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彼女の想いが重すぎる……  作者:


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第28話

一年前の十二月二十日。


いつものようにダイニングテーブルで俺は隣に座る恋歌と朝食を食べていた。


俺は味噌汁を飲み干すと、お椀と箸をテーブルへと置く。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様です。うふふ」


隣で恋歌が、綺麗に箸を揃えながらとても嬉しそうに微笑む。


その姿に安心しつつ、俺は切り出した。


「あ、今日はちょっと用事あるから出掛けるね」


「……何の用事ですか?」


ふわり、と空気が変わった。恋歌の微笑みが絶対零度に凍りつく。


「……それはちょっと言えないな」


「私に言えないこと……他の女と……会うんですか?……まさか浮気……ブツブツ」


呟く恋歌の瞳からハイライトは消え、すうっと光が失われていく。


まるで壊れたサーチライトのように完全オフ状態になってしまった。


肩をわなわなと震わせ、隣から寒気がするほどの殺気が伝わってくる。


「そ、そんなんじゃないから!」


「それなら、教えてください!どこに行くんですか!」


「とにかく、落ち着いて!浮気とかじゃない!」


「なら、私も一緒に行きます!」


「……それはちょっと無理なんだ」


青ざめた顔をした恋歌がゆっくりと立ち上がり、キッチンへ向かうと……シャリシャリという摩擦音が聞こえてくる。


(な、なんの音?)


研ぎ澄まされたキラリ、と光る包丁をゆらゆらと手にぶら下げて恋歌が戻ってきた。


「浮気ですか……確定ですね……壮真さんを殺して私も死にます……ブツブツ」


「ち、違う!本当に違うから!落ち着け!恋歌!」


誤解が深まる前に、俺は立ち上がり恋歌を抱きよせ、強引に唇を重ねた。


「俺が愛してるのは恋歌だけだ!安心して!」


「……本当ですか?」


「本当だよ」


恋歌の不安げに揺れる瞳に確信を与えるために、もう一度、深い口づけを交わす。


ようやく恋歌の表情から殺気が消え、いつもの可愛いらしい天使の笑顔に戻った。


何とか説得に成功した俺は、冷や汗を拭いながら食器を洗った。


約束の時間が近づいてきたので、俺は出掛ける準備を始める。


準備を終え、玄関で見送ってくれている恋歌を優しく抱きよせた。名残惜しそうな彼女の唇にもう一度だけ口づけを交わしてから俺は家を出た。


◇◇◇


待ち合わせ場所のファッションビル前。


人混みの中から、長い髪をなびかせ、モデル並みのスタイルをした士門先輩が一際目立ったオーラを纏って現れた。


「ごめん。待たせちゃったかな。ふふ」


士門先輩はベージュのゆったりしたパーカーにブラックジーンズという、そんないつになくカジュアルな装いで、聖母のような微笑みを浮かべて立っていた。


「いえ、俺もさっき来たところです」


「じゃあ、行こうか」


もうすぐ恋歌の誕生日なのだが、姉ちゃん以外の女性にプレゼントなんてしたことがなかった

ので、士門先輩に助っ人を頼んだのだ。


俺たちは並んで歩くと、ファッションビルの中に足を踏み入れた。


「どういうプレゼントがいいですかね」


「うーん、あのオチビちゃんは独特のファッションセンスしてるからね。これなんかはどう?」


士門先輩は、ピンクのうさみみ付きミニリュックを手に取って見せてくる。


「……可愛いとは思いますが」


(……これを着た恋歌と並んで歩くのか?……目立ちそうだな)


「あのオチビちゃんこういうの好きでしょ?」


「……まあ、そうなんですけどね」


「他にも色々と見てみましょう」


あれから色々と見たのだが、結局、最初に士門先輩が選んだピンクのうさみみ付きミニリュックを買うことにした。


一緒に選んでくれたお礼にファミレスで士門先輩に昼飯を奢り、さて帰ろうかと──ファミレスから出た瞬間。俺の血の気が一気に引いていった。


ゆらりゆらりと、陽炎のように揺れながら歩いてくる影──恋歌だ。


「嫌な予感がして、壮真さんの位置情報を辿ったのですが……まさか……絶壁マネージャーと浮気してるとは思いませんでした……ブツブツ」


「れ、恋歌!これは浮気ではない!」


「私の壮真さん、奪うなんて許しませんから」


完全に殺し屋の目をした恋歌が、士門先輩を睨みつける。


「私は別に奪ってないよ。ふふ」


(恋歌相手でも全然怯む様子はない。さすが、士門先輩)


「そうなんだよ。これにはちゃんと訳があって……」


「どんな訳があって二人でデートしてるんですか……もう肉体関係もあるとか……ブツブツ」


テレビから這いずって出てくる長い髪の女の人と、睨みあっても勝てるんじゃないかってくらい恋歌の目はイッてしまっていた。


(なぜだろう……真冬なのに汗が止まらない……)


「もう、面倒くさいから、本当のこと言っちゃおうよ。壮真くん」


「いや、それは……」


(本当のことを言ったら、恋歌へのサプライズ誕生日が無駄になってしまう)


「実はね。私たちさっきまでホテルで熱い時間を過ごしていたの。ふふ、ごめんね」


士門先輩が、この世で最も邪悪な悪戯っ子の顔で笑う。


(なんて爆弾をぶっ込んでくるんだ。この人。絶対に面白がってるだけだろ……死神が……)


「……し、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


恋歌の背後からドス黒い深淵が立ち込めて、恋歌が夜叉の姿に変貌した──ように見えた


「待て待て待て!嘘だ!士門先輩の悪い冗談だから!本当は恋歌の誕生日プレゼントを選んでただけなんだ!」


この後、必死に30分くらいかけて丁寧に説明したら恋歌は分かってくれて、一緒に帰宅した。


俺はサプライズよりも命の方を選んだ。


◇◇◇


家に帰ると、リビングのソファに深く腰かける俺の膝に、恋歌は別人のように上機嫌で跨がり、首に手を回し抱きついて甘えてきた。


「晩御飯は壮真さんが好きな煮込みハンバーグにしますね。うふふ」


「ありがとう。機嫌が良くなってほっとしたよ」


「壮真さんが最初から本当のことを言ってくれたら良かったんですよ。もう」


恋歌はぷくうっと少し頬膨らませると満面の笑みを浮かべて、俺の頬に柔らかい頬を擦り寄せてくる。


「……サプライズ的なことしたかったんだよね」


「まあ、私は壮真さんはあんな絶壁マネージャーと浮気なんてしないと信じてましたけどね」


(……信じてなかったし、完全に殺す気できてたよね)


「……信じてもらえて嬉しいよ」


「壮真さん、えへへ」


恋歌は目を瞑ると、キスをねだる仕草をする。


俺はそっと優しく恋歌の柔らかい唇に自分の唇を重ねた。


「壮真さん、そろそろお風呂に入りませんか?」


「そうだね」


「早く行きましょう。うふふ」


恋歌に手を繋がれながらそのまま風呂場へと向かうと、なすがままに服を脱がされ、隅々まで体を洗われた……。


「壮真さん、うふふ」


恋歌は狭い湯船でも、柔らかい豊かなふくらみを俺の胸に押し付けるように、ぎゅっとこれでもかと抱きついてくる。


「さすがに暑くないか?」


「え、大丈夫ですよ。それより」


恋歌は俺の顔を見つめると。また目を瞑って、キスをせがむ。


俺は恋歌の少し湿った唇に触れるだけの柔らかな口づけを交わすとぎゅっと抱きしめた。


恋歌のシャンプー香りがふわりと鼻をくすぐる。


「……壮真さん、私幸せです」


その後も恋歌は何度も口づけをせがみ、深い口づけを交わすと舌を滑り込ませ絡めてきた。息もできないほど唾液の交換を続けると、最後に小さな吐息を漏らした。


(……のぼせそうなんだけど)


◇◇◇


晩御飯の恋歌が作った煮込みハンバーグの余韻に浸りながら少し寛いだ後、俺はベッドへと向かった。


しばらくして、恋歌がやってくると当然のように俺の隣に入り込み、その胸に抱きついてきた。


「壮真さん、私、誕生日が楽しみです。えへへ」


恋歌は小さな子どものように目を爛々とさせている。


「サプライズは無くなったけどね」


「壮真さんに祝ってもらえるだけで幸せですから」


恋歌は、本当に幸せそうに満面の笑みを浮かべていた。


「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ」


俺は恋歌の頭を優しく撫でると、恋歌は嬉しそうに微笑む。


「壮真さん、愛してます。うふふ」


恋歌はチュッと俺の頬にキスをすると、俺の胸を枕にしてそのまますやすやと眠りについた。


(胸の中の恋歌は軽いけれど、愛は重いな……)

読んでくださりありがとうございました

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