第29話
一年前の十二月二十五日。
朝の冷気が布団の暖かさを際立たせる中、俺の胸に心地よい重みがかかり、天使ような声が耳に響いた。
「壮真さん、朝ですよ。起きてください。うふふ」
「……ん……朝……っ」
まだ重い瞼を開けると、恋歌が俺の胸に跨がり、天使のような微笑みを浮かべている。
「おはよう。恋歌」
「おはようございます。壮真さん」
「今日は恋歌の誕生日だね」
「はい!夜が楽しみです」
恋歌は本当に嬉しそうな顔をしてニコニコと顔を綻ばせている。
そう、今日は恋歌の誕生日。約束通り、夜はあの超高層複合ビルの展望台で、夜景を見ながらのデートだ。
「朝食の準備はできてますよ。冷めないうちに食べてくださいね」
「うん、すぐ行くよ」
「待ってます」
恋歌は俺の唇に柔らかいキスを置いて、部屋を出ていった。
朝の支度をすませてダイニングに向かうと、朝食が綺麗に並べられている。
椅子に深く腰かけると、恋歌が愛情たっぷりの、山盛りご飯がよそわれた茶碗を俺の前にそっと置いてくれた。
「ありがとう。いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
恋歌は満足気に、幸せそうに微笑みながら俺の隣に座った。
「お昼はどうする?お昼も外食にする?」
「いえ、お昼は私が作ります。外食は夜だけにしましょう」
「わかった。そうしようか」
「壮真さん、あーん」
恋歌は、、だし巻き卵を箸で摘まむと俺の口元へと運んできた。
「あーん」
俺は自然と口が開き、だし巻き卵を頬張った。
(こういう、恋歌の過剰すぎる愛情表現には、もうすっかり慣れてしまった……飼いなされてしまったと言うべきか)
「壮真さん、誕生日プレゼントなんですが外出前に、頂いてもいいですか?」
「いいけど、なんで?」
「壮真さんに頂いたリュックを背負ってデートしたいので。えへへ」
俺が誕生日プレゼントを買ったのがバレた日から恋歌はずっと上機嫌だ。
プレゼントの中身をずっと甘えて執拗に聞いてくるので、つい教えてしまった。
「あっ、そういえ義姉様からこの写真が私のスマホに。赤ちゃんが、昨日生まれたそうです」
「……無事に生まれたか」
写真には、小さな赤ちゃんを抱いている姉ちゃんの姿が写っている。
姉ちゃんはとても優しい母親の顔をしていた。
「聖愛ちゃんに早く会いたいですね」
「次の休日でも行こうか」
「はい!」
(初めての姪か……ってか、なぜ実の弟ではなく恋歌に直接報告がいくんだ)
◇◇◇
朝食を終え、食器洗いをすませると、俺は部屋に恋歌への誕生日プレゼントを取りに行った。
そして、リビングで紅茶を飲みながら寛いでる恋歌のもとへ。
「恋歌、誕生日おめでとう」
「わあ、ありがとうございます!」
誕生日プレゼントを手渡すと、恋歌はぱあっと笑顔になり、俺に抱きついてきた。
「開けていいですか?」
「うん、いいよ」
恋歌はラッピングされた包装紙を丁寧に剥がすと、中からうさみみ付きのピンクのミニリュックを取り出した。さっそくそれを背負い、くるりと回って見せた。
「どうですか?似合いますか?」
「可愛いし、凄く似合ってるよ」
(似合ってはいるのだが……これで展望台に行くのか。めっちゃ目立つな……まあ、恋歌が楽しそうならいっか)
「少し照れちゃいますね。えへへ」
「あ、そうだ。これ士門先輩からの誕生日プレゼント」
俺はラッピングされた手のひらサイズの小さな袋を恋歌の前に差し出した。
「え?絶壁先輩からですか?」
恋歌が小さな袋を受け取る。
「うん、恋歌の誕生日プレゼント選んでた時にこっそり買ってたんだって」
「そうだったんですか?今度、お礼を言わないといけませんね」
恋歌が小さな袋を丁寧に開け、中からピンクのビッグリボンバレッタを取り出した。
「わあ、可愛い」
恋歌はとても嬉しそうに笑っていた。
「良かったね」
「私、家族以外の人から誕生日プレゼント貰ったのって初めてです。えへへ」
(……なんだろう。泣きそうになってきた)
俺は涙が出そうなのを必死に堪えた。
◇◇◇
夕方になったので、俺たちはそろそろ出掛けることにした。
恋歌は地雷メイクをバッチリ決め、黒のニットワンピースの上に、うさみみ付きのピンクのボアジャケットを羽織っている。背中には俺が誕生日プレゼントであげた、うさみみ付きのピンクのミニリュック。全身ピンクのうさぎのような恋歌が玄関の前に立っている。
恋歌が俺の腕に自分だけの定位置のように抱きついてくると、俺たちは超高層複合ビルを目指し、駅へと向かう。
夜のディナーは、美味しいイタリアンのファミレスだが……誕生日ケーキ代わりにティラミスを食べて、恋歌はずっと幸せそうな笑みを浮かべていた。
そして、今日のデートのメインイベントでもある超高層複合ビルの展望台へと向かう。
高層エレベーターに乗ると、耳がキーンとしながら、あっという間に展望台へと到着した。
二人で夜景を見渡す、街の灯が星空のように光って綺麗だった。
「わあ、綺麗ですね!壮真さん!」
当然のように俺の腕を抱きしめている恋歌が、子どものように目を輝かせている。
「本当に綺麗だね」
(こういう時に、映画やドラマだと君の方が綺麗だねとか言うのだろうが、恋歌は可愛い系だしな……完全な綺麗系だと士門先輩かな?)
そんな考えを思った瞬間。──恋歌の抱きつく力が強くなり腕に豊かなふくらみを押し付け主張してきた、
「壮真さん!今、他の女の事を考えましたね!絶壁先輩ですか!」
(……エスパーかよ)
「確かにほんの一瞬だけ、士門先輩の事を考えたけど、俺の頭の中にいつもいるのは恋歌だけだよ」
「むー、そういうのはズルいですよ」
恋歌は少し頬を膨らませ、とても嬉しそうに微笑むと、俺の胸に顔を擦り寄せてきた。
俺は、愛おしくなり恋歌をそっと抱きしめた。
「誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます。これからも私の誕生日にはずっと一緒にいてくださいね」
「うん、ずっと一緒だよ」
大人のカップルが多い中で、恋歌はやっぱりかなり浮いていたが、周囲からのあの子可愛いねって声が聞こえて、かなり目立っていた。
その後、俺たちは一時間ほど夜景を楽しんでから帰路についた。
◇◇◇
家に帰ると、宅配ボックスに姉ちゃんと泰隆義兄ちゃんからの恋歌への誕生日プレゼントが入っていた。
ダンボール箱開けてみたら恋歌の誕生日プレゼントの他に大量の避妊具が入っていた。
恋歌は大量の避妊具を見ると、満面の笑みを浮かべていたが……。
(何考えてんだ……あいつら……まあ助かるけど……)
リビングで少し寛いだ後、俺たちは風呂に入ることにした。
お互いに体を優しく労るように洗い合うと、いつものように恋歌を後ろから抱きしめるように湯船に浸かった。
シャンプーと恋歌自身の甘い香りが鼻を擽ってくる。
「夜景、綺麗だったね」
「とても幸せな一日でした!」
「また一緒に行こうね」
「はい!まあ、私は壮真さんと一緒ならどこでもいいのですが」
「恋歌……愛してるよ」
俺は後ろから抱きしめている腕に、ぎゅっと優しく力を入れた。
「私の方が愛してますよ!」
(それはわかってるから……)
「だけど、ちょっと疲れたね」
「壮真さん、今夜はこれからですよ。うふふ」
恋歌はお風呂で火照った顔をさらに赤くして、恥ずかしそうに微笑んだ。
「……これから?」
「はい、夜は長いですから……お義姉様たちから大量に頂きましたし……えへへ」
(今夜も長くなりそうだな……)
風呂上がり、ベッドへ向かうなり抱きあった。そのまま倒れ伏し、どちらともなく深い口づけを交わす。
激しく舌を絡めるほどに、息をするのを忘れてしまう。離れた唇の間には、粘り気のある銀糸が愛おしく光っていた。
俺は恋歌の体をじっくり優しく愛撫すると、お互いに愛を確認するように体を重ね合った。
(結局、姉ちゃんたちのプレゼントがめっちゃ役に立ったよ……)
何度も激しく重なり合った後、俺の腕の中で恋歌が小さな寝息を立てている。
俺はその愛くるしい寝顔を、寝るまでずっと眺めていた。
(俺は、素っぴんの恋歌が一番可愛いんだけどね……)
読んでくださりありがとうございました




