第22話
風呂上がりのさっぱりした身体をリビングのソファに沈める──盗聴器のモヤモヤはまだ残っていたが。そんな俺を癒すように、恋歌が手際よくケーキをテーブルに運んできてくれた。
彼女特製の晩御飯でお腹はいっぱいだが、甘いものは別腹だ。
「壮真さんのお誕生日をお祝いするのは二回目ですね。うふふ」
丁寧にナイフでカットされたケーキが、俺の前に置かれる。
「ありがとう、恋歌」
「来年は18歳です! 『結婚』できますね。うふふ」
──17歳の誕生日。恋歌の瞳は、もうずっと先の未来を見据えている。
(俺の未来は彼女の中で確定事項なのか……)
「……そ、そうだね」
「壮真さん、あーん」
恋歌は俺のケーキをフォークで一口サイズに掬うと、口元に運んできた。
俺は目の前のケーキを頬張った。
「美味しい」
「喜んでもらえて、よかったです。うふふ」
「恋歌も食べて」
俺は恋歌のケーキをフォークで掬うと、恋歌の口元へと運んだ。
恋歌は小さい口を大きく開けて、ケーキを頬張った。
「私、幸せです。えへへ。」
恋歌は俺の腕に柔らかな弾力を押し付けてくると、俺の肩に頭を乗せてきた。
左手で恋歌の頭を優しく撫でる。
「あ、これ、誕生日プレゼントです」
恋歌は、満面の笑みを浮かべながら、ピンクの包装で綺麗にラッピングされた棒状の包みを差し出してきた。
「ありがとう。開けていい?」
「どうぞ、どうぞ。うふふ」
包みを開けると、光沢のある鮮やかなイエローのシリコン──それは、どう見てもバナナを模した冒涜的な造形物だった。
「えっ……なにこれ……?!」
「男性用貞操帯です。鍵は私が管理しますね。うふふ」
恋歌はまるで春の陽だまりのような満面の笑みを浮かべ。濁りのない真っ直ぐな瞳で俺を見つめてくる。
「え、なんのために?」
「『宝物』」を他の女から守るためです!特にあの牛乳クソストーカー女から!」
「いや、そんなの絶対に必要ないから!大丈夫だから!」
「壮真さんは浮気したいのですか?」
「いやしたくないし!しないから!」
「なら、付けれますよね!!!」
(……なぜそうなる)
◇◇◇
恋歌を何とか説得して貞操帯を装備するのは回避できた。あんなの付けてたら、野球できないし……。
ピンクのパジャマ姿の恋歌がソファに座る俺の膝の上にまたがり、ぎゅっと抱きついている。
俺は甘い香りを漂わせた恋歌の細い腰に両手を回し、優しくそっと抱きよせた。
「壮真さん、もっと強く抱きしめてください」
俺は腰に回した両手に少し力を込めた。
「やっぱり貞操帯を付けてくれませんか?」
「さっき話したろ。無理だから」
「むう、なら、私の想い(重い)を壮真さんに刷り込みます」
恋歌がそっと目を閉じる。
俺は恋歌の柔らかい唇に自分の唇をそっと重ねて、舌を滑り込ませると、お互いを激しく求め合うように絡み合わせた。
先ほど食べた、甘いクリームの香りが口の中いっぱいに広がる。
「……なんか、去年を思い出すな」
「……そうですね。うふふ」
もう一度、唇を重ね、絡みつく舌をさらに深く吸い上げる。
長いキスが終わると、恋歌の吐息が荒くなり、目をとろんとさせている。
「……恋歌、愛してるよ」
「……私の方が愛してますよ」
恋歌は唇を重ねてくると、舌を絡めながら、俺の股間のソレをジャージの上から弄ってくる。
ジャージ越しに伝わる彼女の指先の熱に、俺の理性が音を立てて軋み始めた。
抗えない衝動に俺は恋歌のパジャマのボタンに手を掛けた、ゆっくりと脱がすと、透き通るような白い肌と豊かに実った果実が顔を出した。
慈しむように優しく揉みしだくと、小さな先端を指で弄ぶ。
そして、小さな先端を口に含むと、舌で転がした。
「……ん……あ……っ」
恋歌が小さな吐息を漏らすと、パンツの中に手を滑り込ませ、すでに熱く大きくなっている俺のソレを優しく握って手を激しく動かす。
俺は対抗するように、恋歌のショーツの中へと手を滑り込ませると、恋歌のソレを指で優しく弄る。
「……ん……そ、壮真さん……来て……っ」
俺はジャージを脱ぐと、恋歌の熱に飲み込まれていく……。
俺たちはベッドに行くのも忘れ、ソファの上で何度も体を重ね合い、その愛を確認した。
◇◇◇
翌朝。心地よい重みと柔らかな感触で目が覚めた。どうやら俺たちは、そのままソファで眠ってしまったらしい。
「……ん……あ、おはようございます。壮真さん」
「おはよう。恋歌」
どちらからともなく、俺たちは唇を重ねた。
恋歌はまだ眠い目を擦りながら、起き上がって、とろりとした表情のまま、ふらふらと朝食の支度を始めた。
俺は目を覚ますためシャワーを浴びに風呂場に向かう。
風呂から戻ると、いつものように、美味しそうな香りが漂い、ダイニングテーブルには朝食が並べられていた。
「いただきます」
俺は手を合わせ、箸を進めた。
「壮真さん、貞操帯のことなのですが」
「それ、無しになったよね」
「……チッ」
──鼓膜を、わずかに鋭い摩擦音が叩いた。
(は?今、完全に舌打ちしたよね。っていうか、朝の爽やかな食卓でする話じゃないよね)
「それより、恋歌、盗聴器のことなんだけど?」
「あ、壮真さん、はい、卵焼きですよ。あーん」
会話を遮るように、恋歌が卵焼きを俺の口の中に無理やり押し込んできた。
「……うぐっ」
俺は口の中の卵焼きを咀嚼した。
「どうですか?うふふ」
「……美味しいよ。それよりも盗聴器はもう外してるよね?」
「もう一口どうぞ。あーん」
再度、会話を遮るように、卵焼きを俺の口元に運んでくる。
「聞いてる?恋歌」
俺は目の前の卵焼きにかぶりついた。
「──その話はもう終わりにしましょう。そんなどうでもいいことよりも今日は、朝練がありませんから一緒に登校できますね。うふふ」
切り替えの早さに驚く間も無く、恋歌が満面の笑みを浮かべる。
(どうでもよくはないんだけど……)
「……そうだね」
俺は焼き鮭を箸で解して摘まむと、隣に座る恋歌の口へと運んだ。
小さな口で鮭を頬張る恋歌。
「ありがとうございます。うふふ」
朝食を終え、俺たちは学校へ向かうため、駅へと向かった。
相変わらず恋歌は、これでもかとばかりに豊かな胸の感触を腕に押し付け、ぴったりと抱きついてくる。
(歩きにくいんだけど……まあ、悪い気はしないけど)
◇◇◇
教室に入ると、珍しく真剣な表情の秀樹が俺の席へと近づいてきた。
秀樹の隣になぜか高畑さんがいそいそと付いてきている。
「おはよう。壮真。大事な話があるんだ」
「おはよう。朝からどうした?」
「俺と高畑さん──いや、麗華と付き合うことになった」
秀樹の隣で立っている高畑さんが頬を少し赤く染めている。
「おー、おめでとう」
「……士門先輩のことを相談してるうちに仲良くなってさ、まあ、結局、あのお方とは相性が悪かったというか、噛み合わなかったんだよな。ははっ」
(相性が悪いというより、全面的にお前が悪かっただけだけどな)
「まあ、気付いて良かったよ。お幸せに」
「ありがとうな。お前と小鳥遊さんみたいになれるように頑張るよ」
(目指すところを間違えてるぞ)
「まあ、ほどほどにな。高畑さんもおめでとう」
「ありがとう。あはは」
秀樹が去っていくと、高畑さんはチラリとこちら様子を伺ってから慌てて秀樹の後を追った。
(まあ、お似合いのカップルかな……)
◇◇◇
放課後。練習を終え、帰路につくと、リビングで恋歌がソファで眠っていた。
よほど疲れているのだろう。恋歌はすうすうと小動物のような小さな寝息を立てている。
俺は彼女を起こさないように、そっと足音を忍ばせてブランケットを持ってきた。
無防備な寝顔を刺激しないように、優しくその体に恋歌にそっとかける。
そして、彼女の柔らかい頬にそっとキスをした。
いつも頑張ってくれている彼女へのささやかなお礼を込めて、俺は音を立てないようにキッチンへと向かった。
(たまには俺が晩飯を作るか)
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