第20話
野球部の練習を終え、俺は猪鹿川さんと秀樹と一緒に電車で揺られながら、『はあ』とひとつ溜め息をついた。
今朝の事があったので家に帰りたくない……。
俺はスマホの画面に目をやる。
許さない許さない許さない許さない
許さない許さない許さない許さない
許さない許さない許さない許さない
許さない許さない許さない許さない
許さない許さない許さない許さない
許さない許さない許さない許さない
許さない許さない
恋歌からの怨念のこもったメッセージの無数の連打。
(完全に怒ってるな……)
「溜め息なんかついて、どうしたんだ?壮真」
「なあ、今日、お前の家に泊めてくれない?」
「え?何だよ。急に」
秀樹は驚いて目を丸くしている。
──『ブルッ』
そのタイミングでLIMEの通知音が鳴った。
画面に目を通すと、恋歌からの『どこかの家に泊まったら絶対に許しません』というメッセージだった。
俺は急いでキョロキョロと辺りを見渡した。
(傍で見てるわけじゃないよな……)
「あ、悪い、今の話は無しで」
「いいのか?」
秀樹は不思議そうな顔をしていた。
「あ、あの、私の家なら泊まっても大丈夫ですよ。へへへ」
猪鹿川さんは耳まで真っ赤にして、物凄く照れている。
(君は俺に地獄行きの列車に乗れと言うのか?)
──『ブルッ』
またしても死の宣告。
再びスマホを確認すると『もし、牛乳クソ女の家に泊まったら、ソウマさんをコロして、私も死にます』との文字。
俺は首がもげんばかりの勢いで、再び車内を見渡した。
(近くにいないよね……?)
「さっきからキョロキョロしてどうしたんだよ?壮真」
「……いや、何でもない」
背中に嫌な汗が伝う。刺すような視線は感じるが、どこにいるのか全く分からない。
「うちに来ますか?山口先輩」
追い打ちをかけるように猪鹿川さんが身を乗り出してきた。
「今日は遠慮しとくよ……」
(……俺はまだ生きていたいんだ)
「そ、そうですか、いつでも泊めますので言ってくださいね」
猪鹿川さんは手で顔を覆い、顔から湯気が出そうなほど真っ赤にして照れている。
それと同時に、電車の揺れに合わせて、彼女の胸にある二つの熟れすぎた果実が、凄まじい破壊力を伴ってぷるんと弾んだ。
──『ブルッ』
三たび鳴り響くバイブレーション。
恐る恐る画面を確認すると──『牛乳クソ女の胸を見るのは止めてください。万死に値します』という恋歌からのメッセージが……。
(絶対に、この電車に潜んでいるだろこれ……っ!?)
◇◇◇
駅前の店で買った恋歌の好きなパンケーキ。それを入れた紙袋を手にぶら下げ、俺は恐怖に震える足を必死に制御ながら帰路についた。
いや、帰路につかざるを得なかった。
──玄関を開けようとした、その瞬間。
背後から、凍りつくような声がかけられた。
「今、帰りですか?偶然ですね。うふふ」
(……恋歌、やっぱりストーキングされてたか……全くどこにいるのか分からなかった……ヒットマンかよ……恐ろしい)
「何してるのですか?家に入りましょう」
恋歌は張り付いたような笑みを浮かべ、俺の腕に豊かな感触をこれでもかと押し付けてきた。
(あれ?意外と機嫌直って……)
「あ、壮真さんは牛乳クソ女の胸の方がお好きでしたね。うふふ」
恋歌の甘い香りが、いつもの安心感ではなく、死の匂いのように感じられる。
(直ってるわけないか……)
「れ、恋歌の好きなパンケーキ買ってきたんだ」
「ありがとうございます。でも、パンケーキで許されるなんて思ってませんよね。うふふ」
「…………」
(この場から逃げ出したい……っ!)
「今日はお風呂は後にして、先に晩御飯にしましょう」
「は、はい……」
家に入ると、ピンクのマイエプロンを揺らし、鼻歌混じりに包丁を振るう恋歌。だが、その包丁さばきはいつもより明らかに力が入っている。サーロインがまるで敵でも刻むかのように次々とぶつ切りされていく。
(……いや、その作り笑いがめちゃめちゃ怖いんですけど、俺もぶつ切りにされたりしないよね!?)
晩御飯の支度が終わり、ダイニングテーブルにはバター醤油風味の分厚いサーロインステーキやコーンクリームスープ、デザートにはレモンシャーベットが並べられていた。
(……俺の最後の晩餐じゃないよね)
「何をしてるのですか?冷めないうちにお召し上がりください」
恋歌の目の奥には、俺の命を吸い込みそうな暗黒の闇が広がっていた。
(毒が盛ってあるとかないよね……?)
俺は意を決して、カタカタ震える手でサーロインステーキを一口食べた。
「……美味しい」
「壮真さんは牛がお好きみたいなので、少し奮発しました。うふふ」
(なんだろ、恐怖のせいか、味がしなくなってきた……)
「まさか、私を捨てて、牛乳クソ女を選ぶとは思ってもいませんでした」
恋歌は少し眉をひそめ、声のトーンは急降下し、瞳の光は完全に消えた。
「ち、違うだ。別に恋歌を捨てたわけでも、猪鹿川さんを選んだわけでもない」
「でも、牛乳クソ女を背負って逃げましたよね」
恋歌は殺気のこもった瞳で俺を睨み付けてきた。
「あ、あれはああするしかないかと……」
俺は思わず蚊の鳴くような声になってしまった。
「もっと大きな声で言ってくれないと聞こえませんよ」
「す、すみません」
「私、傷つきました。まさか壮真さんが私を裏切るなんて……」
「ごめんなさい!俺が悪かった!許してくれ!」
俺は椅子から立ち上がると、滑り込むように恋歌の足元で土下座をした。
「お食事中ですよ。椅子に座ってください」
「は、はい」
「壮真さん、食べてください。お食事が止まってますよ」
(君の圧が怖くて、全然、味がしないんだよ……っ)
この地獄の晩餐は一時間ほど続いた。俺は何を食べたのさえ覚えていなかった。
◇◇◇
晩御飯を食べ終えた後、リビングで小一時間ほど、恋歌に正座をさせられながら説教をされた。
その後、いつものように一緒に風呂へ入る。
「はい、ここも洗ってあげますね」
いつものように俺の股間のソレを洗ってるのだが、明らかに洗っている手つきではない。強弱をつけながら絶妙にソレを攻めてくる。
「あら?いつもより元気になるのが早いですね」
絶妙な攻めを執拗に繰り返してくる恋歌。
「…………」
(マズい、これ以上は……我慢できない)
「あ、ダメですよ。うふふ」
恋歌は手の動き止め、悪戯っほい笑みを浮かべながら見つめてくる。
「今度は胸で洗ってあげますね。立ってください」
(ある意味、もう、すでに立っているが……)
恋歌は豊かで柔らかいふくらみの間で俺のそれを挟むと、上下にゆっくり動かし出した。
「綺麗にしてあげますね。うふふ」
明らかに洗っているそれとは違い、執拗に俺のソレを刺激してくる。我慢の限界から膝がカタカタと笑っていた。
(う、今度こそ、もう、我慢できない)
「あ、ダメですよ。壮真さん」
恋歌は動きを止め俺のそれを解放した。
二時間ほど、この攻防が続き、結局、俺のそれは風呂を出るまで成長したままだった。
◇◇◇
風呂から出た後、寝室に向かいベッドで一緒に寝ていた、俺のソレもやっとクールダウンしたのだが……。
隣に寝ていた恋歌が唇を重ねてくると、舌をねじり込んできた。
そして、舌を絡めながら、俺のパンツの中に手を滑り込ませてくると、俺のソレを掌で優しく握ってきた。
恋歌の手は、まるで精巧な装置を扱うように、俺のソレを容赦なく弄んでいく。
クールダウンしていた俺のソレは、彼女の執拗な愛撫によっていとも簡単に熱を帯びていき、はち切れんばかりに膨張を始めた。
「……牛乳クソ女を助けた。お仕置きです。うふふ」
耳元で囁かれた甘い毒。
彼女の指が、再び俺の理性を無慈悲に削り取っていく。
朦朧とする意識の中で、俺は半分諦めにも似た心地よい絶望に身を委ねた。
このお仕置きは毎晩三日ほど続いた。
(……まあ、命は助かったから良いか)
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