しに、燃えるような朱色が街を飲み込んでいく。
その逆光を受けて、恋歌の瞳に小さな夕日が灯っているようだった。
「壮真さん、夕日が綺麗ですね」
「恋歌の方が綺麗だよ」
「急にどうしたんですか?うふふ」
頬を少し赤く染めて、恋歌は微笑みを浮かべている。
「俺も成長したんだよ」
恋歌の肩に手をやると、こちらへ引き寄せた。
「嬉しいです。えへへ」
「はい、誕生日プレゼント」
俺はポケットから指輪ケースを取り出すと、恋歌の前へと差し出した。
「指輪ですか?」
「うん、気に入ってもらえるといいけど」
俺は指輪ケースを開けて、恋歌に真ん中にピンクのハートがあしどられたオープンタイプのリングを見せた。
「こ、これは!婚約指輪ですね!凄い嬉しいです!」
「いや、普通の誕生日プレゼントだから」
「お母さんに報告しないと!」
「恋歌?聞いてる?ただの誕生日プレゼントだからね。これを婚約指輪のチョイスにする男は、なかなかいないと思うんだよね」
恋歌は俺の言葉を完全にスルーして、ピンクのリボンであしらわれたスマホでお母さんに嬉しそうに報告していた。
その後、夜景を眺めながら軽く夜のディナーと行きたかったのだが、残念ながらそんな金はないので帰路へとついた。
◇◇◇
俺は恋歌が作った晩御飯を食べ終えると、リビングのソファで寛ぎながら、誕生日ケーキを食べていた。
「壮真さん、あーん」
恋歌は自分のケーキをフォークで掬うと、俺の口に運んでくる。
「あーん」
促されるまま口を開けると、あむっと優しい甘さが広がった。
「今日は凄く楽しかったです。うふふ」
「喜んでもらえて良かったよ」
「婚約指輪も貰えましたし。えへへ」
恋歌はこれ見よがしに、指にはめた指輪を俺に見せ、うっとりしている。
「いや、だからそれは婚約指輪じゃないからね」
「壮真さん、来年の誕生日に私たち結婚できますね」
聞く耳を持たない恋歌は完全に自分の世界に入ってしまった。
(まあ、いつも自分の世界に入ってるようなものなんだけどね……)
「それはまだ早いと思うよ」
「今から式場探して予約しといた方がいいですかね?うふ」
「だから、そういうのはまだ早いから」
「そうですね。とりあえず婚姻届だけ出してからのんびり探しましょう!」
(ダメだ……全然話を聞いてくれない……)
諦めた俺はとりあえず目の前のケーキを食べることだけに集中した。
◇◇◇
ケーキを食べ終え、一緒に風呂に入ると、お互いに体を優しく丁寧に洗いあった。
風呂を出て、恋歌の体をバスタオルで優しく拭くと、お返しとばかりに俺の体を拭いてくれた。
そして、何も纏うことはなく俺たちは寝室へと向かう。
このまま大人しく寝かせてくれる恋歌ではない、ましてや今日は恋歌の誕生日だし。
「壮真さん、今日はありがとうございました」
寝室に入るや否や、恋歌は俺に抱きついてきて、そのままベッドへと雪崩れ込んだ。
「俺も楽しかったから」
「こんな幸せな誕生日が一生……ううん、死ぬまでずっと続くんですね。うふふ」
(……相変わらず言葉が重いな)
「……そうだね」
恋歌は迷うことなく俺の上に跨がると、窒息するほどの深い口づけを浴びせてきた。
絡みつく舌が俺の理性を停止させる。
俺は深い口づけを交わしながら、恋歌の豊かなふくらみを優しく揉み解す。小さな先端を指で愛でると繊細な動きで弄る。
「……あ……ん……」
恋歌が小さな吐息を漏らした。
恋歌の秘部へと、手を滑らせ小さなソレを指で優しく愛撫すると、彼女はまた艶っぽい吐息をこぼした。
「……ん……壮真さん……はあはあ……っ」
恋歌の吐息がどんどん激しくなり、ベッドのシーツが湿っていく。
「……きて……壮真さん……」
恋歌がとても愛おしくて、恋歌の上にそっと跨がった。
俺たちは意識が遠退くほど交わり、夜明けまで愛の交換を続けた。
窓から差し込む月明かりが、乱れたシーツを白く浮き上がらせる。
俺の腕の中では、恋歌が幸福そうにすうすうと寝息を立てていた。
俺は、起こさないように恋歌の頭をそっと撫でて、頬に軽い口づけをした。
(これからも、この寝顔をずっと見ていたいな)
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